リラックス外来トーク術 じゃぁ、死にますか?
新見正則(帝京大学医学部外科 准教授):著

2011年発行 A5判変形 170頁
定価(本体価格1,800円+税)
ISBN 9784880028279

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内容の説明▼

推薦の序
 私は内科医である。新見先生は外科医である。本来、このような書を著わすのは内科医が多く、私が書いて、新見先生が評するのであれば、納得できるのであるが、ともかく、「これを書いたので書評を書いてくれ」という新見先生の申し出に驚いた次第である。
 私の専門は、代謝学であり、糖尿病や脂質異常症の患者さんを診ることが多い。当然、これらの患者さんでは動脈硬化性疾患の発症頻度が高く、そのような検査も多くする。その結果、新見先生の専門とする閉塞性動脈硬化症の患者さんをお願いすることから、新見先生との併診が多くなり、先生との親交も深くなっているというのが診療上のつながりである。
 一方、私が本学附属病院の副院長をしているころに、帝京大学病院でもセカンドオピニオン外来を立ち上げようということになり、病院の先生方に手上げをお願いしたところ、真っ先に手を上げてくれたのが新見先生であり、帝京大学病院にもセカンドオピニオン外来が立ち上がった。当時は、セカンドオピニオン外来を持っている病院が、あまり多くはなかったことから、報道でもよく取り挙げられ、新見先生も一躍有名人となった。
 本書を読んでみて、新見先生が、あらゆる場面を有効に生かして、現在の地歩を築いてこられたのだと、感心しきりであり、先生の貪欲な勉学心に頭が下がる思いである。さらに、患者さんとの対話を主とする内科医でさえ気付かない外来診療の機微をつかんでおられ、患者さんに「寄り添った」診療をしていると聞くと、外来診療を主とする内科医である私自身も身が縮む思いがしてくるのである。新見先生は、私より、まだ若い医師であるが、ある意味私より先に、ある境地に達しているのかもしれない。
 新見先生が漢方に詳しいと知った時は、本当に驚いた。外科医が、漢方を上手に使うということはあまり知らないからである。しかし、逆に言うと、外科医であるがゆえに、西洋医学の弱点もしっかり見えるのかもしれない。それを補完する方法として、漢方を使われるということであり、これも新見先生が漢方を使うという先生の立ち位置を明確にしているのではなかろうか。
 二〇〇九年、新見先生から、日本内科学会の年次学術講演会に、演題を応募したいということで、私に推薦してくれと言われ、これまた驚いた。現職の大学の外科医で、日本内科学会の講演会に筆頭者として応募したケースはほとんどないのではなかろうか。時として、このような突拍子もないことをして、驚かしてくれる。しかもである。その内容が漢方薬による治療エビデンスの論文なのである。さらに驚かされたのは、その論文の評価が極めて高く、約五三〇演題中の上位一四題の一つとしてプレナリーセッションでの口頭発表となったのである。
 さて、書評に戻る。本書は、外科や内科を問わず、医師にとって必要とされている外来診療の、いわばテクニック集といってよいであろう。こう言うと味もそっけもないようであるが、各所で記載されているように、患者さんに対する愛情が根底になくてはならないということが肝である。患者さんに対する愛情をもってこのようなテクニックを駆使しないと、時に問題となるということを肝に銘じていただきたいと思うのである。というのは、新見先生の書いていることを、そのまま読むと時としてびっくりするような表現があるからである。常に、患者さんと医師との人間関係という枠組みの中で(つまり、それは患者さんに対する愛情、医師に対する信頼感という枠組みである)、発せられていい言葉や行動があるものである。わたしは、まず、医師自身が、まず自分の立ち位置をよく確認して、患者さんとの人間関係を、よく認識して接することが最も重要なのであると確信している。こういった中に新見先生の言動が位置付けられているということには、新見先生も賛成してくれるものと思うのである。
 本書を一読して、また、新見先生も一皮むけたなという印象を強く持った次第である。
 多くの先生方が、本書をお読みになって、なるほどとうなずけるようになれば、医療紛争も少しは少なくなるのではないかと期待するものである。

 平成23年3月
 帝京大学医学部長      
 寺本 民生 

 

はじめに
 この本は、外来はこうあるべきだとか、こうしなければならないなどと説教じみてお話しするものではありません。つまり、この本は、教科書でも、参考書でも、手引き書でもありません。接遇のプロがお話しする書物でもなく、医療面接の教員による教科書でもありません。最近、私の外来を見学に来られる先生方が、「先生の口調や雰囲気を是非真似したい」と言って頂けるものですから、そんなことを書物にしただけです。つまり僕はこんな外来をやっているということであって、それを参考にして頂くのもよし、また批判的にとらえて、まったく違った外来を行って頂いてもよいのです。僕の外来は末梢血管外科の外来と、最近は漢方を使用しているものですから現代西洋医学で治らない訴えや症状を持った方々が多数受診します。地域に密着している大学病院で地域のいろいろな方々が訪れますが、一方で本やテレビやネットを見て、全国からもいろいろな訴えの患者さんが来てくれます。そんな外来の光景を本にしただけです。
 この本を手に取られる先生方は、外来が好きな先生方と思います。いろいろな意味で、この本が先生方の役に立てば、それで幸せなのです。

 

おわりに
 この本を読んで頂きありがとうございます。外来診療が好きな先生方の参考になれば幸いです。「こんな話し方もあるのか。真似してみよう」という好意的な反応も大歓迎ですし、一方で「私はこんな外来はしないな」というような批判的な材料として使用して頂いても結構です。僕は血管外科医として西洋医学のプロフェッショナルとなり、そして西洋医学には限界があることに気がついたときに、漢方薬という別の引き出しに巡り会いました。この本のなかにも、漢方というまったく別の治療手段を手に入れてやっとリラックスして外来診療ができるようになった自分自身が描かれています。
 もしも、漢方に少しでも興味が沸いて、その勉強方法に迷いがあれば、僕の著書も参考にしてください。本当に明日から使える漢方薬シリーズが新興医学出版社より三冊出ています。「明日から本当に使える漢方薬 七時間速習コース」、「フローチャート漢方薬治療」、そして「モダン・カンポウを学ぶカンタン・カンポウ」です。
 本書を執筆するに当たり大変にお世話になりました野村貴久殿と新興医学出版社の林峰子社長に心から御礼申し上げます。
 2011年1月吉日
 新見正則

おもな目次▼

プロローグ
 患者さまに不愉快な思いをさせない「患者さま外来」
 患者さんに親身に寄り添う外来も大切
 外来診療でリラックス出来てますか?

