精神医学の潮流 大阪大学精神医学教室120年の歩み
120周年記念誌編集委員会:編
2014年発行 B5判 960頁 上製本 ケース入 口絵カラー8頁
定価(本体価格10,000円+税)
ISBN9784880027470

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内容の説明▼

精神医学における貴重な歴史が満載
大阪大学精神医学教室創立百二十年の節目に編纂された、精神医学にまつわる貴重な話が盛り込まれた大著。温故知新の諺のように、本書では岐路に立つ精神医学の進むべき道を示唆する、よすがとなる事を心掛けた。教室百二十年の歴史の中から、その底流に流れる思想と潮流を感じ取り、それぞれの時期において先達が残してくれた貴重な経験と体験とを振り返ることにより、新たな時代への指針を感じ取ってほしい。写真も多用されビジュアル的にも楽しい。

 序 文 

 明治22年9月5日,大西鍛が大阪医学校に赴任し精神病学と生理学の講義を始めた。そして明治27年4月7日に精神科が新設され,大西鍛を医長として精神病学教室が誕生した。わが国においては東京大学に次ぐ二番目の精神病学教室であった。この時から数えて百二十年の月日が経過した。
 この間に大阪大学医学部の名称は,大阪府立高等医学校(明治36年),府立大阪医科大学(大正4年),大阪医科大学(大正8年),大阪帝国大学医学部(昭和6年),大阪大学医学部(昭和24年)と変わり,そして,大学院大学となり大阪大学大学院医学系研究科へと変わった。
 精神医学教室はこの百二十年間その歴史をつないできたが,診療科名と教室名もそれぞれの時代に合わせて変化した。大西鍛は,明治27年に精神科を独立させ,その診療科長を勤めた。この時をもって教室誕生の起点としている。引き続き阪大病院では明治31年に神経科ができ,大西鍛が科長を併任することとなり,診療科名は「精神神経科」となった。和田豊種は,精神病も神経病も担当するという従来の方針を引き継いだが,診療科名を「神経科」とした。この当時の神経病は今でいう精神疾患も神経疾患も含まれていたからである。そして金子仁郎の時に,一般にわかりやすいようにとの配慮から診療科名を「神経科精神科」と呼ぶようになり,現在まで「神経科精神科」の名称を使用している。
 教室の名称は,教室創設以来「精神神経科学教室」であったが,昭和44年金子仁郎教授時代に「精神医学教室」を使用するようになり,医学部における名称は「精神医学」,医学系研究科の名称は「精神神経科学」を平成8年度まで使用してきた。平成9年度の大学院重点化施策により大阪大学が大学院大学となった時に教室名の変更を余儀なくされた。その事情は,大学院大学となり大講座制を導入したことと,当時の文科省から他の大学院大学と異なる教室名を使用するようにとの強い要請がなされたことによる。このような事情により多くの大学院大学に,一般には解りにくい教室名が次々に誕生することとなった。当教室でも,平成9年度の大学院重点化の改組により「神経機能医学講座(精神医学)」となり,平成14年度の未来医療専攻設置による改組により「プロセシング異常疾患学」となった。これは余りにも解りにくい教室名だったと今でも反省しているが,平成17年度の大学院改組により,めでたく教室名は情報統合医学講座「精神医学」に戻り,現在も「精神医学」教室をその正式名称としている。

 教室および同門会「和風会」では,この百二十周年の節目に教室の歴史をまとめることになった。これは,故西村健先代教授の時代1994年に教室百周年の記念式典を開催したが,その折に記念誌は刊行されなかったからである。小生も教室百周年記念式典に出席したが,教室に関係する貴重な話を興味深く拝聴した。歴史が記録されないままに散逸してしまうことが残念に思われたことから,ここに本誌を編纂することとなった。
 温故知新の諺が示すように教室の歴史を振り返ることにより,更なる発展を期したいと思うのであるが,折しも,小生も定年までの任期が残り一年となり,先代の西村健先生が御退官の一年前に百周年祝賀会を開催されたのと重なる。歴史を振り返ることは,役目を終わろうとする立場の人にふさわしい仕事であり,このような時期に教室の百二十周年記念誌を編纂しようと思い立ったのであるが,本書が温故知新の役割を果たすことにより,さらなる教室の発展へ向けて歴史を次の世代に引き継ぎたいと思っている。そのような意味で編纂に当たってはこれから精神医学の進むべき道を示唆してくれるよすがとなることを心掛けた。教室百二十年の歴史の中から,その底流に流れる思想と潮流を感じ取っていただきたい。それぞれの時期において先達が残してくれた貴重な経験と体験とを振り返ることにより,どのような困難に直面したときにも新たな時代への進路を指し示す内容が盛られていると信ずるからである。
 本誌編纂の作業中に数多くの得難い体験をした。歴代教授ゆかりの地と墓所を訪問し,資料の収集にあたったが,このような作業の中にも,教室に流れる脈々とした潮流を感じる心地よい作業であった。
武田 雅俊

