センプク漢方セミナー 長沢道寿「増補能毒」
古典的要点に学ぶ151生薬

 千福 貞博 (センプククリニック院長)

2020年発行 B6判 162頁 2色刷
定価(本体価格3,400円+税)
ISBN 9784880025933

内容の説明

現代につながる処方-古典に学ぶ漢方の知恵

長沢道寿の『増補能毒』は経験に基づいた、現代にも通じる漢方処方が記されている古典的名著です。読みにくいと思われる古典を著者がわかりやすく読み解いていきます。難しいと思われがちな漢方の古典ですが、漢方処方に対する道寿の熱い思いが伝わってくるような1冊です。ワンポイントアドバイスも面白い。

はじめに

 「漢方の古典を原文で読んでみたい」,これは漢方を勉強すると誰もが思うことです.しかし,読み始めてみるとさまざまな困難にぶち当たります.まず,読み方の基本である「返り点」などの漢文を復習すること,これは当然で,我慢ができます.しかし,文章の意味が頭に入ってこないのです.そこで,その理由を挙げながら,長沢道寿『増補能毒』で今回私が行った4つの解決策を紹介します.

(1)文章には句読点がまったくない状態で延々と続いていきますこのためどこで区切られているのかがわからず主語と述語の関係がよくわからない状態になっているからなのです (この文のような形です).このために,古典は「也」や「不可」という漢字と,「ソ(=ゾ)」というカナで文末をわかるようにしています.逆に,増補能毒では文頭を明瞭にすべく,「私曰く」で開始されることが多いことにも気づきました.そこで,これらを利用して可能な限り句読点を打ちました.
(2)漢字ノ間ニカタカナガ詰マッテイマス.コノ文章ハトテモ読ミニクイノデ,頭ニ入ラナイノデス.戦後生まれにはカタカナ混じり文は読みにくいものです.そこで,意を決し,全文を漢字・カタカナのままMicrosoft Wordに入力し,変換機能でカタカナを平仮名にしてみました.こうすると,嘘のように内容が頭に入り始めました.(この作業中,原文中にカタカナの「ネ」が存在しないことが不思議でした.これは「子」と表記されていたのです.十二支で考えるとわかると思います.しかし,「子」を「ね」に一括変換すると,Childの「子」まで「ね」になり失敗となりました)
(3)これたけでさへかうして読みにくいのに,くはへて古典仮名遣ひに慣れていないから,なんくわいなのです.古典仮名遣いを,できるだけ現代仮名遣いに変えていきました.
(4)最後の難関:「合字」.高等教育の古典で「合字」は必須項目にすべきだと思います.原文にはカタカナの「メ」のようなのですが,右下が出ていない「」が何度も登場します.当初は「でたらメ」と,冗談のようなあだ名を付けていましたが,ある日,これが合字と判明し「シテ」と読むとわかりました.以後,読解が一気にはかどりました.「」などの合字は「合字リスト」を作成しましたので参考にしてください(合字と解明されるまではEdgar Allan Poeの「黄金虫」を読むような感じで,暗号解読はそれで面白かったのですが,漢方学習には「時間の無駄」でした).

合字リスト(カタカナ)
合字 意味 読み
   カタカナの「シ」と「テ」の合字  して
   カタカナの「コ」と「ト」の合字  こと
   片仮名の「ト」と「モ」の合字   とも

