内科医のための訴訟事例から学ぶ日常診療のクリティカルポイント-外来・刑事責任編-
日山 亨・日山恵美・吉原正治:編著
2010年発行 B5判 144頁
定価(本体価格3,200円+税)
ISBN9784880027074

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内容の説明▼
(序文より)
 医療をめぐる環境は、近年、激動しているといってよいであろう。特にこの10年間に、医療現場における事件・事故の報道は日本中に「医療不信」の風を巻き起こし、その後、医師不足が顕在化し、医師の過労死が問題となるような「医療崩壊」の時を経て、現在は「医療再生」に向けての取組みがなされる時代となってきている。医師の数や業務分担のあり方についても話題となっているが、医療が患者と医療従事者の協同で出来上がるものであるという視点からも、関係者のコミュニケーションと連携が必須であり、とりわけわれわれ医師の立場からみて、医師・患者間の信頼が医療再生の基本となる。本書は、まさに医師・患者間の信頼を取り戻し、より良い医療につなげ、そして医療を再生させるための礎となるものであろう。
 患者との信頼感構築のために、どのようなことが患者との争いになり、そしてその状況で医師はどのように対応すべきであったか、すなわち、不信を招くような状況にならないためのポイントを正確に把握することは、われわれ医師にとって必須の知識であろう。本書は、これまでの医師・患者間の争いの最たる状況である訴訟事例を簡潔に紹介し、そして、臨床医および法律関係者の視線もあわせながら、臨床現場でのクリティカルポイントを考えるものであり,日々の診療に多いに役立つものではなかろうか。
 判決文というとかた苦しいイメージがあるが、本書では、1事例ずつコンパクトに、かつ、コンサイスにまとめてあり、忙しい臨床の合間を縫っても読める構成となっている。多くの医師に本書を手に取って読んでいただき、患者とともに医療従事者をも苦しめる医療事故・トラブルが減少することにつながることを心より期待している。
おもな目次▼

第 1 部 近年の医療訴訟にみられる傾向

第 2 部 外来編
1.中枢・末梢神経疾患
【ケース 1-1】
 精神疾患を疑い精神科に紹介した患者が,実はヘルペス脳炎であり,重篤な後遺症を残した事例
(名古屋地裁平成 19 年 4 月 26 日判決,判例時報 2014 号 109 ページ)
【ケース 1-2】
 感冒と診断し治療した患者が,実はヘルペス脳炎であり,重度の後遺症を残した事例
(大阪高裁平成 9 年 9 月 19 日判決,判例時報 1630 号 66 ページ)
【ケース 1-3】
 発熱,嘔吐を訴えた小学生の,総合医療機関への転送時期が問題となった事例
(最高裁平成 15 年 11 月 11 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 1-4】
 酔って自宅の階段から転落した患者が,救急外来を受診し帰宅した後,硬膜下血腫などにより死亡した事例
(神戸地裁明石支部平成 2 年 10 月 8 日判決,判例時報 1394 号 128 ページ)
【ケース 1-5】
 頭痛,嘔吐を訴え頭部 CT では異常がないと判断された患者が,帰宅後くも膜下出血により死亡した事例
(名古屋高裁平成 14 年 10 月 31 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 1-6】
 当直時間帯に頭蓋内出血が疑われた患児を脳外科へ紹介した際の,紹介内容などが問題とされた事例
(大阪高裁平成 8 年 9 月 10 日判決,判例タイムズ 937 号 220 ページ)
【ケース 1-7】
 手首からの採血時に橈骨神経損傷を生じた事例
(福岡地裁小倉支部平成 14 年 7 月 9 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 1-8】
 注射針刺入時鋭い痛みのあった部位に再度刺入されたため,反射性交感神経性異栄養症を生じた事例