僕の外来診療 【話し方編】
 「じゃあ、死にますか?」
 「一緒に死ぬまで頑張ろうぜ」
 「僕が新見です」
 「今度はいついらっしゃいますか。毎日来てもいいですよ」
 「少しはいいですか」
 「今度は娘さんにおむつ替えてもらいなさい」
 「重いネックレスできるようになったんだね」
 「洋服似合いますね」
 「患者さま」なんてくそ食らえ
 「CTはこんなちっちゃな画面だからね」
 「専門家は異常がないと言っているよ」
 「これで納得できますか」
 「医療に一〇〇%はないですよ」
 「僕の家族ならこうします」
 「一〇〇人に一人死ぬ」と「今度の手術であなたは死ぬかもしれない」は別
 「一〇人中九人は思っていたより楽だと言ってくれますよ」
 「何かあれば、また来てくださいね」
 「僕には治せません」
 「だんだん良くなりますよ」
 「若い頃に完全に戻ることはないですよ」
 「禁煙できたのかい。僕の前では正直に。ちゃんと診てあげるから」
 「何年間連れ添ってるんだい?」
 「運動だけで痩せることはないよ」
 「ガムを噛んでいる人は診ませんよ。あなたも礼儀を尽くして下さい」
 「すべてを今日だけで聞くことは無理。次回また聞いてあげる」
 「いわゆる老衰ですね」
 「元気になると薬は忘れるもんだよ」
 「処方箋の有効期限は四日です」
 「このままだとあんた死ぬよ」
 「今までで気持ちが良い体重は?」
 「一病息災」
 話術は芸術

僕の外来診療 【ちょっとしたこと編】
 気持ちよくさせるのか、患者と真剣に向き合うのか
 患者を待たさない。診療時間より前に始める
 時間がかかる患者さんはあとで
 ドアを開けて、患者さんを呼ぼう
 初診時の問診票は役に立つ
 長く話しても患者さんは理解できない
 身だしなみはどうする
 看護師の勘はあっている
 親が一緒に入って来て、喋りまくるのは変
 美人には要注意
 検査結果は説明し、お持ち帰り
 検査結果はあなたのものだけれども、あげられない
 患者が自分から話したことは書き留める
 紹介状の先生を褒める
 薬の説明書や健診の書類は見てあげる
 ワルファリンやアスピリンの中止は要注意
 一期一会
 脈を診る、体に触れてあげる
 書類はその場で書く
 医者と患者は対等ではない。こちらが医療を施している。当たり前のこと
 メモは奪い取って利用する
 患者さんが希望した検査はやろう
 最初に一番困っていることを言うとは限らない
 同じ目線の高さで
 一緒にくる人には上手に関係を聞こう
 希望は大切。それが無理とわかっていても
 マイマウスとマイキーボード
 マイチェア
 マイミュージック
 マイPC
 病院内の医師に敬語は変
 エレベーターでの心配り
 診療行為中の電話は

僕の外来診療 【クレーム対応編】
 素直に謝る
 同じことが起きない努力をすることを伝える
 自分一人で抱え込まない
 臭くて診られない
 法律的な対処が必要なことも
 ブランドイメージがすべて

僕の外来診療 【漢方があれば編】
 「なにか困ることはありますか」
 プラセボ効果の何が悪い
 「一緒に有効な漢方薬を探しましょう」
 「治る」とは言い切らない
 「一日三回適当に飲んで下さい」
 「西洋薬は続行ですよ。止めないようにしてください」
 「漢方だって副作用はあるよ。何かあったら止めて下さい」
 「漢方は養生のひとつ。努力した人に微笑むんだよ」
 「そんなに訴えても全部は一度に治せない。何が一番困るんだい」
 「困ることを順に言ってごらん」
 「なんでも聞いてあげるけれど、まず良くなったことを言いなさい」
 「季節によって悪いこともあるよ。一年前と比べてごらん」
 「治るにはかかってからの半分の時間がかかることもあるよ」
 「漢方でよかったら、いつでも相談に乗りますよ」
 「誰も取り合ってくれないんだね。困っているんだね」
 「漢方薬はあなたという森全体を治すのですよ」
 患者さんに嫌われることも大切

僕の外来診療の変遷
 医者になりたての外来診療……外来はDuty
 そこそこの医師になっての外来診療……リラックスできない
 オックスフォード留学で学んだこと……エリート達の仕草
 接遇コースで学んだこと……表面的な味気なさ
 ビジネススクールで学んだこと……医療はサービス業
 コーチングで学んだこと……患者さんの話を聴いていない
 セカンドオピニオン外来で得られたこと……患者はほとんどわかっていない
 保険会社の意見書を書いて学んだこと……こんなことでも訴えられる
 テレビ番組出演で得られたこと……いいとこ取りされる
 漢方に出会ってからの外来……リラックスして患者さんと歩める
 運動の素晴らしさを体感してからの外来……養生も大切

おわりに
参考文献