 さて,以上の作業を行うと,ほとんどの文章が読解可能となっていきます.そうすると,今度は文章のつながりに「接続詞」が少なく,読者に不親切な文章だと感じました.接続詞を省略した理由は版木・紙代の節約のためと考えられます.今回,節約は適当にして,理解を容易にするため接続詞を入れることにしました.ただし,これは誤って挿入している可能性もあるので,私が付記したのが解るように,できるだけ英語で挿入することにしました(日本語で挿入したときは自信あり).
 ちなみに,接続詞挿入の作業をしていくうちに,道寿の文章の癖である「私曰く」と「私に云う」の違いが理解できるようになりました.先述したように「私曰く」は文頭を示す「マーク」であることが多いのですが,文中に突然登場する「私に云う」は,直前にある専門用語に対して,“(But, )in my opinion, …”という感じで道寿自身の意見を示すことが多いようです.(ただし,逆もあります)
 さらに,道寿の癖というか,彼の文章術は現代にも通用する学術論文のスタイルを持っています.すなわち,以下に示す4つの特徴があります.
(1)生薬のポイントを「目付」・「目の付け所」という言葉で示しています.
(2)必要な所には「箇条書き」を取り入れて,ポイントを要約しています.
(箇条書きの所は①②などと番号を私が勝手に挿入しています)
(3)文末の「ぞ」は「…と考えられるのだよ」,と彼の「考察」を明示しています.
(4)原典や人名を明示し,引用文献の所在を明瞭にしています.
 なお,文中の登場人物については,本書巻末に人名用語解説を設けましたので参考にしてください.
 この4つの特徴をふまえて増補能毒を読むと,道寿が論理的思考の持ち主であると同時に,読者に意味内容を明解に示そうとする教育者としての姿もみえてきます.実際,読んでいると,いつの間にか道寿が傍にいて,語りかけてくれていることに気づきます.増補能毒は決して古くさい書物(学問)ではありません.経験による知恵であり,現代でも十分に有意義です.本書によって,各漢方薬における生薬の位置づけが腑に落ちるはずです.なお,追加で私なりの解説を「ワンポイントアドバイス」に記載しています.ご一読賜れば幸いです.

2020年11月 千福貞博

【使用書籍:長沢道寿編『東洋医学古典復刻叢書‒1 増補能毒』自然社,1984年】

『増補能毒』を著した長沢道寿は江戸時代の医師(生年不詳~1637)で,土佐で山内一豊に仕えます.彼は当然,薬に詳しく次のように「土佐向」なる言葉があります.
「長沢道寿は土佐に居(を)れり.世人称して土佐の道寿と呼ぶ.道寿,病を療するに薬物の上品を択(えら)み用ゆ.故に,今に土佐の医は薬の上品に非ざれば用いず.是れを以て,薬店に『上人参』を以て『土佐向』と号す.極品なり.」(和語本草綱目 岡本一抱)

おもな目次

 はじめに
 本書の使い方
生薬名は1984年復刻版に準じ広益本草大成を参考としています.
印はツムラ使用生薬を示しますが,漢字表記や名称が現在と異なっている場合もあります.