(大阪地裁平成 10 年 12 月 2 日判決,判例時報 1693 号 105 ページ)
2.呼吸器疾患
【ケース 2-1】
 ポンタールやピリン系の薬剤で呼吸困難になったことがあるが,アスピリンは構わないと伝えてきた患者に対し,バファリン(アスピリン)を処方したところ,喘息重積発作を生じ死亡した事例
(松山地裁今治支部平成 3 年 2 月 5 日判決,判例タイムズ 752 号 212 ページ)
【ケース 2-2】
 感冒に対する投薬後に顆粒球減少症をきたし,死亡した事例
(最高裁平成 9 年 2 月 25 日判決,裁判所ホームページ判例検索・判例時報 1598 号 70 ページ)
【ケース 2-3】
 肺結核に対するエタンブトールを投与中に視力低下を認め,その後失明した事例
(神戸地裁平成 3 年 4 月 22 日判決,判例タイムズ 770 号 236 ページ)
【ケース 2-4】
 肺癌手術の既往歴があり,発熱,咳が持続していた患者が,肺アスペルギルス症により死亡した事例
(さいたま地裁平成 13 年 9 月 26 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 2-5】
 胸部 X 線検査を含む健康診断受診後に,肺癌により死亡した事例
(札幌地裁平成 14 年 3 月 14 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 2-6】
 健診における胸部 X 線の異常陰影の見落としにより肺癌の発見が遅れ,手術を受け再発・転移はないものの,死への不安や恐怖の程度が高まったとして損害賠償が認められた事例
(東京地裁平成 18 年 4 月 26 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 2-7】
 健康診断結果の入力ミスにより,肺癌の発見が遅れた事例
(仙台地裁平成 18 年 1 月 26 日判決,判例時報 1939 号 92 ページ)
3.循環器疾患
【ケース 3-1】
 発熱,咳,血痰を訴えた患者を感冒と診断し治療したが,実は急性心筋炎であり,診察後 2 日目に死亡した事例
(東京地裁平成 10 年 11 月 6 日判決,判例時報 1698 号 98 ページ)
【ケース 3-2】
 上背部痛および心窩部痛を訴えた患者が,点滴開始直後に急変した事例
(最高裁平成 12 年 9 月 22 日判決,裁判所ホームページ判例検索・判例時報 1728 号 31 ページ)
【ケース 3-3】
 胸痛の原因を肋間神経痛疑いと診断し治療した患者が,実は虚血性心疾患であり,翌日死亡した事例
(大阪地裁平成 7 年 9 月 4 日判決,判例タイムズ 914 号 234 ページ)
【ケース 3-4】
 心臓疾患に対する投薬内容を変更した直後,患者が急変した事例
(神戸地裁平成 8 年 7 月 8 日判決,判例時報 1626 号 106 ページ)
【ケース 3-5】
 自分の症状を正確に認識せず入院を拒否しているうっ血性心不全の患者が,突然死した事例
(東京地裁平成 18 年 10 月 18 日判決,判例時報 1982 号 102 ページ)
【ケース 3-6】
 急性アルコール中毒の治療をし帰宅させた大学生が,帰宅直後に死亡した事例
(高松高裁平成 18 年 9 月 15 日判決,判例時報 1981 号 40 ページ)
4.消化器疾患
【ケース 4-1】
 嘔吐,発熱に対して鎮痛・解熱薬を注射し内服薬を処方し帰宅させた患者が,自室アパートで死亡していた事例
(福岡高裁平成 14 年 8 月 29 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-2】
 胃内視鏡検査時のキシロカインの投与量が問題となった事例
(東京高裁平成 6 年 10 月 20 日判決,判例時報 1534 号 42 ページ)
【ケース 4-3】
 胃内視鏡検査の前投薬薬剤投与後ショック状態となり死亡,前投薬薬剤に関するインフォームド・コンセントなどが問題とされた事例
