the FACTS 炎症性腸疾患
-患者、介護者、医療従事者のための専門的アドバイス-
Louise Langmead and Peter Irving:著
古川 滋(NTT東日本札幌病院 消化器内科):監修
田島彰子:訳

2011年発行 A5判 192頁
定価(本体価格2,700円+税)
ISBN:9784880028149

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内容の説明▼

【監修者序文】

 潰瘍性大腸炎の患者となり20年が過ぎた。
 当時は潰瘍性大腸炎という病気が知られ始めた時代であり,治療はサラゾピリンとステロイドが中心であった。免疫抑制剤は保険認可されておらず(しかし主治医は処方してくれていた),白血球除去療法の臨床試験が始まりこれへの登録も勧められた。
 インターネットの発達はなく,自己の病気に対する情報は論文を含めての"本"であった。
 入退院を繰り返し,周囲の協力に甘えて何とか学部を卒業し国家試験に合格することができた。母校を離れ,炎症性腸疾患の臨床研究を自らへのテーマとして北海道大学第三内科に入局。以降は大学病院での研究も行いつつ北海道内の病院を転々とし,今年40を迎えた。人生の半分以上を潰瘍性大腸炎とともに暮らしていることになる。
 この間に,本邦オリジナルとしての白血球除去療法が開発され,これは今,潰瘍性大腸炎のみならずクローン病にも使用されている。クローン病の特効薬としてレミケードが登場し,これは今,潰瘍性大腸炎の患者にも使用されている。潰瘍性大腸炎およびクローン病のガイドラインが作成され,少し大きな書店の医学書コーナーやインターネットでも見ることができる。全国各地では炎症性腸疾患に関する研究会が積極的に催され,いずれの会も大盛況である。
 しかしながら。
 この本に興味をもたれた方は重々御承知のことかと存ずるが,クローン病や潰瘍性大腸炎という"炎症性腸疾患"はいまだに原因もはっきりしておらず,完治の難しい病気である。程度の差はあるが日常生活にも制約を受け,寛解に入っても再燃・憎悪の不安を抱え暮らさなければならない。医師と患者のみで成り立つ治療ではなく,家族や友人,職場や学校など周囲や行政の協力が必要不可欠である。本書では英国における医療情勢を反映しており,本邦における医療体制とは異なる面がいくつもみられる。チームによる医療,家庭医や専門ナースなどは非常に興味深く,患者の面からみると心強い制度ではなかろうか? ロンドン大学には邦人用のホームページもあり,この体制を垣間見ることができる。個人的には民間療法や数年前に話題になった寄生虫療法(!)のことまで取り上げられていて,楽しむことができた。

 今回小生が監修を引き受けるにあたり,一人のクローン病患者の存在を記したい。
 彼女は中学生の頃からたびたびの腹痛,嘔吐があり,いくつかの病院を受診したが確定診断に至らず"胃腸炎"と対応されていた。クローン病の診断がついた時には発症から優に10年を超えており,既に精神的にも追いつめられていた。担当医となって数年経過したある日,全身の関節痛が出現。痛みで横にもなれないほどで,いくつかの病院を受診したが確定には至らなかった。御本人と相談して,本書訳者の田島彰子氏の主治医である,長野県篠ノ井病院の浦野房三先生を受診。線維筋痛症と脊椎関節炎の合併であろうとの診断に至った。目から鱗の思いで篠ノ井病院へ押しかけ,貴重なお時間を頂き,画像読影から診察の仕方まで,懇切丁寧にご教授をいただいた。この時のやり取りが御縁となり,今回の翻訳にあたり監修という重責務をいただいている。40歳という年齢は医師にとってまだまだ若輩であることは重々承知しているが,"だからこそ,若いからこそ"とのことでお引き受けした次第である。
 この1冊の小さな本が,少しでも多くの人の目にとまり,役立てていただければこれに勝る幸せはない。

 2011年3月
 古川 滋

おもな目次▼

第1章 炎症性腸疾患とは何か
第2章 どんな人がどうして炎症性腸疾患になるのか
第3章 炎症性腸疾患の消化管症状
第4章 炎症性腸疾患の全身症状
第5章 炎症性腸疾患の患者にはどんな検査が行われるか
第6章 IBD医療チーム
第7章 IBDナース
第8章 炎症性腸疾患の治療法
第9章 炎症性腸疾患の外科手術
第10章 炎症性腸疾患の補完代替薬
第11章 今後の展望と実証されていない治療法
第12章 食事と栄養
第13章 腸管外合併症
第14章 自分のために何ができるか
第15章 少年期と思春期の炎症性腸疾患
第16章 炎症性腸疾患における受精(胎)能と妊娠
 付録1 世界のIBD組織と患者会
 付録2 用語解説
 索引