日本転倒予防学会認定
転倒予防指導士 公式テキストQ & A

日本転倒予防学会:監修
武藤 芳照(日本転倒予防学会理事長/東京大学名誉教授)・奥泉 宏康(長野県東御市立みまき温泉診療所所長)・北湯口 純(島根県雲南市立身体教育医学研究所うんなん主任研究員):編著

2017年発行 B5判 144頁
定価(本体価格3,800円+税)
9784880027739

内容の説明

転倒予防のスペシャリスト「転倒予防指導士」を目指そう!
超高齢社会を迎えたいま、家庭内、地域、病院や介護施設などで起きる高齢者の転倒事故は大きな社会問題である。身近な問題だからこそ、高齢者に関わるあらゆる人が、転倒予防のスペシャリストになれるよう、創設されたのが日本転倒予防学会認定の「転倒予防指導士」制度である。非医療者にもわかりやすい、転倒予防対策の基礎から実践までがぎゅっと詰まった、初の公式テキストブックが登場した! 認定試験を目指す方のための過去問チャレンジ付き!

序 文

 日本転倒予防学会は、転倒予防医学研究会の運営10年の活動実績を基盤にして、2014年4月に発足しました。研究会時代からの医療、介護・福祉、健康・スポーツ、工学、法学などの多職種連携による融合と創発およびアカデミックかつアットホームの基本理念は保ちつつ、学術組織としての質を保ち高め、さらにその幅を広げ深めていこうという目標を掲げて、さまざまな取り組みを続けています。
 研究会時代の名称のなかにあった医学の「医」の文字を省いたのは、転倒予防にかかわる医学・医療の分野・領域における研究活動などは、当然継続・発展させる、それと共に「医」の文字が含まれていることにより、医学・医療の専門集団のみの学術組織と捉えられるのではなく、もっと幅広く転倒予防を社会全体の課題の一つとして取り組むべき姿勢を明確にしたかったからです。
 日本転倒予防学会の主要事業は、第1に転倒予防にかかわる研究活動の推進です。第2は転倒予防の教育・社会啓発活動です。とりわけ研究会時代より後者の事業を意図的に重視し、実績・工夫を積み上げてきました。「転倒予防指導士」(登録商標)の人材育成は、その教育・社会啓発事業の中核を成すものです。転倒予防指導士は、全国の医療機関、介護保険施設、地域社会など、さまざまな場面での転倒の実態とそれに即応した対策の企画・立案と実践主体者として活動し、広くそして長くわが国の転倒予防活動が継続、拡充する担い手となることが期待されています。
 これまで行われてきた「転倒予防指導士講習会」はそうした目標の下に、各専門家が創意工夫して講義・指導を行ってきました。実は、講師同士が他の講師の講義や指導内容に直に接することにより、誠に効率のよい勉強・研修になっていたほど、質の高いプログラムでした。
 今般、それらの実績と創意工夫の講義・指導内容をテキストの形式で組み上げ、実践的なQ&Aの方式で構成して本書が発刊できたことを 理事長として喜ぶと共に、短期間で集中的に執筆いただいた執筆陣に感謝いたします。また、企画段階より全面的に協力していただき、制約の多いなか、本書上梓にまでこぎつけていただいた株式会社新興医学出版社の林峰子社長と編集部の中方欣美さんに御礼申し上げます。
 「十年樹木 百年樹人」といいます。「1年で実りを得るならば穀物を育て、十年で実りを得るならば樹を植える、百年で実りを得るならばよき人材を育成する」の意の通り、日本転倒予防学会の「樹人」に向けて、本書が社会に役立てられることを切に希望しています。

2017年6月

日本転倒予防学会理事長 / 東京大学名誉教授
武藤 芳照

あとがき

 本書は、転倒予防医学研究会主催による2005年から18回の「転倒予防指導者養成講座」と日本転倒予防学会主催による2015年から5回の「転倒予防指導士基礎講習会」に参加・協力していただいた講師やスタッフの方々の協力によって、完成しました。12年という歳月を経て集結した本書の執筆者らは、多様な現場で日々対象者に向き合い、試行錯誤しながら転倒予防に取り組んできた実践的研究者です。転倒予防指導士に求められる知識と情報を整理し、重要な項目を限られた紙面でわかりやすくまとめていただいた執筆者の方々に感謝申し上げます。
 学習にあたって、最初から順に読み進めても、興味ある項目から学習しても、それぞれの章で独立して理解できるように編集してあります。また、各章の章頭には学習のポイントがまとめられてありますので、学習の目安としてご利用ください。本書は、転倒予防の基礎的な知識を広く、わかりやすく紹介することに重点をおいていますので、さらに詳しい転倒予防の知識や情報を得たい場合には、巻末の転倒予防に関連する参考図書をご利用ください。テキストブックよりも詳細なデータや、実際に、病院や地域社会で実践していくための事例が紹介されています。
 転倒予防に関しての最新情報や実践活動を知りたい場合は、年2回の「転倒予防指導士基礎講習会」にぜひご参加ください。書籍では得難い「顔のみえる多職種連携」の実際を体験することは、職場や実践活動の場で役立つ経験になると思います。また、転倒予防指導士の認定試験を検討している方は、巻末に掲載してある認定試験の過去問題に挑戦してみてください。基本的には、自動車運転免許試験と同じように〇×問題になっていますので、知識の確認になります。
 また、本書は医療の専門職だけでなく、転倒予防に興味を持ち、転倒予防を広げていこうという意欲のある地域社会での健康づくり、介護予防を実践している方々、そして一般の方々にもわかりやすいように編集しました。「転倒予防」が身近な問題、茶飲み話の一つとして語られるようになれば幸いです。まず、目の合った隣の人から転倒予防について語りかけていきましょう! 小さな一歩から大きな波へと広がって、日本全国、いや、世界中に転倒予防サポーターが増えていくことを切に願っております。
 本書が、読者の方々にとって転倒予防の歩を進める後押しとなり、この社会から一つでも多くの転倒が減っていくこと、そして一人でも多くの方が健やかに暮らせる社会の実現へと結びついていくことを心から祈念しております。