(福岡地裁小倉支部平成 15 年 1 月 9 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-4】
 胃内視鏡検査の前処置のキシロカイン投与により,アナフィラキシーショックを起こして死亡した事例
(福岡高裁平成 17 年 12 月 15 日判決,判例時報 1943 号 33 ページ)
【ケース 4-5】
 睡眠導入薬を使用した胃内視鏡検査後,自動車運転中に交通事故を起こした事例
(神戸地裁平成 14 年 6 月 21 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-6】
 内視鏡的異物除去が成功せず,緊急開腹手術となった事例
(東京地裁平成 14 年 4 月 26 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-7】
 胃内視鏡検査を受け,心配はいらないと説明を受けた 3 カ月後に,スキルス胃癌と診断され死亡した事例
(最高裁平成 16 年 1 月 15 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-8】
 腹痛を訴えた患者が,外来診察の翌日急死した事例
(東京地裁平成 7 年 3 月 23 日判決,判例時報 1556 号 99 ページ)
【ケース 4-9】
 注腸造影検査の際に,膣にバリウムが 2 回注入された事例
(東京地裁平成 14 年 2 月 20 日判決,東京・大阪医療訴訟研究会編『医療訴訟ケースファイル vol.1』(判例タイムズ社,平成 17 年刊),364 ページ)
【ケース 4-10】
 便潜血反応陽性のため受けた注腸造影検査で異常所見なしとされたが,その約 11 カ月後に大腸癌・肝転移により死亡した事例
(大阪高裁平成 12 年 2 月 25 日判決,判例タイムズ 1041 号 227 ページ)
【ケース 4-11】
 腹膜炎の既往のある患者の大腸内視鏡検査時に大腸穿孔を生じた事例
(岡山地裁平成 15 年 4 月 2 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 4-12】
 日帰りでの大腸内視鏡的ポリペクトミー後の療養方法の指導,説明が問題となった事例
(大阪地裁平成 10 年 9 月 22 日判決,判例時報 1690 号 94 ページ)
【ケース 4-13】
 脳血管障害に対する薬剤投与開始約 1 カ月後に,薬剤性急性肝炎を発症した事例
(東京地裁平成 9 年 11 月 26 日判決,判例時報 1645 号 82 ページ)
5.代謝疾患
【ケース 5-1】
 腹痛,悪心を訴えた高校生が,診察の翌日,糖尿病性昏睡により死亡した事例
(広島地裁尾道支部平成元年 5 月 25 日判決,判例時報 1338 号 127 ページ)
6.腎疾患
【ケース 6-1】
 長期血液透析を必要とする腎不全患者が,精神疾患があることを理由に透析導入されず,死亡した事例
(福岡高裁平成 9 年 9 月 19 日判決,判例タイムズ 974 号 174 ページ)
【ケース 6-2】
 紫斑病性腎炎として治療していた 20 歳代の若年患者が,腎癌で死亡した事例
(松山地裁平成 10 年 3 月 25 日判決,判例タイムズ 1008 号 204 ページ)
7.整形外科疾患
【ケース 7-1】
 肩こりに対して行った麻酔薬の局所投与後,患者が急変した事例
(大津地裁平成 8 年 9 月 9 日判決,判例タイムズ 933 号 195 ページ)
8.皮膚科疾患
【ケース8-1】
 せつ腫症,痒疹に対するステロイドの投与方法が問題となった事例
(札幌地裁平成 14 年 12 月 24 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 8-2】
 小児に対して禁忌とされている抗菌薬を小児に投与し,3 年間にわたり皮疹が出現している事例
(福岡地裁平成 17 年 1 月 14 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
9.産婦人科疾患
【ケース 9-1】
