精神疾患診断のための脳形態・機能検査法
三國雅彦・福田正人・功刀浩:編著

2012年発行 B5判 246頁
定価(本体価格6,800円+税)
ISBN:9784880027302

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内容の説明▼

はしがき
 精神医学・医療の歴史は百数十年と浅く,しかも,数十年単位で大きく変化し,一時期,有効であった働きかけも現在は無効あるいは有害という場合もあり,今,目の前の患者に役立たないならば,その技法には固執せず,改良することになる。時代ごとに理想と努力目標を掲げて進みながらも,その後には目標が変わることを繰り返しながら発展してきたということができ,過去の精神医学研究の継承をしながら,新たなチャレンジに向かっていくことになる。しかし,1970年代に,それまでの臨床研究が患者の人権への配慮を欠き,インフォームド・コンセントを得ることを怠っていた反省を学会全体で行った結果,研究活動が見直され,縮小する中で,精神医学研究のノウハウの継承が不能に陥って,大学精神科を中心に行われてきた,研究マインドに富んだ臨床医を育てる機能が著しく減弱してしまった。10~20年かかってようやく復活してきたが,新医師研修制度が始まった2000年代後半から再び途絶えようとしている。このような困難な時期においても研究のノウハウをきちんと継承するためには,大学間の壁を越えた多施設の共同研究の実施に伴う人材育成と多施設の経験を盛り込んだハウツウものの出版が必須である。
 厚生省神経疾患研究委託費による精神疾患の生物学的研究班が設置され,精神疾患研究を多施設で始めることができたのが1978年であり,当時,精神疾患に割り当てられたこの研究費の総額が年間2000万円であったが,1986年の国立精神・神経センター設立後,この研究費が厚生省精神・神経疾患研究委託費となり,以後25年にわたって年間数億円ずつが投入されて精神医学研究の継承と新たなチャレンジを可能にしてきた。この仕組みを提言し,予算を獲得して下さった先達の先生方,この共同研究に参画して,若手研究者を育成してこられた先生方に,どのような感謝の言葉で表現したらよいのかわからないほどである。この間,精神疾患の非侵襲的な脳画像解析法が著しく進歩し,脳の形態・機能の評価が可能となり,末梢の臨床指標の解析法と併せて,精神疾患の状態像をみる有力な武器となり,精神疾患の病態解明に迫る方法論の一つともなってきている。しかし,現実には統合失調症やうつ病の病名で保険診療が認められている脳画像検査や内分泌検査は一つもないので,普及のしようもなく,研修制度が変わって研究志向の臨床医が減少してしまって,臨床研究の停滞と知の継承困難とに陥りつつある。
 本書は2005.4.~2011.3.の6年間,統合失調症,感情障害,発達障害などの精神疾患の脳画像解析と末梢の生物学的指標を用いた補助的精神科診断法の確立に向けた厚生労働省精神・神経疾患研究委託費研究班で活躍頂いた,第一線の研究者が中心となって,それぞれ得意の分野を分担執筆したものである。明日から始めてみようとする若手の研究志向をもった臨床医の先生方が座右の書として頂けるようにハウツウをわかりやすく,しかも研究の最前線をも見通せるように編集に当たったつもりである。また,老練な精神科医の先生方にも精神科の生涯研修の一環として,脳画像検査の勘所を知り,臨床に生かして頂けるように本書が活用されればと願っている。
 「脳と精神の医学(現,日本生物学的精神医学会誌)」の出版では1991年以来の長きにわたり,本当にお世話になった新興医学出版社前社長の服部秀夫氏と服部治夫氏のご配慮とご好意のお蔭で本書の出版に漕ぎ着けることができた。ここにこころからの感謝の意を述べさせて頂きたいと思う。
 2012年1月10日
 群馬大学精神科教授 三國 雅彦

