脳波所見をどう読むか 92症例の臨床現場から
東間正人(公立能登総合病院精神センター部長):著
2010年発行 B5判 144頁
定価(本体価格4,800円+税)
ISBN 9784880027081

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内容の説明▼

 脳波になじみがなく、敬遠しがちな若手医師、医学生、そして他の医療従事者の方々に、脳波が臨床上重要な検査であることを再認識してもらい、いくつかのポイントさえおさえれば、判読も決して難しくないとわかってもらうことを目的に本書を書いた。
 本書は、新興医学出版社の医学雑誌「Modern Physician」に『カンタンにできる脳波判読』というお気楽なタイトルで、2005 年 9 月から 2007 年 2 月まで、14 回にわたる連載で呈示した症例を体系づけしてまとめたものである。脳波をカンタンに判読できない著者が、依頼を引き受けてしまい後悔の念にかられながら、まとめ作業をした。
 いまさら脳波の本という気もしないわけではない。Ernst Niedermeyer と Fernando Lopes da Silva 著『Electroencephalography:basic principles, clinical applications, and related fields』(Williams & Wilkins)と大熊輝夫先生著『臨床脳波学』(医学書院)の 2 冊があれば、脳波を理解するのに十分だろう。そこで、これは連載の時から意識してきたことではあるが、臨床現場の中で脳波を判読している、その臨場感が伝えられれば、より脳波検査の必要性とその所見の持つ意味を明確にできるのではと愚考し、執筆にあたり、以下の点を心掛けたつもりである。
 1)単に脳波所見を紹介するだけでなく、症例の現病歴を紙幅の制約の許すかぎり呈示し、脳波検査が果たす役割や所見の持つ意義を個々の症例の症状との関わりで解説した。
 2)いくつかの症例では、症状とともに変化する脳機能の評価には脳波を繰り返し計測する必要のあることを理解してもらうため、治療経過中の脳波の経時的変化を、しつこいくらいに多数の脳波を呈示して解説した。
 3)実際の診療では、脳波だけでなく、神経画像などを駆使して診断に至る。このため、多くの症例では MRI、CT および SPECT 所見を呈示し、臨床症状、神経画像そして脳波の三者を総括して考察した。
 以上は、特別なことではなく、臨床実践でやられていることそのものであると思う。ところで、その被検者を知らず、脳波判読ができるだろうか? まったく患者背景のわからない脳波を正確に判読できるとは思えない。特に著者のような未熟者では無理である。文字通り顔の見えない脳波判読は苦痛この上ない。本書で紹介した脳波は数例を除きすべての被検者を著者は知っている。そのようなケースだけを選択したため、どうしても片寄りがある。
 このため、本書では、小児脳波と睡眠脳波についてまったく紹介しなかった。また逆に、著者が、金沢大学医学部附属病院神経科精神科のてんかん外来を担当していたため、どうしてもてんかん脳波の比重が重くなってしまった。この限られた症例呈示のため、多くの重要な脳波所見が抜け落ちている。しかし、本書を網羅的な脳波の教科書ではなく、症例ごとに脳波所見をどう読むかに主眼をおいた"読み物"と考えて、この点をご容赦いただきたい。
 最後に、ここで紹介した脳波は、以前著者が勤務していた、大学病院の神経科精神科医局の脳波勉強会"脳波の夕べ"で取りあげたものが多い。この時のメンバーとの議論が著者の理解を深めてくれたことをここに深謝する。また、根気と能力に欠ける著者が一冊の本にまとめるにあたり、励ましてくれた友と家族に心から感謝する。
著 者

おもな目次▼
第 1 章 脳波を判読するために必要な基礎知識
1.1.脳波検査の有用性と限界
1.2.脳波は何を計測しているか?
1.3.脳波基礎律動の周波数をどう理解するか?
1.4.電極配置
1.5.記録電極導出法
1.6.どんな状態の脳波を測定するか?―安静時脳波と賦活脳波
1.7.脳波のどんな現象を評価するか?
