せん妄の臨床 リアルワールド・プラクティス
和田 健:著

2012年発行 B5判 191頁
定価(本体価格4,200円+税)
ISBN 9784880027296
その他執筆者など▼
内容の説明▼

第一部 理論編として、せん妄とはなにかについてまとめ、さらに第二部 実践編では、実際にせん妄への対応を求められたとき、出来るだけ具体的にイメージできるよう診断のすすめ方と原因に考慮した薬物療法についてまとめた。第三部では詳細に症例も呈示し、臨床判断が求められるポイントでClinical Questionを設定している。明日からの臨床にお役立てください。

序文

 総合病院に勤務する精神科医にとって,せん妄とは最もしばしば対応を求められ,その結果如何によって自分の臨床力の一部が評価されるような気持ちになってしまう緊張させられる疾患であると言えるだろう。典型的なケースは別にして鑑別診断にも迷うことが多いし,臨床症状や発症経過,治療中の身体疾患やその治療薬,検査データなどさまざまな要因を整理,解釈して見立てをしなければならない。治療的介入には何よりスピードが求められるし,限られた入院期間の中でどこをゴールとするのか考えつつ,担当看護師や担当医,家族とコミュニケーションをとりながら治療にあたる必要がある。選択した薬物療法が奏効しないばかりか有害事象を引き起こしてしまい,自分自身がひどくへこむこともある。精神科医にとってストレスフルな疾患であるとも言えるが,日々せん妄は発症しているので,ひるんではいられない。
 今後わが国では加速度的に高齢化社会が進行し,必然的に入院患者は高齢化するとともに認知症を持つ患者の比率も高まり,せん妄の発症は増加すると思われる。医療経済的にも入院医療の効率化が強く求められている中,せん妄の合併はさまざまなリスクの拡大や,在院日数の延長などによる医療コストの増加に直結する。医療経済,医療安全の問題としてもせん妄への適切な対応が求められている。
 本書は,一般医療の最前線で奮闘している精神科医や看護師を含む医療スタッフがせん妄への対応を求められたときに,何かしら役に立つのではないかと考えながら書いたものである。アートとか技と呼べるようなものでもなく,筆者のこれまでの日常臨床での試行錯誤の寄せ集めの間に,文献からの知見をはさみこんだ症例集と言えるかも知れない。ビジュアルにぱっと見て理解しやすい構成にはしなかったが,できるだけ具体的にイメージが湧くようにと思案しながら書いたつもりである。総合病院に勤務する精神科医が複合的な要因によって減少する一方,せん妄をはじめとした精神医学的ニーズが日々増大していることにより看過すべきでないミスマッチを生じている臨床現場で,本書が少しでもお役に立てばこの上ない喜びである。
 本書の執筆にあたり,まだまだ未熟な筆者をご推薦くださった川崎医科大学精神医学教室名誉教授 渡邊昌祐先生に厚く御礼を申し上げたい。また筆者に多くの臨床経験をもつ場を与えていただき,ともに悩みながら仕事をさせていただいている岡山大学精神神経病態学教室ならびに広島大学精神神経医科学講座の先輩,同僚の先生方に感謝を申し上げたい。中でも,広島市立広島市民病院元副院長,佐々木メンタルクリニック院長の佐々木高伸先生,川崎医科大学精神医学教室教授の山田了士先生には,総合病院精神科医の先駆者あるいはロールモデルとして非常に多くのことを教えていただき,心より感謝している。また,何度となく締め切りを延長することになり,多大なご迷惑をおかけしたにもかかわらず終始励ましをいただいた新興医学出版社の林峰子さまには厚く御礼を申し上げたい。
 また,本書で提示した症例については,プライバシー保護の観点から修正を加えている部分があることをご了承いただきたい。

平成24年3月

おもな目次▼

第I章 理論編
 A せん妄とは何か
 B せん妄の診断と症候学
  1.せん妄の診断
  2.せん妄の症候学
  3.せん妄の分類
 C せん妄の疫学
  1.せん妄の有病率,発症率
  2.せん妄の経過および予後
 D せん妄の病態
  1.せん妄の病態について
  2.せん妄の生理学的側面
  3.せん妄の生化学的側面
  4.せん妄における脳画像所見
 E せん妄の病因
  1.せん妄の病因は多要因性である
 F せん妄の治療法
  1.せん妄への初期対応の原則と治療の流れ
  2.せん妄の症状改善をめざした薬物療法
  3.せん妄に対する薬物療法の使い分け
  4.せん妄に対する非薬物療法的介入
第II章 実践編
 A せん妄の診断のすすめ方および鑑別診断
  1.せん妄の診断の流れ
  2.外来場面での対応
  3.入院場面での対応(他科入院中に精神科コンサルテーションとなる場合)
  4.せん妄とうつ病との鑑別診断
  5.せん妄と認知症との鑑別診断
  6.せん妄とRBDとの鑑別診断
 B 直接原因および併存疾患を考慮した薬物療法
  1.脳血管障害に伴うせん妄
  2.頭部外傷に伴うせん妄
  3.神経変性疾患に伴うせん妄
  4.中枢神経系の腫瘍性疾患に伴うせん妄
  5.中枢神経系感染症に伴うせん妄
  6.HIV脳症に伴うせん妄
  7.アルコール離脱症候群に伴うせん妄
  8.向精神薬を含む薬剤による中毒および離脱症候群に伴うせん妄
  9.肝疾患に伴うせん妄
  10.透析患者を含む腎疾患に伴うせん妄
  11.電解質異常に伴うせん妄
  12.循環器疾患に伴うせん妄
  13.呼吸器疾患に伴うせん妄
  14.術後せん妄
  15.終末期せん妄
第III章 症例編
 症例A 64歳男性
 症例B 78歳男性
 症例C 58歳男性
 症例D 47歳女性