実践!失語症のリハビリテーション
−症例から学ぶ訓練プランの組み立て方−

中川良尚(江戸川病院リハビリテーション科言語聴覚専門科長)
佐野洋子(江戸川病院リハビリテーション科顧問)
船山道隆(足利赤十字病院神経精神科部長)

2022年発行 B5判 136頁
定価(本体価格3,500円+税)消費税10%込(3,850円)
ISBN 9784880021188

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内容の説明

新しい失語症タイプ分類を提唱し、これまでの臨床経験にもとづいた各失語症状の捉え方、言語訓練プラン立案の考え方をわかりやすくまとめました。
解説の随所にポイントや著者の見解、注意点を網羅。目の前の失語症者に今どのような訓練や支援が必要なのか、立ち止まって考えたい時に参考となる1冊です。

 本邦における失語症に対する言語訓練は,1960年初頭に米国でリハビリテーション学や言語病理学を学んだ少数の指導者が帰国したことから始まりました。そして1960年代後半に,本格的リハビリテーション病院が国内に2~3施設オープンしました。
 そのうちの1つが伊豆韮山温泉病院でした。この病院の2代目の院長であった長谷川恒雄先生が,病院のメインテーマに失語症を据え,1969年にわが国の失語症にかかわる最高の英知を集めた「韮山カンファレンス」,別名「失語症研究会」という研究会を創設しました。この組織のもとで,失語症に関する研究や検査法の開発(現在の標準失語症検査SLTA)が開始されました。
 また,失語症者へのリハビリテーションを,米国から帰国されたばかりの竹田契一先生を中心に展開し,その理想像を追い求めました。同時に,多くの言語聴覚士の養成と研究活動を行いました。リハビリテーションに携わる言語聴覚士には,失語症者一人ひとりの人格に向き合い,温かい訓練場面を作り,かつ可能な限りのエビデンスを科学的に求めながら訓練法の開発を行うことが求められました。そしてここからは多数の指導者を輩出することになりました。
 「韮山カンファレンス(失語症研究会)」は後に「日本失語症学会」となり,現在の「日本高次脳機能障害学会」へと発展していきました。伊豆韮山温泉病院で育てられた失語症のリハビリテーションの体系は,当時同病院で仕事をしていた加藤正弘先生(現 社会福祉法人仁生社理事長・江戸川病院名誉院長,元 日本高次脳機能障害学会理事長)の指導のもと,1983年から社会福祉法人仁生社江戸川病院にも引き継がれました。
 江戸川病院における失語症者のリハビリテーションでは,失語症者とその家族を心理的社会的にしっかり支えながら,穏やかな雰囲気の中で,科学的にもまた経験的にも妥当と思われる言語訓練を行い,同時に研究活動も鋭意行ってきました。そしてできるだけ長期間言語訓練を行い,「失語症とはどのようなメカニズムで起きる障害で」「どのような経過をたどるのか」「どのような訓練や支援がいつどこで必要か」などを失語症者から学び,これを多くの失語症者に還元するよう努めました。
 そしてこの40年近い日々に,多くの失語症者から学ばせていただいた知見を,次世代の言語聴覚士の方々に伝えていきたいというのが,私たちの願いでもありました。
 このたび,長年蓄積してきた言語訓練の内容や経過,訓練プランの組み立て方に関する知見を出版という形で,言語聴覚士に提供できることになりました。(株)新興医学出版社林峰子社長,編集を担当された岡崎真子氏には大変お世話になりました。心から厚く御礼申し上げます。
 また,たくさんの失語症者とその家族の方々から,症状変遷の記載や,その症状の映像搭載について,即座に気持ちよくご了解をいただきました。言葉にできないほどの感謝の気持ちでいっぱいです。現在これらの記録や映像をもとに,言語訓練経過をタイプ別にまとめた症例集を出版準備中です。失語症者と言語聴覚士とのやりとりやその経過から,本書で述べた考え方がより深く理解できると思います。ぜひあわせてご参照ください。
 なお,下記の言語聴覚士の諸氏が,部分執筆,データの整理や校正などに大変尽力をされました。特に笹嶋侑子氏と近藤郁江氏の協力なしには,本書の完成には至らなかったことは間違いありません。ここに記して,謝意を申し上げたいと思います。

笹嶋 侑子 (現 江戸川病院リハビリテーション科言語室)
近藤 郁江 (現 江戸川病院リハビリテーション科言語室)
原  未来 (現 江戸川病院リハビリテーション科言語室)
木下 結理 (現 江戸川病院リハビリテーション科言語室)
北條 具仁 (元 江戸川病院リハビリテーション科言語室,現 国立障害者リハビリテーションセンター病院 リハビリテーション部門言語聴覚療法)
木嶋 幸子 (元 江戸川病院リハビリテーション科言語室,現 株式会社在宅支援総合ケアサービス 稲毛駅前訪問看護ステーション)
岩佐香菜美 (元 江戸川病院リハビリテーション科言語室,現 株式会社言語生活サポートセンター)
中村菜都美 (元 江戸川病院リハビリテーション科言語室,現 国立病院機構東京病院リハビリテーション科)

 多くの方々のご協力のもとに本書を世に送り出すことができました。
 この本が,失語症の臨床現場で,何かしらお役に立つことを心から願っています。
 ここからがまた新たな始まりです。

 2021年12月

中川 良尚
佐野 洋子
船山 道隆

おもな目次

第Ⅰ章 失語症言語訓練の概要
 ❶ 失語症の言語機能回復訓練立案のための基礎知識
 ❷ 失語症の長期経過

第Ⅱ章 訓練時の注意点と手順の概要
 ❶ 失語症言語訓練の展開に関する注意点と手順の概要
 ❷ 失語症の周辺症状の鑑別診断
 ❸ 語聾症状・発語失行

第Ⅲ章 訓練の実際(1) 各失語症状に対する言語訓練
 ❶ 意味理解障害に対する検査と訓練法
 ❷ 音韻処理機能障害に対する検査と訓練法
 ❸ 表出の障害に対する検査と訓練法

第Ⅳ章 訓練の実際(2) 失語症タイプ別言語訓練
 ❶ 失語症タイプ別言語訓練を行うにあたって
 ❷ 非流暢性失語症(発語失行あり+意味理解障害あり)
 ❸ 流暢性失語症(発語失行なし+意味理解障害著明)
 ❹ 流暢性失語症(発語失行なし+意味理解障害軽度)
 ❺ 流暢性失語症(発語失行なし+意味理解良好)
 ❻ 特殊型

付録「失語症ドリル改訂版」課題見本