多職種で取り組む転倒予防チームはこう作る!

日本転倒予防学会:監修
武藤芳照(日体大総合研究所所長)・鈴木みずえ(浜松医科大学臨床看護学講座教授)・饗場郁子(国立病院機構東名古屋病院神経内科):編著

2016年発行 B5判 144頁
定価(本体価格3,500円+税)
9784880027678

内容の説明

高齢者の転倒予防はより多くの職種がかかわるほど、より効果的な予防対策に結びつく!
病院で、施設で、今日から多職種協働の“転倒予防チーム”をつくり上げるためのヒントがここにつまっている! 
各分野の転倒予防スペシャリストたちが編み出した“成果につながるチームの知恵”を学ぶべし!

序 文

 「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」(孟子)とされる。それぞれの分野・領域での大きな事業や重要な活動・業務を進めるに当たって、この「天地人」が必要であることは、古来様々な場面で語られてきた。「人の和」は「人の縁」と読み替えてもよいかもしれない。

 書籍の企画・構成・編集・発刊に至る一連の営みも同じである。よいタイミングがあり、適切な場の設定がなされ、恵まれた人の縁が重なることにより、新しいテーマと形・内容の書籍の企画が成立する。
 2015年11月27日(金)の名古屋。第33回日本神経治療学会総会(会長:祖父江元 名古屋大学特任教授)のメディカル・スタッフシンポジウム「神経疾患患者の転倒を予防するために~チームで取り組む転倒予防~」が行われた。その夜、司会・シンポジストの4名、武藤、鈴木、饗場、および渡邊潤子さんでの懇談会となった。
 晩秋の宵、名古屋コーチン料理に舌鼓を打ちつつ、種々話題は広がりかつ深まり、本書の企画の構想が生まれた。
 終わったばかりのシンポジウムの内容を骨格にして、「多職種」をキーワードとして、「転倒予防チーム」のこれまでとこれからを様々な立場から、幅広い視点で捉えてまとめることとなった。
 出版社への依頼・調整は武藤が担当し、雑誌『Modern Physician(モダンフィジシャン)』の特集「転倒予防─これまでとこれから─」(2014年10月号,Vol.34 No.10)を仕上げるまでの手際のよさと丁寧さが印象的だった新興医学出版社 林峰子社長に連絡したところ、快諾を得、即決で企画・製作が固まった。
 めざすは、同じ名古屋の地で開催される2017年10月2日(日)の日本転倒予防学会第3回学術集会(会長:原田敦 国立長寿医療研究センター病院長)までに刊行することであった。以後の目次と執筆者の確定、執筆依頼から原稿の回収・整理、校正、完成に至るまでの一連の製作作業そのものが、「多職種連携」であり、「チームの力」であった。
 短期間に、質を担保しつつ膨大な量の編集・構成作業をしていただいた林社長と、同社の中方欣美さんに厚く御礼申し上げる。
 本書が、転倒予防にかかわっている多彩な職種・専門スタッフの方々に役立つことを願うと共に、本書を通して、また新たな縁が生まれ、広がることを希望している。

2016年9月吉日
編著 武藤 芳照
鈴木みずえ
饗場 郁子

あとがき

 2016年夏、リオデジャネイロオリンピックでの日本選手の活躍が連日報道されている。なかでも団体戦では個々の選手の力に加え、チームワークが勝敗を決める。個々の力はチームになると何倍にもなる。苦しい時も仲間がいれば支え合える。いい時も悪い時も共にすることで、さらに絆が深まる。チームで力を合わせる素晴らしさを連日目の当たりにし、感動と勇気をいただいている。転倒予防も同じである。各々の職種がはたす役割は、それぞれ重要であるが、多職種がチームとして連携することにより、とても大きな力になる。
 転倒予防の取り組みは、従来看護師が主となっていた。看護師は転倒の第一発見者となる場合が多く、「どうしたら次の転倒を減らすことができるか」について看護師の中でカンファレンスを行い、看護計画を立案していた。転倒を予防するためには、その人の生活パターンや思いを知る看護の視点は不可欠であるが、転倒には様々な要因が関連しており、看護の視点だけでは転倒を防ぐことはできない。1回の転倒の背景には運動機能、感覚機能、認知機能、栄養、薬剤、発熱等の全身状態、物を置く位置等の環境等、実に多様な要因が潜んでいる。これらの要因が関連していることを考慮すれば、個々の要因について専門性を持った職種がかかわる必要性は明らかである。
 転倒予防はチームで取り組むことにより、マイナスをプラスに変えることができる。転倒のイメージは、“転んでケガをすると疼痛が生じて動けない”、“発見者は「転ばせてしまった」と自分を責める”等、どちらかというとマイナスに捉えられがちである。しかしチームで取り組むことはとても楽しくcreativeである。皆で知恵を絞ると思わぬアイディアが生まれるものである。
 オリンピックメダリストのコメントを聞くと、順風満帆でなく、苦難を乗り超えてメダルをつかんだ選手がほとんどである。換言すれば、うまくいかないことを乗り越えた人が栄光を手にすることができるともいえる。転倒予防も「うまくいかないこと」であるが、チームで挑むことで、必ず乗り越えていけるようになる。始めからうまくいかなくてよい。まず一歩を踏み出そう。うまくいかなくても、チームの仲間がいればあきらめずに継続できる。そして継続していると必ずいつか成果があらわれるものである。本書には転倒予防チームをつくるためのヒントがぎっしりつまっている。本書が皆さんの転倒予防チームづくりのお役に立てることを祈念している。

2016年8月吉日
饗場 郁子

おもな目次

1章 多職種と多職種連携
1.多職種連携による転倒予防チームが求められる背景
2.転倒予防チームづくりの場と専門職の連携教育
3.転倒予防のための多職種連携チームのモデルとその展開
4.スタッフの「気づく力」と「見守る目」を育成するための事例検討
5.転倒予防チームを楽しく継続できる工夫とコツ

2章 転倒予防チームを構成する各専門職の視点と役割
1.医師
2.看護師
3.保健師
4.老人看護専門看護師
5.認知症看護認定看護師
6.理学療法士
7.薬剤師
8.健康運動指導士

3章 多職種連携による転倒予防チームの活動の実際
1.地域における転倒予防チーム
 1)地域ぐるみの運動の普及を通した転倒予防活動〜島根県雲南市の事例〜
 2)地域づくりをめざした転倒予防活動〜長野県東御市の活動〜
2.病院における転倒予防チーム
 1)東名古屋病院の転倒予防チーム「チーム1010-4」の取り組み
 2)国立長寿医療研究センターの取り組み
 3)名古屋医療センターの取り組み
3.高齢者施設における転倒予防チーム
 1)転倒による中度・重度外傷のない事業所の取り組み
 2)多職種恊働のリスクマネジメントによる二次予防の有効性
 3)認知症高齢者に対する介護施設での転倒予防の実践
4.ロボット技術やゲーム機の特性を活かした運動機能向上〜手段的訓練と目的行為〜


4章 転倒予防に役立つ各種資料
1.転倒予防のための事例集
 1)J-FALLS転倒予防事例集
 2)運動普及活動時のヒヤリ・ハット事例集
2.転倒予防川柳
 1)日本転倒予防学会の転倒予防川柳
 2)東名古屋病院チーム1010-4の取り組み〜川柳で 転倒予防の 策伝え〜
3.再骨折予防手帳
4.転倒予防川柳日めくり
5.転倒予防カルタ
6.日本転倒予防学会推奨品