認知症医療学 自治体における認知症対策のために
目黒謙一(東北大学教授):著

2011年発行 B5判 198頁
定価(本体価格5,000円+税)
ISBN:9784880027159

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内容の説明▼

山鳥 重 先生ご推薦!
認知症者をみるには,ただ診断するだけでは駄目で,生物学(医学,なかでも神経内科学)に立脚して,その心理学的諸問題(神経心理学的問題と一般心理学的問題)の理解に努め,さらに,地域社会が病者を責任をもって支えるシステムを作って,これまで生きてきた生活の場で,その人生を全うさせよう,ということだと思います。
 人間は病んでも人間です。たとえ,不幸にして,病気による知的な低下が起こり,社会的能力が落ちたとしても,最後まで人間らしく生きる権利が保障されてよいはずです。しかし,病者をBio―Psycho―Socio―Spiritualな存在と捉え,そのように遇してゆく,などというのは,思想としては素晴らしくても,実際にはきわめて困難なことです。健康な人間でさえ,どんどん孤立に追い込まれていくのが現代社会の残酷な現実なのですから。
 同僚の医師を巻き込み,教室の大学院生を巻き込み,さらには地域の保健婦,看護師,カウンセラー,言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,介護士,自治体事務職員を巻き込み,さらには行政トップをも巻き込んで,自治体医療とでも呼ぶべき新しい医療システムを構築することに成功しています。
 本書には,実際の認知症診断から始めて,認知症の地域における数と分布の調査,診断した患者の予後の調査,認知症の実体についての啓蒙活動,認知症への介入方法,認知症の経過中に起きるさまざまな問題にどう対処するかなどなど,関係者の知りたいことがすべて,具体的なデータとして示されています。
 なかでも田尻町スキップセンターの運営に関する章はもっともユニークです。地域実践の問題点と解決法が具体的に呈示されています。
 この内容豊富な実践の書が広く読まれ,わが国の認知症地域医療を一段と充実させてゆくための手助けとなってくれることを願っています。(推薦の序より)

おもな目次▼

推薦の言葉
序 論
コラム1:田尻プロジェクトで学んだことの実践
特別寄稿:認知症の"早期発見"に地域で取り組む

第Ⅰ部 認知症医療学の基本と臨床
 A.認知症の基本知識
 ポイント
  1.包括的健康観
  2.認知症とは
  3.認知症の評価法
  4.臨床的認知症尺度(CDR)
  5.認知症診断の手順
   1)複数の認知機能障害
   2)せん妄やうつ状態の除外
   3)社会生活の水準低下
  6.MRI画像診断の有用性
   1)撮像原理
   2)有用性
 B.原因疾患別の医療介護連携
 ポイント
  1.アルツハイマー病
   1)臨床的特徴
   2)医療介護連携
  2.血管性認知症
   1)臨床的特徴
   2)医療介護連携
  3.皮質下血管性認知症
  4.レビー小体型認知症
   1)臨床的特徴
   2)医療介護連携
  5.前頭側頭型認知症
   1)臨床的特徴
   2)医療介護連携
 C.心理社会的介入
 ポイント
  1.心理社会的介入に関するコンセプト:2つの誤解を超えて
   1)右翼的誤解
   2)左翼的誤解
   3)心理社会的介入の有効性
  2.心理社会的介入の実際
   1)介護保険サービスの活用
   2)見当識訓練
   3)回想法
   4)作業療法
  3.症例提示
  4.認知症のリハビリテーション
 D.地域への支援介入
 ポイント
  1.基本的方針
   1)包括的介入の方針
   2)予防
  2.原因疾患別の予防
   1)アルツハイマー病
   2)血管性認知症
   3)皮質下血管性認知症
   4)レビー小体型認知症
   5)前頭側頭葉変性症
  3.福祉施設の活用
   1)認知症と介護保険
   2)福祉施設概論
   3)疾患別の施設利用
  4.軽度認知障害
   1)MCIの概念
   2)認知機能と生活障害の特徴
コラム2:認知症医療には新しい哲学が必要である