2017年6月

奥泉 宏康・北湯口 純

おもな目次

講義1 [POINT]転倒予防の基本理念と展望
Q1-1.転倒予防の基本理念とは?
Q1-2.転倒予防における多職種連携とは?
Q1-3.避けられる転倒、避けられない転倒とは?
Q1-4.転倒予防の将来展望は?

講義2A [POINT]転倒予防および転倒予防の現状と課題
Q2-1.転倒の実態は?
Q2-2.転倒予防の介入とその効果は?

講義2B [POINT]転倒後の外傷に対する治療とその予後
Q2-3.転倒による外傷の特徴は?
Q2-4.転倒による骨折の実態は?
Q2-5.転倒による頭部外傷の実態と特徴は?
Q2-6.転倒による外傷の予後は?─死亡率、自立度、ADL障害、QOLなど─

講義3A [POINT]転倒リスクおよび機能評価
Q3-1.転倒リスクの質問紙評価法は?
Q3-2.転倒リスクの運動機能評価法は?

講義3B [POINT]転倒予防の運動療法
Q3-3.転倒予防のための運動療法とは?
Q3-4.日常の活動度と転倒の関係は?
Q3-5.運動療法のエビデンスは?

講義4 [POINT]疾病と転倒予防の関係
Q4-1.神経疾患と転倒との関係は?
Q4-2.特発性正常圧水頭症と転倒との関係は?
Q4-3.糖尿病と転倒との関係は?
Q4-4.前立腺疾患と転倒との関係は?

講義5 [POINT]薬剤と転倒予防
Q5-1.多剤併用と転倒との関係は?
Q5-2.睡眠薬と転倒との関係は?

講義6 [POINT]栄養、ビタミンDと転倒予防
Q6-1.栄養と転倒の関係は?
Q6-2.ビタミンDと転倒の関係は?
Q6-3.サルコペニアと転倒の関係は?

講義7 [POINT]認知症と転倒
Q7-1.認知症の特徴と症状は?
Q7-2.認知症者の転倒予防対策は?

講義8 [POINT]転倒・転落リスクアセスメント
Q8-1.転倒・転落アセスメントシートとは?
Q8-2.転倒・転落のインシデント・アクシデント報告とは?
Q8-3.転倒予防のためのKYT(危険予知トレーニング)とは?

講義9 [POINT]病院における転倒予防のポイント
Q9-1.転倒・転落および損傷発生率の計算の仕方は?
Q9-2.病院における転倒・転落の実態は?
Q9-3.転倒・転落の発生要因と対策は?
Q9-4.入院時の転倒事故に関する説明の仕方は?
Q9-5.ベッドサイドの環境整備とアラームシステムは?
Q9-6.転倒・転落患者を発見したときの対応は?
   ①頭部外傷のチェックポイントは?
   ②大腿骨近位部骨折のチェックポイントは?
Q9-7.病院における転倒・転落事故に対する法律的責任は?

講義10 [POINT]介護保険施設の転倒予防対策
Q10-1.介護保険施設での転倒の実態は?
Q10-2.介護保険施設での転倒予防対策は?

講義11 [POINT]地域社会における転倒予防
Q11-1.地域社会における転倒の実態と発生要因は?
Q11-2.地域社会における転倒予防対策は?
Q11-3.大腿骨近位部骨折予防のための地域連携とは?
Q11-4.地域社会での二次骨折予防対策は?

講義12 [POINT]環境要因と転倒との関係
Q12-1.転倒の環境評価は?
Q12-2.転倒予防のための住環境整備とは?

講義13 [POINT]転倒予防グッズ
Q13-1.転倒予防グッズの工学は?
Q13-2.ヒッププロテクターの効果と限界は?

講義14 [POINT]転倒予防体操
Q14-1.太極拳を用いたリズム体操の特徴と効果は?
Q14-2.二重課題を活用した転倒予防体操とは?

講義15 [POINT]フレイルと転倒
Q15-1.フレイルとは?
Q15-2.フレイルと転倒との関係は?
Q15-3.フレイルと転倒予防の対策は?

巻末資料
1. 認定試験過去問チャレンジ
2. 転倒予防指導士に必要な統計学の基礎知識
3. 転倒予防のための運動プログラム(リズム手合せ)
4. 転倒予防指導のためのオススメ書籍
5. 転倒予防指導士にかかわる規則と手引き