第 2 章 正常な基礎律動
2.1.健常脳波の基礎律動
2.1.1.後頭部優位性アルファ律動
 【ケース 1】健常者脳波の基礎律動(図 6、7)
 【ケース 2】後頭部優位性アルファ律動(図 8A)
 【ケース 3】双極導出法によって明らかとなる後頭部優位性アルファ律動(図 8B)
 【ケース 4】後頭部優位性を欠くアルファ律動(図 8C)
 【ケース 5】後頭部優位性を欠くアルファ律動(図 9)
2.1.2.中心部優位性アルファ律動(ミュー律動)
 【ケース 6】ミュー律動(図 10)
2.2.基礎律動の健常亜型
2.2.1.低電位脳波
 【ケース 7】低電位脳波(図 11)
2.2.2.ベータ律動
 【ケース 8】ベータ律動の軽度混入(図 12A)
 【ケース 9】ベンゾジアゼピン薬剤によるベータ律動の混入(図 12B)
 【ケース 10】ベンゾジアゼピン薬剤によるベータ律動―アルファ律動消失(図 13)
2.2.3.心理状態により変動する基礎律動
 【ケース 11】緊張のためと思われるベータ律動中心の脳波(図 14)
第 3 章 基礎律動の異常
3.1.基礎律動の周波数異常―基礎律動徐化と意識障害
 【ケース 12】うつ病と誤診された低活動型せん妄(図 15、16)
 【ケース 13】抗癌剤によると思われるせん妄(図 17)
 【ケース 14】低栄養による重度せん妄(図 18)
 【ケース 15】有機溶剤による急性薬物中毒のせん妄(図 19)
 【ケース 16】セロトニン症候群によるせん妄(図 20)
 【ケース 17】原因不明の高カルシウム血症によるせん妄(図 21)
 【ケース 18】水中毒による意識障害からの回復過程(図 22)
 【ケース 19】一酸化炭素中毒による意識障害からの回復過程(図 23)
 【ケース 20】溢頸による低酸素脳症からの回復過程(図 24)
3.2.基礎律動の左右非対称
 【ケース 21】左脳動静脈奇形による脳出血と基礎律動左右非対称(図 25)
 【ケース 22】右側癌性髄膜炎と基礎律動左右非対称(図 26)
3.3.意識障害のない反応性低下(昏迷)と脳波基礎律動
 【ケース 23】解離性(ヒステリー性)昏迷(図 27)
 【ケース 24】統合失調症緊張型の昏迷(図 28)
第 4 章 正常な基礎律動徐化―眠気と軽睡眠の脳波
4.1.覚醒時から軽睡眠までの脳波変化―基礎律動変化と睡眠時突発波
 【ケース 25】覚醒から軽睡眠までの脳波変化(図 29~31)
 【ケース 26】睡眠時後頭部鋭一過波(POSTS)(図 32)
4.2.眠気時の徐波律動
 【ケース 27】眠気時 Fmθリズム(図 33)
 【ケース 28】眠気時デルタ律動(図 34)
 【ケース 29】眠気時の高振幅シータ群発(図 35)
4.3.眠気時徐波律動の lazy activity
 【ケース 30】眠気時徐波律動の lazy activity(図 36)
4.4.てんかん性突発波との鑑別を要する睡眠時突発波
 【ケース 31】てんかん発作波に似た頭蓋頂鋭波とシータ律動(図 37)
 【ケース 32】てんかん性棘徐波複合に似た K 複合―mitten pattern(図 38)
第 5 章 てんかんの脳波
5.1.てんかんの基礎知識―臨床症状
5.2.てんかんの基礎知識―脳波所見
5.3.部分発作
5.3.1.部分発作の発作間欠期脳波
 【ケース 33】複雑部分発作と二次性全般化強直間代発作を繰り返す、多発性海綿状血管腫の発作間
           欠期脳波(図 41)
 【ケース 34】体性感覚発作と二次性全般化強直間代発作を呈する、軽睡眠時棘徐波複合(図 42)
 【ケース 35】焦点運動発作の発作間欠期脳波(図 43)
 【ケース 36】複雑部分発作を呈する海綿状血管腫の発作間欠期脳波―耳朶活性 1(図 44)
 【ケース 37】脳動静脈奇形による複雑部分発作の発作間欠期脳波―耳朶活性 2(図 45)
 【ケース 38】複雑部分発作を呈する右尾状核欠損の発作間欠期脳波―耳朶活性 3(図 46)
 【ケース 39】視覚発作を呈する後頭葉てんかんの発作間欠期脳波(図 47~49)
5.3.2.部分発作の発作期脳波
 【ケース 40】過呼吸賦活による基礎律動の高振幅徐化―large build up(図 50)
 【ケース 41】過呼吸賦活によって誘発された両側頬部のけいれん発作と発作期脳波(図 51)
 【ケース 42】幻嗅発作の発作期脳波(図 52~54)
 【ケース 43】「キリンがみえる」幻視発作の発作期脳波(図 55、56)
 【ケース 44】睡眠中に発作を繰り返す前頭葉てんかん(図 57、58)
5.4.全般発作
 【ケース 45】けいれん薬によって誘発された強直間代発作(図 59)
