てんかんフロンティア
ー未来へのNew Trend

鶴 紀子(宮崎大学 名誉教授)・池田昭夫(京都大学 教授)・田中達也(旭川医科大学 名誉教授):編著

2017年発行 B5判 144頁
定価(本体価格3,300円+税)
9784880027661

内容の説明

 近年大きく進歩しているてんかん研究。その最新情報をスペシャリストがわかりやすくまとめた。
 小児科、神経内科、脳外科、精神科を網羅し、新規抗てんかん薬の使い方、脳波診断、外科治療など、てんかんの臨床について丁寧に解説している。さらに、てんかん臨床の理解を深めるために欠かせない基礎研究の成果を豊富に紹介!

序 文

 てんかんは古代ギリシャの医聖ヒポクラテスの記載にもみられるように,古くから知られた病気でありますが,科学が著しく発達した現在でもなお,未解決の問題が少なからず残されている脳の慢性疾患の一つであります.罹患年齢も頻度の差はあれ,新生児期から小児・思春期,さらに成人期,そして高齢期にまで広がっており,この疾患に関わる医師は小児科,神経内科,脳神経外科,精神科と幅広い専門分野にまたがり,看護・介護専門職の協力や家族・社会との協働も必要で,てんかん医療はいわゆる包括的医療の態勢が必要な分野であります.わが国でも近年,社会的ニーズに応じて着々とこの態勢が整いつつあることは喜ばしいことと考えます.
 医療面では近年,わが国でも大きな発展がみられています.難治性てんかんに対する手術療法は,その導入が諸種の事情で欧米諸国に遅れをとったものの,1980年前後から徐々に普及しています.これに伴って電気・磁気生理,脳画像などによる診断技術が急速に進歩・発展し,さらに臨床的に使用可能な抗てんかん薬も飛躍的といえるほど多く認可され,発作のより良好なコントロールに貢献できるようになりました.
 このようなてんかん医療の発展の陰には,非常に幅広い領域のてんかん基礎研究の継続的な努力があったことを忘れてはなりません.本書にはてんかんに対する臨床的研究成果とともに,近年拡大的に発展したてんかん基礎研究の多くの成果が分かりやすく紹介されています.てんかん臨床に携わっている方々はもちろん,これからこの分野での活動を目指す方々にとっても,本書は重要な指針を与えてくれるものと信じております.
 歴史を振り返ると,19世紀後半頃から発展してきたてんかんの臨床的・基礎的研究成果は,ヒトの脳の仕組みを探る有力な窓口にもなり,多くの脳科学研究の成果がてんかん研究分野から生まれました.現在のてんかん基礎研究は,従来の生理,解剖,病理,薬理,生化学などの領域に加えて,遺伝子や分子生物学の導入など,その裾野は著しく拡大しつつあります.これからは,この拡大した研究各分野が互いに交流・協力し合い,臨床研究とも協働して,より効果的なてんかん医療に役立つよう努力して頂きたいと念願しています.このことが現在でも世界で約5,800万人にも及ぶと推定されているてんかんに悩む人々やその家族,友人への福音となるものと信じています.

2016年 秋

九州大学 名誉教授
加藤 元博

おもな目次

第1部 臨床てんかんの診断と治療の最前線
 A てんかんのデジタル脳波診断 (飛松省三)
  1.デジタル脳波計
  2.てんかん診断の具体的手順
  3.てんかん原性
  4.偽性てんかん発作波
  5.てんかんの発作型と脳波
  6.てんかん焦点の決定

 B てんかんと高周波振動 (秋山倫之)
  1.高周波振動(HFO)とは
  2.HFOの記録
  3.HFOの検出
  4.発作間欠時のHFO
  5.発作時のHFO
  6.今後の展望

 C 小児てんかんの特徴とその治療 (大塚頌子)
  1.難治てんかん
  2.良性てんかん

 D 成人てんかん治療:薬剤と生理学的手法の可能性 (池田昭夫)
  1.薬物療法
  2.治療介入的臨床神経生理学(interventional neurophysiology)

 E てんかんの精神症状―全般性と局在性の観点から― (深尾憲二朗)
  1.てんかんの精神症状とそのメカニズム
  2.精神発作と精神病状態
  3.精神発作と精神病状態の関係についての脳磁図を用いた研究
  4.感情発作重積状態による精神病状態
  5.全般性と局在性の観点からみたてんかんの精神症状

 F てんかんの外科治療 (花谷亮典,有田和徳)
  1.いつ薬剤抵抗性と判断するか
  2.てんかん原性領域(てんかん焦点)の同定
  3.根治的手術
  4.緩和的手術

 G てんかん外科の発作転帰とその評価方法の問題点 (三原忠紘)
  1.Engel分類
  2.ILAE分類
  3.著者らの分類
  4.自験例の長期発作転帰

 H 新規抗てんかん薬の使用経験と実践 (小出泰道)
  1.これからの新規薬への期待:合目的創薬とserendipity

第2部 臨床てんかん研究―基礎的アプローチ
 A 新規抗てんかん薬と近未来抗てんかん薬 (笹 征史)
  1.現状の抗てんかん薬の作用メカニズム
  2.近未来の抗てんかん薬

 B 中心脳性てんかん:実験てんかんからのアプローチ (田中達也,橋詰清隆)
  1.てんかん発作モデルの作成

 C レンノックス—ガストー症候群(LGS)の病態生理―臨床
   —電気生理学的研究と最近の生理学的研究から (八木和一)
  1.LGSの臨床―電気生理学的研究の総括
  2.臨床症状,脳波現象からのLGSの発生機序

 D てんかんの外科病理診断と病理学的研究 (宮田 元)
  1.2つのILAE組織分類
  2.ヒトの切除組織を対象とする病理学的研究
  3.てんかん治療研究と病態解明における神経病理医の果たすべき役割と課題

 E てんかん発作の発現機序 (植田勇人)
  1.興奮・抑制系神経伝達に関する均衡
  2.酸化・還元系(レドックス)に関する均衡
  3.炎症・細胞死カスケードに関する均衡
  4.細胞死カスケードとてんかんにおける脳組織障害

 F てんかんと可塑性 (鶴 紀子)
  1.二次性てんかん原性
  2.てんかん脳の不安定な機能動態と発作発現機構
  3.小脳とてんかん原性
  4.興奮性アミノ酸とてんかん原性

 G てんかんとナトリウムチャネル異常 (山川和弘)
  1.電位依存性ナトリウムチャネル
  2.てんかん・知的障害・自閉症を示すドラベ症候群とSCN1A遺伝子変異
  3.Scn1a遺伝子変異をもつマウスモデル
  4.SCN2A遺伝子変異によるてんかんと自閉症

 H てんかんモデル動物の網羅的遺伝子発現解析によるてんかん発症分子機構の解明 (小島俊男,植田勇人)
  1.てんかんモデル動物の作成と解析の方法
  2.網羅的遺伝子発現解析による遺伝子発現のパターン分類
  3.今後の展望

 I ELマウスで神経幹細胞移植を用いた抑制性神経可塑性導入によるてんかんの治療,その可能性と問題点 (村島善也)
  1.背景
  2.幹細胞移植の最適化
  3.NSS由来神経幹細胞移植法の安全性

索引