脳血管障害ケーススタディ
山口修平(島根大学医学部内科学講座内科学第三 教授):編集

2011年発行 B5判 160頁
定価(本体価格3,700円+税)
ISBN:9784880027135

その他執筆者など▼
内容の説明▼

序 文

 最近の米国の医療統計で,死亡原因としての脳卒中は3位から4位に低下したとの報告がありました.しかし,疾病構造をみますと欧米と我が国では大きな違いがあります.例えば,フラミンガム研究と久山町のデータを比較しますと,日本では脳梗塞の発症頻度が心筋梗塞に比してはるかに高率で,米国と対照的であります.脳卒中はその介護費用を含めると,我が国で最も多くの医療資源を費やす疾患であり,その予防と治療は極めて重要と言わざるをえません.2005年に我が国でもt―PAの使用が可能となり,急性期脳梗塞の治療は大きく変化しました.一方でt―PA治療の恩恵にあずかれる患者の数はまだ数%にとどまり,その普及には未だ多くの課題が残されています.そういった中で地域住民への啓発活動,救急隊による病院前脳卒中診断を含めた救急医療連携,急性期治療から回復期,維持期へのスムーズな医療連携など様々な努力が続けられています.
 我が国の「脳卒中治療ガイドライン」が2009年に改訂され,2004年版に比較しその中身は充実してきました.一方,画像診断の進歩,治療薬や治療器材の開発など,t―PA以外にも脳卒中診療における新たなエビデンスの集積はめざましいものがあり,ガイドラインの中身に関しても常に見直しが必要とされています.また実際の医療現場では,すべての治療をガイドライン通りに行うことは困難であります.実際の症例をどのように診断し治療していくかについては,様々な制約の中で最善の方法をとらざるをえません.そういった意味で,これから脳卒中診療に従事しようとする医師にとって,代表的な個々の具体的なケースについて学習を行うことは大きな意義があると考えられます.
 本書は,脳卒中の臨床にこれから携わる初期あるいは後期研修医,さらに脳卒中専門医を目指して現在トレーニング中の方に少しでもお役に立てることを念頭に編集しました.そして医学生や実地医家にとっても十分に役立つ内容ではないかと思います.本書では疾患のイメージを抱きやすくするため,まず実際の症例を呈示し,その診断,病態把握,治療にいたる過程を解説するスタイルとしました.もちろん解説だけ読んでいただいても結構です.現在の脳卒中診療は画像データなしでは語ることができませんので,できるだけ多くの画像を呈示するようにしました.すべて我々が実際に扱った症例で,日常診療で遭遇することの多い脳梗塞や脳出血はもちろん,比較的稀な原因による脳卒中も含まれております.
 内科に関連する疾患は島根大学神経内科の医師が中心となり,関連病院の先生にも執筆をお願いしました.また島根大学内科学第三講座では神経内科に加え,膠原病内科の患者も診ており,血管炎など免疫が関わる脳卒中についても執筆をお願いしました.さらに近年進歩の著しい脳血管内治療を含めて,外科が主に関わる脳卒中症例を島根大学脳神経外科教室の先生方に執筆いただきました.日常臨床で極めて多忙の中,執筆いただいたことに感謝いたします.もちろん本書がすべての関連疾患をカバーすることは困難で,個々の症例に対して我々がどのように対応しているのか読み取って頂ければ幸いです.記載内容は最新の考え方を取り入れるように努力をしていますが,あらゆる他の分野と同様,脳卒中診療の分野でも新たな知見の集積はめざましく,本書の内容もすぐに古いものとなる可能性があります.これは医学書の宿命でもありますが,忌憚のないご意見を頂ければ幸いです.そして本書が,一人でも多くの若い医師が脳卒中医療に加わって頂くきっかけになることを願っています.

2011年4月
島根大学医学部 内科学講座 内科学第三
教授 山口修平

おもな目次▼

序 文
執筆者一覧

1. ラクナ梗塞 山形真吾
2. アテローム血栓性梗塞 木谷光博ほか
3. 一過性脳虚血発作 中川知憲
4. Branch atheromatous disease 足立智英
5. 心原性脳塞栓症,NVAF 雑賀玲子ほか
6. 悪性腫瘍による脳塞栓 山口拓也
7. 卵円孔開存による奇異性脳塞栓 永山正雄
8. 感染性心内膜炎 青山淳夫
9. 無症候性脳梗塞 卜蔵浩和
10. 脳血管性認知症 豊田元哉
11. Binswanger病 塩田由利
12. MELAS 小黒浩明
13. RPLS 岡田和悟
14. 脳静脈洞血栓症 福田 準ほか
15. 脳アミロイドアンギオパチー 長井 篤
16. 頸動脈解離 門田勝彦
17. 線維筋性形成異常症 今岡かおる
18. 遺残原始舌下動脈 三瀧真悟
19. 抗リン脂質抗体症候群 近藤正宏ほか
20. 原発性脳血管炎 濱田智津子
21. 大動脈炎症候群(高安動脈炎) 角田佳子
22. 神経ベーチェット 安部哲史
23. ANCA関連肥厚性硬膜炎 渡邊達三
24. CADASIL 長井 篤
25. 内包膝部梗塞による自発性低下 松井龍吉
26. 一過性全健忘 小黒浩明
27. 視床内側梗塞 河野直人
28. Wallenberg症候群 高吉宏幸
29. 破裂脳動脈瘤 秋山恭彦ほか
30. 未破裂脳動脈瘤  秋山恭彦ほか
31. 高血圧性脳出血 杉本圭司ほか
32. 脳動静脈奇形 大洲光裕ほか
33. もやもや病:STA―MCAバイパス 上村岳士ほか
34. 特発性正常圧水頭症 高田大慶ほか
35. 海綿状血管腫 永井秀政
36. 内頸動脈狭窄症 杉本圭司ほか

索 引