ビギナーの安心・実践 ステップ式認知症処方
宮永和夫(南魚沼市立ゆきぐに大和病院・院長):著
2013年発行 B6変型判 140頁
定価(本体価格1,800円+税)
ISBN9784880021775

その他執筆者など▼
内容の説明▼

認知症ビギナー必携 名医が教える控えめな薬物療法を実践しよう。

本書は、認知症の認知機能障害やBPSDに対し、診療現場でまず最初に処方している薬剤を3つのステップでまとめたものです。認知症の患者さんには、まずは的確なケアが優先されます。どうしても困ったときのために、名医の控えめな処方を学びませんか。
著者の長年の経験に基づいた処方の秘訣が随所にちりばめられています。
ステップ式で非常にわかりやすいです。
認知症をこれから学ぶ若手医師、身体疾患を主に診ているかかりつけ医の先生にぜひお勧めいたします。

はじめに

 いままでにも精神科疾患に使用する薬剤を詳細に記載した専門書は多々ありました。しかし,実際に精神科医として臨床経験を積まないとわからないことも多いのです。内科や外科専門医がイコール精神科専門医でないことは言うまでもありません。たとえれば,認知症専門医の筆者が,がん患者の訴えを聞いただけで,がん治療の専門書に書かれた薬剤を処方するようなものです。実際は,選択すべき薬剤の種類もわからず,途方に暮れるだけでなにもできないと思います。
 筆者自身のこれまでを振り返ると,薬物治療の手順に科学的な根拠は少なく,大部分が経験のように思います。また,その経験も,歴代の教授や先輩の処方をまねて患者さんに薬剤を投与し,そのようすを観察するという日々のくり返しで,効果がないことにがっかりしたり,予想しない副作用に悩むことも多々ありました。
 現在の認知症患者は400万人を超え,ますます増加する傾向にありますが,誰が対応をすべきなのでしょうか。筆者は,生活習慣病などの基礎疾患を診ている,かかりつけ医が主治医になるべきだろうと思っています。認知症は認知機能の障害,BPSD(認知症の心理・行動症状),身体症状の3つに区分できますが,決して独立して存在するわけではありません。かかりつけ医は身体症状だけでなく,必然的に認知機能障害とBPSDも治療しなければなりません。
 本書は,筆者らが認知機能障害やBPSDなどに対して,診療場面で最初に処方している薬剤をまとめたものです。したがって,エビデンスに基づくものというより,私的な経験に基づいたものが大部分です。しかし,筆者らが実際に臨床で使用した範囲では,目立った副作用もなく,BPSDも改善する例が多数ありました。そのため,認知症のBPSDになじみが少ない,かかりつけ医の先生方の認知症治療の第一歩として,筆者が教授や先輩の処方をまねたように,ぜひ本書の処方をまねて,その改善の有無を確かめていただきたいと思っています。
 ただし,本書にある処方のみですべての症状が改善することもないと思っています。そのためには,さらに難治例に対応するために「上級編」が必要なのかもしれませんが,まだ書いておりません。当面は,症状が改善しないときは迷わずに認知症専門医に紹介することで問題を解決していただきたいと思っています。
 本書の出版にあたり,当院メモリークリニックに関係するスタッフの協力を得ました。とくに,処方ポイントは当院精神科部長 米村公江氏に,ケアポイントは当院認知症看護認定看護師 岡村真由美氏にそれぞれアドバイスを受けました。
 ここに感謝の意を表したい。

2013年秋
宮永和夫

おもな目次▼

本書の使い方
1.妄想
2.幻聴 
3.認知症状を伴う幻視
4.意識障害を伴う幻視
5.幻臭・幻味
6.体に感じる幻覚・妄想
7.興奮
8.暴力・暴言・破壊・叫声
9.大声
10.うつ病・うつ状態
11.アパシー(意欲低下・無関心)
12.妄想を伴ううつ状態
13.パニック発作がみられる不安・焦燥
14.パニック発作がない過度の緊張・焦燥
15.多幸
16.衝動行為(反社会的なもの) 
17.衝動行為(反道徳的なもの) 
18.万引き・窃盗
19.性的逸脱行為
20.易刺激性・易怒
21.情緒不安定
22.徘徊・迷子
23.意識障害による行動障害
24.周徊・固執
25.興奮・焦燥・夕暮れ症候群
26.急性期のせん妄
27.早期に鎮静が必要なせん妄
28.遷延化したせん妄
29.過食
30.異食
31.小食・拒食
32.入眠障害
33.睡眠薬の使用が困難な睡眠障害
34.熟眠障害・中途覚醒・早朝覚醒
35.過眠傾向
36.むずむず脚症候群
37.レム睡眠行動障害
38.嚥下障害
39.便秘
40.記憶障害(軽度)
41.記憶障害(中度~重度)
42.注意障害
43.遂行機能障害

付 録
製品の作用と副作用
Basic Knowledge
 1.アルツハイマー型認知症(Alzheimer Disease:AD) 
 2.血管性認知症(Vascular Dementia:VaD)
 3.レビー小体型認知症(Dementia with Lewy Body:DLB)
 4.前頭側頭葉変性症(Frontotempolar lobular Degeneration:FTLD) 
Advanced Knowledge
 1.鑑別すべき疾患
 2.適用外処方とされている薬剤の扱い
 3.臨床心理検査
 4.妄想の種類
 5.心気症状
 6.幻覚
 7.うつ状態

 索引