おもな目次▼

第1部 歴 史
1 教室の歴史
 1 教室前史…武田 雅俊
 2 大西鍛教授時代…武田 雅俊
 3 今村新吉教授時代…武田 雅俊
 4 和田豊種教授時代…武田 雅俊
 5 堀見太郎教授時代…柿本 泰男
 6 金子仁郎教授時代…志水 彰
 7 西村健教授時代…井上 洋一
 8 武田雅俊教授時代…工藤 喬
2 関連組織の歴史
 1 石橋分院…藤井 久和
 2 大阪大学保健センター…杉田 義郎
 3 大阪府立精神医療センター(旧・中宮病院)…籠本 孝雄
 4 公衛研 精神衛生部…藤井 久和
 5 大阪府立急性期・総合医療センター(旧・大阪府立病院)の精神神経科…亀田 英明
 6 大阪府こころの健康総合センター…松浦 玲子
 7 やまと精神医療センター(旧・松籟荘)…紙野 晃人,西沼 啓次
 8 独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター(旧・国立大阪病院)…廣常 秀人
 9 大阪市立総合医療センター児童青年精神科…豊永 公司
 10 日生病院精神科神経科…北嶋 省吾
 11 大阪警察病院精神神経科…東 均
 12 NTT西日本大阪病院(旧・大阪逓信病院)…吉田 功,胡谷 和彦
 13 大阪厚生年金病院 手島 愛雄
 14 星ヶ丘厚生年金病院…田伏 薫,飯田 信也
 15 関西労災病院…梅田 幹人
 16 市立豊中病院…德山まどか
 17 箕面市立病院…辻尾 一郎
 18 大阪回生病院…谷口 充孝,江川 功
 19 国立長寿医療研究センター…服部 英幸
 20 大阪府立成人病センター…田中 克往,柏木雄次郎
 21 大阪労災病院(独立行政法人労働者健康福祉機構)…行田 建
 22 北大阪けいさつ病院(旧・大阪第二けいさつ病院)…工藤 喬
 23 近畿精神神経学会の歴史
   近畿精神神経科学教室集談会と合同卒後研修講座を含めて…武田 雅俊
 24 日本精神神経学会と阪大精神医学教室とのかかわり…武田 雅俊
 25 大阪精神科病院協会の歩み(1) 設立から平成10年まで…長尾喜八郎
 25 大阪精神科病院協会の歩み(2) 平成10年から現在まで…河﨑 建人
 26 日本精神科病院協会の歩み…河﨑 建人
 27 大阪精神科診療所協会…堤 俊仁
 28 日本精神神経科診療所協会…渡辺洋一郎

第2部 精神医学の潮流
 1 精神神経学雑誌に掲載された教室関係者の論文…武田 雅俊
 2 我が国の精神分析学の歴史と現在―教室関係者の仕事を中心に…水田 一郎,他
 3 産業精神医学の歴史…藤井 久和
 4 催眠研究の歴史と現状…高石 昇
 5 睡眠医学の歴史…菱川 泰夫
 6 笑いの精神医学…志水 彰
 7 精神医学への生化学的研究の導入と神経化学の推進―佐野勇グループの活動―…柿本 泰男
 8 神経化学と精神薬理学研究の流れ…宮本 英七
 9 精神神経科における薬物療法の幕開け…中嶋 照夫
 10 神経学と精神医学…湯浅 亮一
 11 フランス精神医学の潮流―歴史と今後の動向…小池 淳
 12 児童精神医学,127年の歩み…清水 將之
 13 老年精神医学の潮流…武田 雅俊

第3部 大阪府および各地の精神医療
1 大阪府下の精神科病院
 1 公益財団法人 浅香山病院…髙橋 明
 2 和泉丘病院…尾崎 哲
 3 医療法人清風会 茨木病院…髙橋 幸彦
 4 医療法人松柏会 榎坂病院…関山 守洋
 5 医療法人六三会 大阪さやま病院…阪本 栄
 6 医療法人豊済会 小曽根病院…小池 淳
 7 国分病院…木下 秀夫
 8 小阪病院…東 司
 9 澤潤一とさわ病院…澤 温
 10 医療法人爽神堂 七山病院の歴史…本多 義治
 11 医療法人和気会 新生会病院…和気 隆三
 12 清順堂 ためなが温泉病院…爲永 清吾
 13 医療法人長尾会 ねや川サナトリウム~数々の出来事…長尾喜八郎
 14 医療法人河﨑会 水間病院…河﨑 建人
 15 箕面神経サナトリウム…角 典哲
 16 美原病院…柳 雄二
 17 吉村病院…和田 慶治
2 各地の精神科医療
 1 和歌山医大精神科の創立と当時の和歌山県精神科医療…篠崎 和弘
 2 奈良県立医科大学精神科と当時の奈良県の精神科医療…小西 博行
 3 加古川脳病院の設立と当時の兵庫県精神科医療…森 滋郎
 4 国立呉病院神経科設立と当時の広島県の精神医療…岡本 輝夫
 5 藤戸病院設立と当時の高知県精神科医療…藤戸 せつ
 6 大阪府の精神保健医療福祉行政について…納谷 敦夫
 7 秋田大学精神科学教室設立と当時の秋田県の精神医療…清水 徹男
 8 愛媛大学医学部創設と精神神経科の成長…柿本 泰男
 9 香川大学精神科と香川県の精神科医療…中村 祐
 10 熊本大学神経精神科と熊本県の精神医療…池田 学

