女性を診る際に役立つ知識
武谷雄二(東京大学 名誉教授):編著

2012年発行 A5判 264頁
定価(本体価格4,500円+税)
ISBN 9784880028286

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内容の説明▼

 プライマリケア医がしばしば遭遇する女性特有の症候、疾患、病態を取り上げました。具体的には、「総論」「女性特有の症状・病気」「女性によくある症状・病気」「女性とくすり」「予防医学」の5章立てとし、プラクティカルな情報をわかりやすく解説しました。

 これまで医学研究は主として成人男子を対象として診療体系を確立してきた。しかしあらゆる疾患に絶対的頻度,好発年齢,病気の程度や経過に男女差があるといっても過言ではなく,近年そのような視点で診療にあたることの重要性が強調されつつある。
 性差が生ずる所以としてもっとも明示的なものは妊娠,出産に伴う健康障害や生殖器の疾患である。これらは性差というよりはジェンダー特異的であり,女性が受診する訴えや症状の約30%が女性特有のものである。一方,男性が受診する理由の10%程度は男性特有の異常であり,この点に関して明らかに性差がある。
 次いで性差を生ずる要因として男女特有のホルモンの存在が挙げられる。最近の研究によると,エストロゲンは,ほとんどすべての組織や臓器に作用することが明らかにされつつある。また,エストロゲンの分泌が低下する種々の病的,生理的状態により,精神状態,骨代謝,脂質や糖代謝などが変化する。一方,男性ホルモンはエストロゲンとは異なったスペクトラムの生物作用を発揮する。加えて,エストロゲンの作用を打ち消すことや,逆にエストロゲンに転換されてエストロゲンとして作用することがある。このような事実から男女を特徴づける性ステロイドホルモンは男女の疾患の差を決定づける大きな要因といえる。このことを裏づける傍証として,エストロゲンが欠落している女性にエストロゲンを補充すると,さまざまな疾患の発症リスクが変化するということが挙げられる。
 男女の社会文化的な役割分担,地域や時代に伴う生活様式,民度の変化なども疾患の性差と関係するだろう。たとえば,職業に関連する疾患は圧倒的に男性が多い。また女性においては出産の有無,あるいは出産回数により疾病構造が異なることはよく知られている。また医療レベルも性差を規定することになる。たとえば,抗生物質が開発されていない時代には病原菌に対する感受性の性差は死亡率の性差に大きく影響したであろう。また,産婦人科医療が近代化される以前は妊娠出産に関連する疾患や死亡が女性にとってもっとも大きな脅威であった。
 昨今,医療のエンドポイントとして疾患の根治よりも生活の質(QOL)の維持,向上が叫ばれている。当然QOLは個人や年齢による個別化が必要となるが,性別を念頭におくことも大変重要である。性差を考慮しない良質な医療はあり得ないといえる。
 性器出血や月経痛など明らかに女性特有の症状を訴える場合には婦人科を受診することになるが,それ以外の症状を有する女性は一般医家を受診する場合が多い。診察に際し,必ず問診や患者背景を聴取するが,性別は一見してわかるため逆にその重要性を看過しがちとなる。特に,前述の如くエストロゲンの全身に及ぶ多彩な作用を考慮すると,少なくとも性別,そして女性の場合にはエストロゲンが作用しているか,換言すれば生殖年齢か否かを把握して診察にあたることは的確な診断や治療に必要となる。
 従来,女性特有の疾患の診断学は産婦人科の教科書に詳述され,それ以外の疾患に関する医学書にはあまり性差を意識した記述がなされてこなかった。本書は各種疾患の診断学を網羅的に記載するものではなく,従来の医学書に欠けていた生殖年齢の女性特有の症候,疾患,病態を解説し,それと関連した薬物療法の留意点や予防医学などについて解説したものである。したがって,産婦人科医,一般医家に加え看護職,保健業務にかかわっておられる方々などにも活用していただくことを意図している。(序文より抜粋)

おもな目次▼

第1章 総論
 1.生殖年齢にある女性を診る際の留意点
第2章 女性特有の症状・病気
 1.月経異常を伴う内科的疾患
 2.月経前症候群
 3.婦人科疾患を疑う下腹痛
 4.どういうときに更年期障害を疑うか
 5.ホルモン補充療法の今日的位置づけ
 6.婦人科がんになりやすい女性
第3章 女性によくある症状・病気
 1.女性と片頭痛
 2.女性と貧血
 3.女性の排尿障害
 4.女性と便通障害
 5.骨粗鬆症のリスクが高い女性とその管理
 6.女性と静脈瘤,深部静脈血栓症
 7.女性によくみられる皮膚病変
 8.女性と美容医療
 9.女性とやせ
 10.女性と肥満
 11.女性と冷え
 12.女性と脂質異常症
 13.女性と高血圧
 14.女性と糖尿病
 15.女性と心身症
 16.女性と心の病気
第4章 女性とくすり
 1.薬剤と性差
 2.妊娠と薬物
 3.低用量経口避妊薬服用女性で気をつけること
第5章 予防医学
 1.女性と予防接種
 2.知っておくべき乳がん検診のポイント
 3.HPVワクチンについての相談