 吐き気を訴えた若年女性が,X 線検査や投薬後に妊娠と判明し,胎児への悪影響を恐れて人工妊娠中絶した事例
(大阪地裁平成 14 年 9 月 25 日判決,東京・大阪医療訴訟研究会編『医療訴訟ケースファイル vol.1』(判例タイムズ社,平成 17 年刊),233 ページ)
【ケース 9-2】
 下腹部痛を訴えて救急外来を受診した患者が,長時間痛みを味わわされたと訴えた事例
(岐阜地裁平成 14 年 5 月 30 日,裁判所ホームページ判例検索)
10.耳鼻咽喉科疾患
【ケース 10-1】
 急性咽頭炎として点滴中容態が急変し,死亡した事例
(東京地裁平成 14 年 3 月 18 日判決,判例タイムズ 1139 号 207 ページ)
【ケース 10-2】
 前頸部腫瘤の診断の遅れが問題とされた事例
(東京地裁昭和 58 年 2 月 17 日判決,判例時報 1070 号 56 ページ)
11.泌尿器科疾患
【ケース 11-1】
 小学 2 年の男児が,精索捻転症により,左精巣摘出手術が必要となった事例
(名古屋地裁平成 12 年 9 月 18 日判決,判例タイムズ 1110 号 186 ページ)
12.その他
【ケース 12-1】
 医院でデイケアを受けていた高齢者が,医院の送迎バスを降りた直後に転倒し骨折,その後肺炎を併発し死亡した事例
(東京地裁平成 15 年 3 月 20 日判決,判例時報 1840 号 20 ページ)
【ケース 12-2】
 採血後の血腫予防のための指示内容が問題とされた事例
(東京地裁平成 19 年 5 月 31 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 12-3】
 造影 CT 検査の造影剤によるアナフィラキシー様ショックで死亡した事故に際し,検査前の問診内容が問題とされた事例
(東京地裁平成 15 年 4 月 25 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 12-4】
 病院の医療事故調査報告・説明の内容が問題とされた事例
(京都地裁平成 17 年 7 月 12 日判決,裁判所ホームページ判例検索)
【ケース 12-5】
 献血の際の試験採血により神経障害を生じたことを理由に,過大な要求がなされた事例
(大阪地裁平成 8 年 6 月 28 日判決,判例時報 1595 号 106 ページ)

第 3 部 刑事責任編
【ケース 1】
 経鼻胃管を気管支内に誤挿入し,腸管洗浄液を注入したため,患者が呼吸不全で死亡した事例
(水沢簡略式平成 13 年 12 月 11 日,飯田英男著『刑事医療過誤Ⅱ[増補版]』(判例タイムズ社,平成 19 年刊),567 ページ)
【ケース 2】
 ヘパリン加生理食塩水がセラチア菌に汚染され,入院患者 12 名に敗血症が生じ,6 名が死亡した事例
(東京簡略式平成 16 年 4 月 16 日,飯田英男著『刑事医療過誤Ⅱ[増補版]』(判例タイムズ社,平成 19 年刊),899 ページ)
【ケース 3】
 抗癌薬の過量投与により,患者が死亡した事例
(最高裁平成 17 年 11 月 15 日決定,飯田英男著『刑事医療過誤Ⅱ[増補版]』(判例タイムズ社,平成 19 年刊),123 ページ・刑集 59 巻 9 号 1558 ページ)
【ケース 4】
 小腸狭窄に対するステント留置術に固執,その後,患者が汎発性腹膜炎を発症し死亡した事例
(高松地裁平成 17 年 5 月 13 日判決, 飯田英男著『刑事医療過誤Ⅱ[増補版]』(判例タイムズ社,平成 19 年刊),455 ページ)

Q&A
Q 医師の行政処分はどうなっている?
Q 患者に生じた検査や治療の合併症は,すべて病院(医師)側の責任?
Q 個別検診と集団検診で,X 線写真の読影の過失判断に差はある?
Q 癌の見落としは末期の癌になるほど,損害賠償額が高くなる?
Q 訴訟の場面で院内マニュアルがあることの意味は?
Q インフォームド・コンセントの際,特に気をつけることは?
Q すべきことをしなかった(不作為)ことと結果との因果関係は?
Q いわゆるクレーマー患者が刑事責任を問われた事例はある