第4部 和風会の人脈
 1 「和風会誌」から見た教室の歴史…武田 雅俊
 2 谷向 弘…乾 正
 3 恩師 佐野 勇先生…中嶋 照夫
 4 神谷美恵子…髙橋 幸彦
 5 長山 泰政…清水 將之
 6 白石 純三…奥田純一郎
 7 中宮病院時代の垣内史郎先生…上西 圀宏
 8 播口 之朗…武田 雅俊
 9 有岡 巖の思い出…夏目 誠
 10 浅井 敬一…田中 克往
 11 頼藤 和寛…中尾 和久
 12 工藤義雄先生を思う…小池 淳
 13 杉原 方…松本 和雄
 14 浅尾博一と大阪府立中宮病院…藤本 淳三
 15 角辻豊先生の思い出をめぐって…南 諭
 16 田邉敬貴先生…池田 学,中川 賀嗣,西川 隆
 17 髙橋 清彦…田伏 薫
 18 辻 悟…福永 知子

第5部 阪大精神科の研究の流れと現在の研究活動
 1 神経化学研究室…田中 稔久
 2 脳波睡眠研究室について語る…三上 章良
 3 認知行動生理学研究室…岩瀬 真生
 4 精神病理研究室…井上 洋一
 5 超音波ドプラ・神経心理研究室…近藤 秀樹,数井 裕光
 6 行動療法グループ…中尾 和久

第6部 阪大精神科の位置付け 和風会が関与した主要学会
 1 日本精神神経学会学術大会…武田 雅俊
 2 日本老年精神医学会とのかかわり…田中 稔久
 3 日本睡眠学会…杉田 義郎
 4 日本生物学的精神医学会…岩瀬 真生
 5 日本神経化学会…工藤 喬
 6 日本精神病理学会…清水 將之
 7 日本認知症学会…大河内正康
 8 日本神経心理学会…数井 裕光
 9 日本臨床神経生理学会…石井 良平
 10 日本青年期精神療法学会…井上 洋一
 11 日本ロールシャッハ学会…福永 知子

第7部 国際化への貢献
1 主催した国際学会の記録
 1 第5回アルツハイマー病及び関連疾患に関する国際会議…武田 雅俊
 2 国際アルツハイマー病学会と教室のかかわり…武田 雅俊
 3 第13回国際老年精神医学会…武田 雅俊
 4 国際老年精神医学会(IPA)と教室のかかわり…武田 雅俊
 5 第11回世界生物学的精神医学会(WFSBP 2013)…工藤 喬
 6 国際学会を通しての皇族・王室とのお付き合い…武田 雅俊
2 教室への留学生
 1 ラモン・カカベロス(Ramón Cacabelos) スペイン 1982-1991…Ramón Cacabelos
 2 デイジー・ヌルン・ベグム(Daizy Nurun Begum)
   バングラデッシュ 2002-2007…Daizy Nurun Begum
 3 アシック・アンサー(Ashick Ansar) バングラデッシュ2002-2007…Ashick Ansar
 4 ゴラム・サディク(Golam Sadik) バングラデッシュ 2003-2009…Golam Sadik
 5 レオニデス・カヌエット・デリス(Leonides Canuet Delis)
   キューバ 2005-2009…Leonides Canuet Delis
 6 アントニオ・クライス(Antonio Currais) ポルトガル 2009…Antonio Currais
 7 Two Decades of a Fine Relationship with the Department of
   Neuropsychiatry, Osaka University Medical…カリッド・イクバル(Khalid Iqbal)
 8 教室に受け入れた外国人留学生・外国人研究者…武田 雅俊
3 国外研究機関との連携
 1 教室からの留学の記録…田中 稔久

第8部 資料
 1 神経科医局日誌 昭和19年から22年…武田 雅俊
 2 和田豊種の日露戦争従軍日記…武田 雅俊
 3 大阪大学精神医学教室入局者名簿
 4 和田教授時代入局者の写真帳
 5 和風会会員の動向
 6 大阪大学精神医学教室歴代教授と保健センター・高次研教授
 7 大阪大学精神医学教室の学位受領者
 8 大阪大学精神医学教室を中心にした精神医学歴史年表

第9部 和風会会員による精神医療サービス
 和風会会員の病院,診療所…武田 雅俊
 INDEX
  人名
  件名