おもな目次▼

第1部 日常診療用,その結果得られる成果
1. 精神疾患における補助的診断バイオマーカー研究:精神科医療の技術革新を目指して 
   三國 雅彦 
 A. 脳形態・機能評価や末梢の臨床マーカーを用いた客観的,補助的な精神疾患診断法の確立 
 B. 精神疾患の補助的な客観的指標の妥当性を検証するための多施設,
    多数症例の共同研究を推進するうえでの診断と対象の選択の問題
 C. マルチモダリティーの脳形態・機能検査や末梢サンプルで絞り込んだ対象から
    抽出された臨床バイオマーカーの探索
2. 構造MRI画像を用いた統合失調症の診断法
   鈴木 道雄,川﨑 康弘,高橋 努,高柳陽一郎,中村 主計
 A. 統合失調症と構造MRI 
 B. 構造MRIの評価・解析法
 C. 統合失調症の構造MRI所見とその臨床的意義
 D. 診断への応用の試み 
 E. 実用化に向けて
3. 頭部MRI画像における形態異常の簡便な評価法  川﨑 康弘,鈴木 道雄
 A. 視覚評価法の開発
 B. 評価尺度の要点
 C. 評価尺度の作成 
 D. 評価基準画像
 E. 評価の信頼性について
 F. 評価の妥当性について
4. T2強調MRI画像での白質高信号の評価と精神疾患  高橋 啓介,三國 雅彦
 A. MRIの原理・特徴
 B. 撮像上の注意点
 C. 代表的な撮像法
 D. T2強調画像における白質高信号
 E. T2強調画像と精神疾患
5. 光トポグラフィー検査によるうつ状態の鑑別  福田 正人,三國 雅彦
 A. NIRSの原理と得られるデータ
 B. 脳機能測定における意義
 C. 目的と適応
 D. 標準化検査法の例
 E. データ解析と判定
 F. NIRS検査が診断に有用であった症例
6. SPECTの標準的施行法と精神疾患の診断  伊藤 公輝,佐藤 典子,松田 博史
 A. 検査の概念
 B. 検査の概要
 C. 検査に影響する因子
 D. 精神疾患におけるデータ
 E. SPECTによる分子イメージング
7. 探索眼球運動による統合失調症の診断  高橋 栄,鈴木 正泰,内山 真,小島 卓也 
 A. 検査の概念
 B. プロトコール
 C. 具体的な測定例
 D. 統合失調症におけるデータ
 E. 臨床的意義
8.ミスマッチネガティビティの施行法と精神疾患診断
  永井 達哉,多田真理子,切原 賢治,荒木 剛,笠井 清登
 A. ミスマッチネガティビティとは
 B. プロトコール
 C. 測定例
 D. 統合失調症の臨床病期とMMN
 E. 展  望
9. プレパルスインヒビションの施行法と精神疾患の診断  功刀 浩
 A. 検査の概念
 B. プロトコール
 C. 精神疾患におけるデータと臨床的意義
10.統合失調症の認知機能検査(BACSなど)  兼田 康宏
 A. 検査の概念 
 B. プロトコール 
 C. 具体的な測定例
 D. 精神疾患におけるデータ
11.気分障害の認知機能検査  馬場 元
 A. 検査の概念
 B. 病態と検査の関連性
 C. 具体的検査方法
 D. 精神疾患におけるデータ
12.視床下部―下垂体―副腎系機能検査法と精神疾患  堀 弘明,功刀 浩
 A. HPA系の構造
 B. HPA系を調べる検査法

第2部 研究用,その結果得られる成果
1. 拡散テンソル画像と精神疾患  太田 深秀
 A. 総  論
 B. 各論 拡散テンソル画像と精神疾患
2. 統合失調症のfMRI研究での留意点  川田 良作,村井 俊哉
 A. 検査の概念と解析の流れ
 B. 検査の準備や実施上のコツ・留意点
 C. 統合失調症で生じうる問題
3. 気分障害のMRI画像研究(fMRI研究を含む)  岡田 剛
 A. MRIによる気分障害の形態画像所見
 B. MRIによる気分障害の機能画像所見
 C. 補助診断や治療反応予測を目指したMRI研究
 D. 先行研究のまとめ
 E. 今後の研究の方向性
4. MRIを用いた多施設共同研究へ向けた技術開発
   笠井 清登,川﨑 康弘,鈴木 道雄,根本 清貴,橋本龍一郎,八幡 憲明,山下 典生
 A. 多施設共同による脳画像研究の意義
 B. 海外における多施設共同型・画像研究の動向
 C. わが国における多施設共同研究へ向けた技術開発の試み
 D. 装置間差を考慮しない形態計測の試み
 E. 多施設共同によるfunctional MRI研究の可能性
5. PETの精神疾患への応用  藤原 広臨,須原 哲也
 A. はじめに―検査の原理・概念
 B. PET検査の実際
 C. 精神疾患における応用例 
6. 脳画像解析ソフトの利用法  根本 清貴
 A. 画像解析ソフトの入手方法
 B. 画像解析に必要なコンピュータのスペック
 C. 画像解析の一連の流れ
 D. SPMのインストール
 E. SPMを用いた画像処理―前処理にかけるための準備
7. 脳磁図(MEG)の精神疾患診断への応用
   武井 雄一,管 心,栗田 澄江,笠井 清登,福田 正人,三國 雅彦
 A. 概  論
 B. 統合失調症のMEG研究
 C. 気分障害のMEG研究
 D. 他の精神疾患のMEG研究
 E. 群馬大学,東京大学で行ったMEG研究
8. ガンマ・オシレーションと精神疾患  鬼塚 俊明
 A. 概  念
 B. プロトコール
 C. 測定例
 D. 精神疾患におけるデータ
9. 事象関連電位と精神疾患(MMN以外,p300,p50など)  兼子 幸一
 A. ERPの基礎
 B. 精神疾患とERP
10.末梢白血球に発現している遺伝子と気分障害  大朏 孝治,内田 周作,渡邉 義文
 A. 検査の概念
 B. 末梢試料を用いた研究について
 C. 検査の流れ
 D. 具体的な遺伝子発現量測定
 E. データ解析
 F. 気分障害患者における実際の測定結果
 G. 測定結果の応用
 H. 今後の課題
11.精神疾患における血中タンパク質やアミノ酸濃度  篠山 大明,服部功太郎,功刀 浩
 A. 血中BDNF濃度
 B. 血中サイトカイン
 C. その他のタンパク質
12.自殺のバイオマーカー  西口 直希,菱本 明豊,白川 治
 A. 対象としての自殺をどのように定義するか
 B. 自殺に至る脆弱性に関連した表現型
 C. 神経画像学的所見
 D. 神経伝達物質をマーカーとした変化
 E. 神経内分泌,神経栄養因子をマーカーとした変化
 F. 候補遺伝子の探求
索  引