統合失調症の臨床病理

熊倉伸宏:著

2017年発行 B6判 188頁
定価(本体価格2,800円+税)
9784880021973

内容の説明

非自発的治療、向精神薬の非告知投薬のもたらすもの、インフォームド・コンセントと代理判断。臨床家なら誰もが抱く統合失調症をとりまく諸問題を取り上げる。

この本を手にされた方に

 妄想を語る患者が治療者に問う。
 「先生は,私を信じてくれないのですか」
 当惑する精神科医。当然のことながら,患者の妄想的な言動をそのまま,治療者は肯定できない。しかし,患者の必死の語りを不用意に否定もできない。放置もできない。患者の言葉の「神秘」に翻弄されて治療者は答えに惑う。
 妄想は「了解不能」といわれる。妄想は人と社会,患者と治療者との間で,「現実」を共有することを困難にする。しかし,この時,本当は何が起きているのか。患者は何を語り,治療者は何を見ているのか。了解不能性とは,本当は,何を意味するのか。  了解不能な処にこそ,人間の故郷が在る。そこにこそ人間がいる。
 妄想の語りには,最も人間的な「何か」が伏せられている。人類史が始まって以来,問われ続けた永劫回帰する問。「人間についての問」。人知を超えた矛盾に満ちた問。答えるのが不可能な問。その問の存在を臨床家は多くの痛みによって知る。そして,臨床家は自分こそが「問われる存在」だったと気付く。こうして,「不可能な知」が開示される。人間は不可能を生きる怪物なのだと知る。
 本書では,私がそう考えるに至った臨床体験を報告する。
 この意味で,本書は臨床人間学の実践技法論の書である。

2016年7月7日

筆者

おもな目次

第一部 統合失調症との出会い

第二部 症例研究
  第1章 症例ハル
  第2章 症例アキ
  第3章 「真実」を求めて

第三部 臨床病理学の諸問題
  第1章 「父なるもの」と「母なるもの」の病理
  第2章 英雄オデュッセウスの「真意」
  第3章 裁判官は腹話術師,患者は人形
  第4章 イフォームド・コンセントの臨床言語学

第四部 統合失調症の臨床病理学
  1.「人間」との出会い
  2.臨床精神医学の誕生
  3.「現実」とは何か
  4.「否定」の彼岸について
  5.「了解不能なもの」とは何か
  6.「否定」の歴史的展望
  7.「否定」の意味
  8.精神疾患の臨床病理学

おわりに
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