巻之上
上1 人参(にんじん)
上2 甘草(かんぞう)
上3 黄耆(おうぎ)
上4 羌活(きょうかつ)
上5 獨活(どっかつ)
上6 黄芩(おうごん)
上7 柴胡(さいこ)
上8 芍薬(しゃくやく)
上9 白朮(びゃくじゅつ)
上10 蒼朮(そうじゅつ)
上11 茯苓(ぶくりょう)
上12 茯神(ぶくじん)
上13 前胡(ぜんこ)
上14 升麻(しょうま)
上15 川芎(せんきゅう)
上16 当帰(とうき)
上17 生地黃(しょうじおう)
上18 熟地黃(じゅくじおう)
上19 陳皮(ちんぴ)
上20 肉桂(にっけい)
上21 厚朴(こうぼく)
上22 枳殼(きこく)
上23 枳実(きじつ)
上24 山梔子(さんしし)
上25 竹葉(ちくよう)
上26 竹瀝(ちくれき)
上27 竹茹(ちくじょ)
上28 生姜(しょうきょう)
上29 乾姜(かんきょう)
上30 麦門冬(ばくもんどう)
上31 五味子(ごみし)
上32 附子(ぶし)
上33 香仁(きょうにん)
上34 大黃(だいおう)
上35 活蔞実(かろじつ)
上36 活蔞根(かろこん)
上37 香附子(こうぶし)
上38 防風(ぼうふう)
上39 桔梗(ききょう)
上40 藁本(こうぼん)
上41 木香(もっこう)
上42 我朮(がじゅつ)
上43 肉豆蔲(にくずく)
上44 茴香(ういきょう)
巻之中
中1 半夏(はんげ)
中2 細辛(さいしん)
中3 呉茱萸(ごしゅゆ)
中4 猪苓(ちょれい)
中5 澤瀉(たくしゃ)
中6 白芷(びゃくし)
中7 菊花(きっか)
中8 麻黄(まおう)
中9 荊芥(けいがい)
中10 薄荷(はっか)
中11 紫蘇(しそ)
中12 紫蘇子(しそし)
中13 葛根(かっこん)
中14 黃連(おうれん)
中15 黄柏(おうばく)
中16 知毋(ちも)
中17 連翹(れんぎょう)
中18 貝毋(ばいも)
中19 桃仁(とうにん)
中20 牛膝(ごしつ)
中21 防已(ぼうい)
中22 木通(もくつう)
中23 車前子(しゃぜんし)
中24 句麦子(くばくし)
中25 葵子(きし)
中26 紅花(こうか)
中27 馬鞭草(ばべんそう)
中28 天南星(てんなんしょう)
中29 薏苡仁(よくいにん)
中30 縮砂(しゅくしゃ)
中31 檳榔子(びんろうじ)
中32 神麯(しんきく)
中33 麦芽(ばくげ)
中34 阿膠(あきょう)
中35 桑白皮(そうはくひ)
中36 青皮(しょうひ)
中37 石膏(せっこう)
中38 霍香(かっこう)
中39 木瓜(もっか)
中40 遠志(おんじ)
中41 山楂子(さんざし)
中42 三稜(さんりょう)
中43 鼈甲(べっこう)
中44 常山(じょうざん)
中45 杜仲(とちゅう)
中46 大腹皮(だいふくひ)
中47 龍胆(りゅうたん)
中48 地骨皮(じこっぴ)
中49 滑石(かっせき)
中50 牽牛子(けんごし)
中51 訶子(かし)
中52 苦棟根(くれんこん)
中53 烏薬(うやく)
中54 犀角(さいかく)
中55 龍骨(りゅうこつ)
中56 辰砂(しんしゃ)
巻之下
下1 天門冬(てんもんどう)
下2 沙参(しゃじん)
下3 地楡(じゆ)
下4 秦艽(じんぎょう)
下5 牡丹(ぼたん)
下6 白豆蔲(びゃくずく)
下7 続断(ぞくだん)
下8 款冬花(かんとうか)
下9 大戟(たいげき)
下10 苦参(くじん)
下11 延胡索(えんごさく)
下12 蛇床子(じゃしょうし)
下13 草豆蒄(そうずく)
下14 茵蔯蒿(いんちんこう)
下15 益母草(やくもそう)
下16 旋覆花(せんぷくか)
下17 紫菀(しおん)
下18 地膚子(じふし)
下19 藜蘆(りろ)
下20 燈心草(とうしんそう)
下21 王不留行(おうふるぎょう)
下22 葶藶(ていれき)
下23 青黛(せいたい)
下24 白芥子(びゃくがいし)
下25 蒺莉(しつり)
下26 商陸(しょうりく)
下27 甘遂(かんすい)
下28 続随子(ぞくずいし)
下29 射干(やかん)
下30 玄参(げんじん)
下31 豨薟(きれん)
下32 澤漆(たくしつ)
下33 香薷(こうじゅ)
下34 菟絲子(としし)
下35 山薬(さんやく)
下36 澤蘭(たくらん)
下37 天麻(てんま)
下38 蓽茇(ひはつ)
下39 蘆薈(ろかい)
下40 胡黃連(こおうれん)
下41 威霊仙(いれいせん)
下42 槐実(かいじつ)
下43 五加皮(ごかひ)
下44 蔓荊子(まんけいし)
下45 沈香(じんこう)
下46 檀香(だんこう)
下47 蕪荑(ぶい)
下48 山茱萸(さんしゅゆ)
下49 巴豆(はず)
下50 郁李仁(いくりにん)
下51 蘇木(そぼく)
人名・用語解説
別表1.甘草を含有する漢方薬・含有しない漢方薬
別表2.生薬索引
コーヒー・ブレーク 1.
コーヒー・ブレーク 2.
最後に
索引