本当に明日から使える漢方薬シリーズ番外編③
じゃぁ、そろそろ減量しませんか? 正しい肥満解消大作戦
新見正則(帝京大学外科):著

2012年発行 A5変型判 145頁
定価(本体価格1,700円+税)
ISBN 9784880028330

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内容の説明▼

新見先生の肥満の漢方治療によせて
 大学時代の同級生である新見先生から推薦文を依頼され,即答でOKさせていただいた。新見先生の血管外科医としての活躍は存じ上げていたが,一方で彼が漢方を勉強し,多数の著作を出す専門家になっていることは知らなかった。研究や後進の指導にあたる多忙ななか,まったく別の分野を勉強された努力には頭のさがる思いである。
 さて,今回の新見先生のテーマは肥満の漢方治療である。漢方による肥満治療は,いま注目すべき分野のひとつと思われる。というのも現在,肥満の治療法の選択が制限された状況にあるからだ。この10年余り使われてきたシブトラミンという食欲抑制薬は,服用を続ける限り数%の減量の維持を可能にした。しかし昨年,日本にいよいよ導入されようという矢先,心血管病のリスクを増すということで,突如,使用中止となってしまった。現在,使用可能な薬物は脂肪吸収阻害薬であるオルリスタット(日本では採用されていない)と食欲抑制薬のマジンドール(こちらは諸外国ではあまり使われない古い薬)のみである。
 一方,高度の肥満者には,一般に外科手術が勧められている。肥満に外科手術とは過激な方法に聞こえるが,長期の減量維持は食事や運動療法をはるかにしのいでおり,今やアメリカでは年間20万人,他のEU諸国でも年間数千~1万人余りが受ける標準的な治療法である。しかし,健康保険の適応がなく,他の医療費が安い日本では,なかなか広まっていかない(それでも海外で手術を受けるのに比べて半額くらいなのだが…)。
 このため日本では,肥満の治療は食事と運動に頼らざるを得ないのが現状であり,他の手段として,漢方は考慮すべき治療法のひとつといえる。その長期的な減量維持効果,減量にともなう心血管病リスクの改善効果について,今後きちんと検証する必要があり,新見先生の興味はそこにあるのではないかと思う。
 一方で,新見先生は食事や運動の重要性も説いている。適切に身体を動かすことと緩やかな食事制限が重要であるとする新見先生の考えには,私も基本的に賛成である。食事や運動の継続には,指導する側のカリスマ性も重要である。本書は新見先生ならではの率直な記述が随所に見られ,また,運動や健康的な食事を実践している者ならではの自信にあふれている。こうした新見ワールドに魅かれて集まった患者さんが,漢方治療を併用しながら,食事や運動に積極的に取り組まれれば,素晴らしいことだと思うし,本書がそのきっかけになることを願っている。

平成23年10月
慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授      
勝川 史憲 

 

はじめに
 この本は,「○○日間で痩せる」とか,「無理せずダイエット」とか,「楽々減量」といった簡単に減量しようということを目的とした本ではありません。そんなことが可能であれば,その本や方法がベストセラーになり,世の中で,肥満で困っている多くの人々がその恩恵にあずかっているはずです。そんな簡単で安易な方法があるわけがないのですね。そんなことは多くの方が知っていながら,感じていながら,実際にはできないのですね。つまり根本的な心の改善がなにより重要です。
 この本は肥満の現代医学的解説と,肥満を放置した場合の将来的な損失,そして著者自身が痩せた方法の紹介,漢方的思考の重要性と漢方薬の有用性を書き記したものです。そして,肥満合併症治療入院の概略もご説明します。

おもな目次▼

プロローグ
僕の減量作戦と漢方の限界/漢方的思考とは

第1章 肥満の科学─現代医学的なアプローチ─
なぜメタボはいけないの/メタボリックシンドロームの基準はいいかげん?/デジタル感覚の危うさ/なぜ内臓脂肪は悪役か/三大栄養素/脂肪とは/動物性脂肪と植物性脂肪/なぜ腹囲なの?/BMIとは/では適正体重は?/そうは言っても痩せた方がよい人もいる/なぜ肥満がいけないの?/糖尿病/脂質代謝異常/高血圧/高尿酸血症・痛風/動脈硬化性疾患/脂肪肝/尿蛋白・肥満関連腎症/睡眠時無呼吸症候群/整形外科的疾患/月経異常・不妊/がん/本当に肥満が悪いの?/なぜ太るのか/炭水化物が脂肪になる/健康な島が無残な結果に/必要カロリーはどれくらい/ちょい太りがいい/基礎代謝/運動で痩せる?/だいたい150キロカロリー/運動の強度の正確な定義はMET/酸素は何をしているの?/ミトコンドリア/アデノシン三リン酸(ATP)/赤筋と白筋/エネルギー貯蔵タンク/がんとミトコンドリア/酸素の歴史/老化の原因,活性酸素/グリセミックインデックス(GIスコア)/アルコールのカロリーは?/たんぱく質は蓄えられるの?/分岐鎖アミノ酸(BCAA)/妊娠と肥満/カロリーを見る習慣を/カロリーオフ飲料の不思議/とんでもないカロリーの品々/ストレスと肥満/肥満は遺伝?/夢の痩せ薬/社会的要因/ともかく食べたいのだ/リバウンドは悪/成長ホルモン/フィットネスクラブは焼き畑スタイル/肥満は損????/The point of no return/外科治療/有酸素運動を頻回に行うと

第2章 漢方的思考と肥満
漢方で肥満解消?/ダイエットの考えなし。飢餓の時代/アナログ感を大切に/一生続ける/漢方は養生のひとつ/森全体を治す/心を治す/体質を改善する/足し算の知恵 精製されたものとの違い/単品ダイエットは危険/理想的な栄養バランスは?/痩せる気力がない(気虚)/実証は痩せやすい/虚証は痩せにくい/運動は実証を作るため/陽証は基礎代謝亢進/陰証は痩せにくい/拒食症は血虚/イライラ食いには加味逍遥散/駆瘀血剤は肥満に有用/消化管が大切 腸内細菌で太る/水毒は当然にデブ/腹八分目に慣れる/ゆっくり食べる/煙草の危険

第3章 肥満合併症治療入院プロジェクト
病的肥満に対する健康保険診療です/入院の目的/自分の正しい認識を/肥満解消は簡単ではないと体感する/自分の希望するカロリーを摂取/毎朝,夕の体重測定/エアロバイクで運動のカロリー数を体感/食品カロリーの勉強/もう少し食べたい時にやめる/朝食はきちんと食べる/適切な運動の勉強/CTで内臓脂肪を正確にチェック/デュアルスキャンで内臓脂肪を頻回にチェック/採血/心電図/睡眠時無呼吸のチェック/腰・膝X線検査/胸部X線検査/心臓超音波検査/頸動脈エコー/脈波(ABIとPWV)/胃内視鏡検査,大腸内視鏡検査/減量計画の原則/朝の散歩/活動量計/漢方薬の選択/市販の漢方痩せ薬の危険性/愛誠病院/痩せる方法のまとめ

あとがき
150キロカロリーの目安
愛誠病院肥満合併症治療入院ホームページ
愛誠病院健康管理センター受診者BMI統計
参考文献