レジリエンスを引き出す心療内科漢方入門

筒井末春(東邦大学・人間総合科学大学 名誉教授)・芝山幸久(芝山内科 院長):著

2017年発行 B6判 112頁
定価(本体価格2,000円+税)
9784880024097

内容の説明

病を防ぎ、病から回復する力を意味する「レジリエンス」に着目し、レジリエンス機能を高め、機能性身体症候群に立ち向かう方法を漢方医学の観点から解説した。

はじめに

 アントノフスキーは健康状態を導く原因に着目し、これにより健康状態を手に入れることをサルトジェネーシス(salutogenesis)と名付け、この名称は健康生成論として知られている。
 ポジティブ心理学はセリグマンらによって発展したもので、個人の主観的ウェルビーイングと生活の質(QOL)の向上を目指して、人間本来の営みを最大限発揮させるための心理学である。人間の持っている優れた面やよい部分についての研究や、その人の持つ美徳や素晴らしさの存在を前提とした学問領域であり、従来の心理学が「病理モデル」の研究であるのに対して、「幸福モデル」への新しいアプローチとして注目されている。
 これらの立場は疾病予防にも、また健康障害因子の軽減や個人の健康促進・維持にも役立つものといえる。
 さらに心理学のみならず臨床医学の領域において台頭したレジリエンスの研究は、精神医学領域で積み上げられている。病気をしてから健康のありがたさに気付く以前に、自ら日常生活の点検(食事、睡眠、運動、ストレス解消、リラクゼーションなど)に努めることは有意義であるものの、必ずしも実践されているわけではない。
 そこでこの際、人生に付きまとう困難な状況を乗り越える術として導入すべきレジリエンスに注目してみたい。
 レジリエンス研究はストレスを脆弱性モデルとしてではなく、生物・心理・社会面を含めた疾病防御回復論として捉えており、疾病予防、心身健康維持・増進、QOLの向上に資するものとして検討する意義があると考える。今回、漢方治療を軸に自然治癒力を重視した立場からレジリエンスに光をあて、心療内科で取り扱うことの多い不定愁訴を初めとする機能性身体症候群(functional somatic syndrome:FSS)を主体に臨床現場における患者─医師関係という医療の原点である課題をクローズアップし、漢方療法との兼ね合いについて言及した。
 現代医学は科学の発達により科学的根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)が重視されるなかで、心理・社会的側面にも配慮した診療(心身医療)も普及しつつある。心身医学をベースに発達した心療内科では、本来身体疾患を軸とした心身医療の場として位置付けされ、EBMはもちろんのこと物語りに基づく医療(narrative-based medicine:NBM)も不可欠な領域といえる。現実に心療内科を受診するケースは多彩であるが、生活習慣病の一部を除くFSSに含まれる疾患が多く、これらのなかにはプラセボが反応しやすいケースも少なくない。また、ガイドラインをみると、いずれも患者─医師関係の重要性が指摘されている。
 本書を通じてレジリエンスを取り入れた漢方治療の意義と重要性を理解し、さらに今後レジリエンスに目を向けた漢方治療の実践に少しでも近づくことができれば、著者の望外の喜びである。
 また、本書のSECTION6では、心療内科における漢方処方の実際として、実地診療を長年手掛けている芝山幸久先生(内科・心療内科で開業中)に漢方薬の位置付けや実際に使用したケースについて、御自身の切り口から漢方薬にメスを入れていただいた。

2017年9月

東邦大学名誉教授 / 人間総合科学大学名誉教授
筒井末春

おもな目次

SECTION 1 レジリエンスを学ぶ (筒井末春)
① レジリエンスの歴史
② レジリエンスの定義
③ レジリエンスの研究と概念
a. 研究対象
b. 概念
c. レジリエンスの心理社会的側面
d. レジリエンスの科学
① 神経生物学的側面
② 遺伝的因子

SECTION 2 漢方への誘い (筒井末春)
① 漢方の基本
a. 未病とは
② 漢方による診断手順
a. 全身状態
① 証(虚実)の判定
② 四診
③ 陰陽の評価
b. 病態評価
① 気血水理論
② 五臓論
③ 証の把握が治療への早道
④ 漢方の登場と普及
⑤ 漢方薬便用上の注意

SECTION 3 レジリエンスからみた漢方治療 (筒井末春)
① 受診者の構え方
② 養生とレジリエンス
③ 治療プロセスで介在するレジリエンス
④ 自然治癒とレジリエンス
⑤ プラセボ効果とレジリエンス
⑥ レジリエンス機能を発揮するには?その鍛え方、育て方
⑦ 気血水からみたレジリエンス機能

SECTION 4 心療内科と漢方 (筒井末春)
① 東洋医学と心身医学
② ストレス関連疾患と健康管理
③ 望ましい患者─医師関係と医原性因子
④ ストレス社会からみた漢方
⑤ 漢方薬と抗ストレス作用

SECTION 5 心療内科で扱うことの多い機能性疾患と漢方薬 (筒井末春)
① 心療内科で扱うことの多い機能性疾患
a. 不定愁訴、MUS、FSS
② 機能性身体症候群(FSS)に含まれる重要な疾患
a. 機能性ディスペプシア(FD)
b. 過敏性腸症候群(IBS)
c. 緊張型頭痛(tension-type headache)
d. 慢性疲労症候群(CFS)
e. 線維筋痛症(FM)
f. 咽喉頭異常感症
g. 顎関節症(temporomandibular disorder)
③ そのほか心身医学的に頻度の高い重要な機能性疾患
a. 片頭痛(migraine)
b. 更年期障害
c. 起立性調節障害(OD)
④ 科学的根拠に基づく医療(EBM)からみて有用な漢方薬と機能性疾患
a. 機能性ディスペプシア(FD)
b. 過敏性腸症候群(IBS)
c. 慢性頭痛(片頭痛および緊張型頭痛)
d. 更年期障害
e. 起立性調節障害(OD)

SECTION 6 心療内科における漢方処方の実際 (芝山幸久)
① 食わず嫌い
② 漢方薬との出会い
③ 漢方手帳を片手に
④ 患者さんとの二人三脚とレジリエンス
⑤ 西洋薬と漢方薬の合わせ技
⑥ 使える西洋薬がなくなって困ったときの知恵
⑦ 漢方薬への偏見を覆す出来事
⑧ 驚くべき芍薬甘草湯  の効果の早さ
⑨ 「症状が気にならない」を目標に
⑩ 心療内科と漢方薬のファジーな関係
⑪ 西洋薬から漢方薬への切り替え
⑫ 不定愁訴という的に矢を射る
⑬ お年寄りのお守り代わり
⑭ 体質と相性のよい漢方で健康維持
⑮ 思わぬ症状に漢方の効果
⑯ 漢方薬の魅力に気付いて

索引

※本書で記載されているエキス製剤の番号は、株式会社ツムラの製品番号に準じています。番号や用法・用量は、販売会社により異なる場合がございますので、必ずご確認ください。