第Ⅱ部 認知症医療学の実践(1):地域調査
 E.地域調査の方法論
 ポイント
  1.調査の目的と前提
  2.調査項目
   1)生活歴
   2)病歴
   3)臨床的認知症尺度
   4)神経心理検査
  3.調査の手法
   1)全数調査
   2)無作為抽出法
   3)特定集団の健診
   4)モデル地区調査
  4.モデル地区調査の実際
   1)自治体の首長による意思表示
   2)認知症対策委員会の設置
   3)専門家への委嘱状交付
   4)200人規模のモデル地区の選定
   5)MRI脳健診の拠点の選定
   6)拠点医療機関(受け皿)の選定と地域医療ネットワーク
   7)地域住民への説明会
 F.地域調査の実際
 ポイント
  1.田尻プロジェクト
   1)1991年全数調査
   2)1996年調査
   3)1998年有病率調査
   4)2003年発症率調査
  2.栗原プロジェクト
   1)調査の内容と結果
   2)提言
 G.認知症の疫学:最近10年間の動向
 ポイント
  1.診断基準の問題
  2.有病率
   1)最近10年の傾向
   2)外国の認知症有病率とアルツハイマー病/血管性認知症比
   3)我が国の認知症有病率とアルツハイマー病/血管性認知症比
   4)認知症とアルツハイマー病の年齢別有病率の国際比較
   5)代表的なメタ解析の紹介
   6)その他の疾患の有病率
   7)最近の有病率調査の考察
  3.発症率
   1)最近10年の傾向
   2)外国の認知症とアルツハイマー病の発症率
   3)日本の認知症とアルツハイマー病の発症率
   4)その他の認知症と発症率
  4.結論
コラム3:「超早期認知症」への対応を町ぐるみで検討・実践

第Ⅲ部 認知症医療学の実践(2):保健医療福祉システム
 H.物忘れ外来との連携
 ポイント
  1.有病率調査後の田尻診療所受診者の推移
   1)第1期(草創期)
   2)第2期(有病率調査事業)
   3)第3期(老人保健施設との連携)
   4)第4期(心理療法の充実)
  2.物忘れ外来における家族の介護負担感に関する調査
   1)目的
   2)対象と方法
   3)結果
   4)考察
  3.問題ある物忘れ外来患者の家族の例
   1)在宅の事例1
   2)在宅の事例2
   3)福祉施設入所の事例
 I.介護保険と福祉施設
 ポイント
  1.要介護度認定と福祉施設の利用に関する調査
   1)目的
   2)方法
   3)結果
   4)考察
  2.グループホームAの調査
   1)背景と目的
   2)方法
   3)結果
   4)考察
 J.介護老人保健施設の調査
 ポイント
  1.背景
  2.先行研究
   1)老健の介護機能
   2)老健の医療機能
  3.アンケート調査の概要
  4.分析
   1)介護機能
   2)医療機能
  5.結果
   1)調査の回収率と全国調査データとの関係
   2)介護機能
   3)医療機能
  6.調査結果の考察
   1)介護機能
   2)医療機能
  7.老健Nの調査
   1)認知症発症から入所までの経緯
   2)入所から退所までの経緯
   3)認知症発症から入所までの調査結果
   4)入所から退所までの経緯の調査結果
   5)考察
 K.予防介入の実際
 ポイント
  1.地域住民への教育講演の効果
   1)背景
   2)方法
   3)結果
   4)考察
  2.軽度認知障害への心理社会的介入
   1)残存機能の賦活とQOL維持
   2)認知症の発症遅延効果は?
  3.介護保険事業を活用した第二次予防の試み
   1)背景
   2)対象
   3)方法
   4)結果
   5)症例
   6)考察
コラム4:認知症の医療と社会的背景
文献紹介:アルツハイマー病の医療経済学

第Ⅳ部 認知症対策の組織改革
 L.組織論の基礎
 ポイント
  1.組織論の基礎
   1)小規模ワンセット主義=海兵隊
   2)機能別組織と事業部制組織
  2.組織としての医療機関
   1)「攻撃型」組織としての医療機関
   2)認知症対策に相応しい組織
  3.組織間ネットワークの構築
   1)組織間ネットワークに関する理論
   2)田尻町スキップセンターの場合
 M.組織改革の実際
 ポイント
  1.スキップセンターの開設と運営検討委員会の設置
  2.平成14年度開始の組織改革
   1)全体理念(戦略)
   2)具体的方法(戦術)
   3)組織マネジメント
  3.事業評価と今後の方針
   1)各部門の事業評価
   2)スキップセンター全体の評価
   3)今後の方針
  4.認知症に関する保健医療福祉の情報統合
   A.認知症の定義と原因疾患
   B.診察前に必要な情報
   C.患者の診察
   D.治療に必要な情報
問題提起
  1.現場スタッフからの問題提起:介護保険制度
   1)物忘れ外来から
   2)包括支援センターから
   3)特養スタッフから
   4)老健スタッフから
  2.田尻プロジェクトからの12の提言
コラム5:家庭再生―「家系」の重要性について
大崎―田尻プロジェクト・栗原プロジェクト後記:「平成の大合併」と医療福祉連携
  1.プロジェクト後の合併と,合併後のプロジェクト
  2.自治体の合併の歴史
  3.合併後の医療福祉連携
  4.今後の対策
後記その2:東日本大震災における当講座の活動
結語:地域力の向上と国家の活性化のために
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