睡眠教室 夜の病気たち
宮崎総一郎・井上雄一:編著

2011年発行 A5判 178頁
定価(本体価格3,000円+税)
ISBN 9784880028187

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内容の説明▼

はじめに
 人は,人生の3分の1を眠って過ごす。「寝る子は育つ」「一晩寝かせる」と昔からいわれてきたように,眠りにはさまざまな効用があることは経験的にわかっている。ヒトの大きく発達した大脳は眠ることで,覚醒時に最大限に機能し,今日の文明を作り上げてきた。眠りはより良い活動するために,疲れた脳を回復させるための,巧妙にプログラムされた生理機構である。睡眠不足では,睡眠負債という借金を背負い,さまざまな身体不調を生じる。睡眠負債を長期にわたりため込むと,人は負債に押しつぶされ病気になってしまう。24時間社会となった日本では,3人に1人が眠りにかかわる問題を抱えている。新幹線の運転士や,飛行中のパイロットが乗務中に眠りこむ,航海士の睡眠不足のために巨大タンカーが座礁して甚大な環境破壊をもたらすなど,睡眠が十分でないための事故が多発しているのが現状である。
 私たちはなぜ眠るのか。2004年,琵琶湖の近くにある滋賀医科大に睡眠のメカニズムを解き明かし(睡眠科学),睡眠の病気を治療し(睡眠医学),睡眠が関係する社会問題を解決する(睡眠社会学)ための睡眠学講座がわが国で初めて開設された。講座開設から5年目を迎えた2009年から,学部教育として睡眠学概論の講義に取り組んでいる。
 この本は,睡眠に関心があるが,経験が十分でない一般臨床医の先生方から,研修医,患者さんを含む睡眠に関心のある一般の方までを広く対象として,実践的な内容となるように,企画した。睡眠の役割,メカニズムをはじめとした基礎知識や睡眠衛生を理解し,非薬物的に軽度の睡眠障害に対処するための情報を含むように心がけ編集した。病気の解説にあたっては,短時間で読めるように典型的な症例に簡単な解説をつける形とした。
 気楽にさっと読んでいただき,睡眠医学,睡眠科学に興味を持っていただければ幸いである。
 編著者 宮崎総一郎 井上雄一

おもな目次▼

Ⅰ 眠りとは
 1.眠りの役割~生物学的観点から~
  A.2種類の睡眠とそれぞれの役割
  B.睡眠は大脳を創り育てる―レム睡眠の役割
  C.睡眠は大脳を守る―ノンレム睡眠の役割
  D.睡眠リズムは昼夜リズムに同調する―生物時計の役割
  E.睡眠は大脳をよりよく活動させる―2種類の睡眠の役割分担
 2.睡眠のメカニズム
  A.睡眠異常は社会の損失
  B.質のよい睡眠とは
  C.睡眠と脳波
  D.レム睡眠,ノンレム睡眠
  E.生物学的進化とレム睡眠とノンレム睡眠
  F.レム睡眠,ノンレム睡眠の調節機構
  G.加齢と睡眠
 3.松果体ホルモン・メラトニン
  A.メラトニンの分泌調節
  B.メラトニンの睡眠・生体リズム調節作用
  C.臨床応用
 4.睡眠学とは
 5.睡眠科誕生

Ⅱ 代表的な眠りの病気
 1.不眠
  A.精神生理性不眠
  B.認知行動療法
 2.生活習慣病と睡眠障害
  A.2型糖尿病と睡眠障害
  B.2型糖尿病の高血糖による不眠
  C.2型糖尿病の合併症に伴う不眠
  D.2型糖尿病に併発した睡眠障害
 3.リズム障害
  A.交代勤務睡眠障害
  B.時差症候群による睡眠障害
  C.睡眠相後退症候群
  D.睡眠相前進症候群
  E.非24時間睡眠覚醒リズム
 4.レストレスレッグス症候群
  A.RLSの診断
  B.RLSの診断を支持する所見
  C.RLSの背景疾患
  D.RLSの治療
 5.周期性四肢運動障害
  A.症例(80歳 男性)
 6.うつと睡眠障害
  A.うつとはいかなる状態か?
  B.うつは慢性疾患の多くに随伴する!
  C.うつ病の睡眠仮説はどんなものがあるのか?
  D.不眠はうつ病発生・再発の危険因子
 7.アルコールと睡眠障害
  A.酒は百薬の長か?
  B.アルコール依存症がない人々の睡眠へのアルコールの影響は?
  C.アルコールと睡眠呼吸障害の関係は?
  D.アルコールの加齢関連の影響と飲酒の衝撃
  E.アルコール依存症患者の睡眠に及ぼすアルコールの影響
 8.睡眠時無呼吸症候群
  A.小児の睡眠時無呼吸症候群
  B.成人の睡眠時無呼吸症候群
  C.顔面形態によるもの
  D.体位によるもの
  E.うつとの合併
 9.睡眠不足症候群
 10.ナルコレプシー
  A.ナルコレプシーの症状と診断
  B.睡眠検査所見
  C.ナルコレプシーの病態と関連する所見
  D.ナルコレプシーの鑑別診断
  E.ナルコレプシーの治療
 11.特発性過眠症
 12.レム睡眠行動障害
  A.レム睡眠行動障害の症例
  B.鑑別を要する疾患
  C.治療
 13.若年者の睡眠中の異常行動
  A.症例(27歳 女性)

Ⅲ 自らできる睡眠改善
 1.快眠のための食事
 2.快眠のために,誰でもできる減量プログラム
  A.体重増加を体感させる
  B.一番簡単な食事療法は何か?
  C.体重記録
  D.ダイエットは睡眠から
 3.快眠のための運動
 4.睡眠環境
  A.温湿度
  B.光と睡眠
  C.騒音と睡眠
 5.快眠のために心がけたい生活習慣
  A.規則正しい就床・起床時刻
  B.昼寝
  C.入浴
  D.カフェイン
  E.ニコチン
  F.アルコール
 6.睡眠12か条
  1.睡眠時間は人それぞれ,日中の眠気で困らなければ十分
  2.刺激物を避け,眠る前には自分なりのリラックス法
  3.眠たくなってから床につく,就床時間にこだわりすぎない
  4.同じ時刻に毎日起床
  5.光の利用でよい睡眠
  6.規則正しい3度の食事,規則的な運動習慣
  7.昼寝をするなら,15時前の20~30分
  8.眠りが浅いときは,むしろ積極的に遅寝・早起きに
  9.睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や,足のぴくつき・むずむず感は要注意
  10.十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に相談
  11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
  12.睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全

睡眠Q & A
用語集
あとがき
索引