 【ケース 46】欠神発作―短時間の 3 Hz 棘徐波複合(図 60)
 【ケース 47】欠神発作―長時間の 3 Hz 棘徐波複合(図 61)
 【ケース 48】睡眠時強直間代発作の発作間欠期脳波―広汎性両側同期性棘徐波複合(図 62)
5.5.てんかんとの関連に疑問がもたれる棘波および棘徐波複合
5.5.1.14 & 6 Hz 陽性棘波および 6 Hz 棘徐波複合
 【ケース 49】てんかん発作の既往のない 6 Hz 陽性棘波(図 63A)
 【ケース 50】てんかん発作の既往のない 6 Hz 棘徐波複合(図 63B)
 【ケース 51】てんかん発作の既往のない 6 Hz 棘徐波複合と 6 Hz 陽性棘波の混在(図 63C)
 【ケース 52】強直間代発作の発作間欠期にみられた 14 & 6 Hz 陽性棘波(図 64)
 【ケース 53】前頭葉てんかん疑いの発作間欠期の 6 Hz 棘徐波複合(図 65)
 【ケース 54】抗精神病薬服薬時の 6 Hz 棘徐波複合と 6 Hz 陽性棘波(図 66)
5.5.2.小鋭棘波とアーチファクト
 【ケース 55】複雑部分発作の発作間欠期でみられた前頭部低振幅棘波(図 67A)
 【ケース 56】心電図による棘波様アーチファクト(図 67B)
 【ケース 57】外眼筋による棘波様アーチファクト(図 67C)
5.5.3.側頭部シータ群発
 【ケース 58】複雑部分発作の発作間欠期の側頭部シータ群発(図 68)
5.6.脳波現象の合成により、棘徐波複合と見誤る所見
 【ケース 59】棘徐波複合に類似する児童青年期の後頭部徐波(図 69)
 【ケース 60】片側性 mitten pattern(図 70)
5.7.てんかん重積状態
 【ケース 61】複雑部分発作重積状態の脳波(図 71、72)
 【ケース 62】欠神発作重積状態の脳波(図 73)
 【ケース 63】非けいれん性発作重積状態を呈した認知症(図 74、75)
 【ケース 64】ミオクローヌス発作重積状態でみられた周期性一側性てんかん形発射 (PLED)(図 76)
 【ケース 65】強直間代発作後意識混濁時の脳波―1(図 77)
 【ケース 66】強直間代発作後意識混濁時の脳波―2(図 78~80)
第 6 章 反復する突発波
6.1.クロイツフェルト・ヤコブ病の周期性同期性放電
 【ケース 67】視空間認知障害を初発症状とした CJD(図 81~83)
 【ケース 68】視覚障害を初発症状とした CJD(図 84~91)
6.2.ウイルス脳炎
 【ケース 69】ヘルペス脳炎の周期性一側性てんかん形発射(図 92~94)
 【ケース 70】運動性失語を初発症状とする非ヘルペス脳炎(図 95~97)
6.3.肝性脳症の三相波
 【ケース 71】肝性脳症の三相波(図 98A)
 【ケース 72】肝性脳症の三相波―FIRDA との鑑別(図 98B)
 【ケース 73】肝性脳症からの回復(図 99)
6.4.蘇生後脳症
 【ケース 74】蘇生後脳症の burst suppression(図 100、101)
 【ケース 75】脳死の平坦脳波(図 102)
第 7 章 認知症とその周辺
7.1.アルツハイマー型認知症
 【ケース 76】初期アルツハイマー型認知症の脳波(図 103A)
 【ケース 77】中等度アルツハイマー型認知症の脳波(図 103B)
 【ケース 78】重症アルツハイマー型認知症の脳波(図 104)
 【ケース 79】アルツハイマー型認知症初期段階の FIRDA(図 105)
7.2.レビー小体型認知症
 【ケース 80】軽度レビー小体型認知症の脳波(図 106)
 【ケース 81】レビー小体型認知症の脳波(図 107、108)
7.3.前頭側頭葉変性症
 【ケース 82】前頭側頭型認知症の脳波(図 109)
 【ケース 83】意味性認知症の脳波―FIRDA(図 110)
 【ケース 84】前頭側頭型認知症の基礎律動徐化(図 111)
7.4.血管性認知症
 【ケース 85】左前脳基底部出血性梗塞によるせん妄と認知症(図 112、113)
 【ケース 86】多発脳梗塞による認知症(図 114、115)
 【ケース 87】前頭葉症状を呈し、血管性病変を有する軽度認知障害(図 116)
 【ケース 88】うつ症状を呈し、血管性病変を有する経度認知障害(図 117)
7.5.進行麻痺
 【ケース 89】健忘を呈した進行麻痺(図 118、119)
 【ケース 90】幻覚妄想を呈した進行麻痺(図 120、121)
7.6.その他
 【ケース 91】健忘症候群を呈した辺縁系脳炎後遺症(図 122)
 【ケース 92】認知症を呈した前頭葉脳腫瘍の片側性 FIRDA(図 123)
索引