睡眠検査学の基礎と臨床 
松浦 雅人 編著

2009年発行 B5判 278頁
定価(本体価格5,900円+税)
ISBN9784880026923

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内容の説明▼
(序文より)

現代はかつてなかったほど睡眠に対する関心が高くなっています。長時間労働や交代制勤務が常態化し、テレビの深夜放送やインターネットが普及するなど、現代人の生活様式が慢性的に睡眠を犠牲にする社会となってためと思われます。厚労省の調査によると5人に1人が睡眠に関する悩みを抱え、睡眠不足社会は居眠りによる運転事故や災害事故などの大きな問題を惹起しています。さまざまな睡眠障害が増え、2005年には睡眠障害の国際分類が改訂されましたが、実に90以上もの診断名が記載されています。かつては不眠と過眠、そして睡眠時随伴症が問題でしたが、その後睡眠覚醒リズム障害が加わりました。地球の反対側にある国に十数時間のうちに移動し、脳や身体が夜と感じている時間帯に活動しなければならないなどのジェット・ラグ症候群は、人類の進化上で想定外の事態でありましょう。
近年の脳科学や生体計測技術の進歩は、われわれの睡眠への理解を深めました。睡眠は単に脳が活動を停止しているのではなく、記憶の整理、細胞の修復、免疫力の回復などの重要な機能をもつことが認識されました。睡眠中の生体計測技術の歴史はさほど古いものではなく、1924年にハンス・ベルガーがヒトの脳波を発見したことから、睡眠中の脳機能の計測が可能となりました。当初はアーチファクトではないかと疑いの目で見られていましたが、1933年に著名な生理学者エイドリアンが追試・確認してから、一気に睡眠の右派の研究が進みました。次のステップは、1952年にシカゴ大学のクレイトマン教授が大学院生のアゼリンスキーに終夜にわたって眼球運動を観察するように命じ、偶然にレム睡眠が発見されたことです。当初はあまり注目されず、他の研究室から追試研究が報告されたのは6年後でした。同じ1953年にワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発表し、ただちに世界中の注目を浴びたのとは大きな違いです。しかし、その後の睡眠解析技術の進歩はめざましく、睡眠中の生体計測の精密化、効率化、普遍化が実現され、睡眠に関する分子生物学的研究の進歩とともに睡眠医療が大きく発展しました。
本書はこれから睡眠検査に従事しようとする臨床検査技師や若手医師、睡眠研究を始めようとする若手研究者を対象に企画されました。睡眠検査法の実際、睡眠障害診断と治療における睡眠検査の意義、睡眠検査の医療や健康科学への応用などについて、それぞれの専門家に執筆していただきました。最近の生体計測技術や長時間モニタリング技術の進歩、あるいは終夜睡眠ポリグラフや睡眠脳波・事象関連電位なお睡眠検査のトピックスについて簡潔に解説されていますので、睡眠検査や睡眠研究のエキスパートにも是非通読していただきたいと考えています。日常の臨床や研究に有用な記述を随所に発見できるのではないかと思います。
おもな目次▼
I.睡眠検査学の概念
1.睡眠検査学の歴史(松浦雅人)
2.動物の睡眠検査(睡眠覚醒調節機構、睡眠障害と動物モデル)(本田和樹)
3.創薬と睡眠検査(睡眠の創薬、新規標的分子)(奥山 茂)
4.薬物と睡眠検査(各種薬物の睡眠への影響)(山寺博史)
5.睡眠不足・断眠と睡眠検査(田ヶ谷浩邦)
6.記憶と学習と睡眠検査(記憶、認知学習と睡眠)(西多昌規)
7.夢研究と睡眠検査(鈴木博之)
8.スポーツ科学と睡眠検査(内田 直)
9.睡眠障害と時計遺伝子(山本拓郎)
10.臨床検査技師の役割(伊藤朝雄ほか)

II.睡眠検査学の実際
A.睡眠ポリグラフ検査(PSG)
1.睡眠検査に必要なMEの基礎(伊賀富栄)
2.各種トランスジューサの原理(末長和栄)
3.PSG検査の実際(難波一義)
4.PSG報告書作成の実際(小林美奈ほか)
5.PSG記録のアーチファクト─アーチファクトの種類と対策(川名ふさ江)
6.PSGの危機管理(野田明子ほか)
7-1.睡眠脳波判定法(新生児・乳児・幼児・傷痍の睡眠脳波)(石郷景子)
7-2.睡眠脳波判定法(睡眠脳波判定法)(高齢者の睡眠脳波)(室田亜希子ほか)
8.CAP(cyclic alternating pattern)判定法(八木朝子)
9.簡易PSG(パルスオキシメーター、ホーム・モニタリングの適応と限界)(藤田志保)
10.CPAP、BiPAPタイトレーション(杉田淑子ほか)
11.食道内圧モニタリング(千葉伸太郎)
B.その他の睡眠関連検査
1.質問紙法(睡眠健康、睡眠習慣、睡眠覚醒リズム、眠気)(駒田陽子)
2.睡眠日誌(sleep diary)(白川修一郎ほか)
3.MSLTの施行・判定法と臨床応用(笹井妙子ほか)
4.MWT、OSLER TEST(有竹清夏)
5.行動ロガー測定法(アクチグラフ)(榎本みのり)
6.セファログラム(對木 悟)
7.鼻腔通気度検査法(耳鼻科疾患と睡眠検査)(長谷川誠)
8.血中ホルモン測定(三島和夫)
9.自律神経活動(心拍変動、循環器疾患と睡眠検査)(川良徳弘)
10.誘発電位・事象関連電位(睡眠とVEP、SEP、ABR、MMN、P300、N400)(太田克也)
11.睡眠の研究法─ヒトの眠りを測る(中島 亨ほか)

III.睡眠検査学の臨床(ISCD-2に準拠)
1.不眠症(上埜高志)
2-1.小児睡眠呼吸障害(長谷川毅)
2-2.成人の睡眠関連呼吸障害(佐藤 誠)
コラム:複合性睡眠時無呼吸症候群(飯野弘子)
3.過眠症と睡眠検査(本多 真)
4.概日リズム睡眠障害と睡眠検査(碓氷 章)
5-1.ノンレム睡眠時随伴症(錯乱覚醒、睡眠時遊行症、睡眠時驚愕症)(武村尊生ほか)
5-2.レム睡眠時随伴症(レム睡眠行動障害、反復孤発性睡眠麻痺、悪夢障害)(金野倫子ほか)
6.睡眠関連運動障害(平田幸一ほか)
7.睡眠てんかん(原 恵子)
8.歯科疾患(いびき、歯ぎしり、医科と歯科の連携)(佐藤光生)
9.精神疾患(気分障害、統合失調症、PTSD)(金 圭子)