the FACTS 変形性関節症
すべての必要な情報を、直接専門家から
ー病気の解説とさまざまな管理法を網羅ー
浦野房三(篠ノ井総合病院、リウマチ膠原病センター長):監修
田島彰子:訳者 
2013年発行 A5判 227頁
定価(本体価格3,000円+税)
ISBN9784880028408

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内容の説明▼

人気のthe FACTSシリーズ最新刊出来。
 患者さん自身が自分でできる日常的な管理について、自分の習慣、時間の使い方、家族や友人からの影響、考え方など詳細に述べられています。生活環境とうまくつき合うことで関節症の症状が少しでも緩和されます。ぜひ本書に書かれていることを実践ください。

はじめに

 変形性関節症は地域社会で増加している共通の問題です。関節炎患者の中には,痛み,こわばり,なんらかの機能の喪失に悩まされ,長期にわたり病気に対処している人が大勢います。私たち(筆者)は,患者に自助の知識と技術を習得してもらうことに治療の鍵があると確信しています。本書の読者には変形性関節症を治療するためのこの種の自己管理法を是非身につけてほしいと願います。つまり変形性関節症について充分な知識を持つことで,自分の健康に積極的に関わり,最善の管理法を模索するという意味です。
 患者自身も治療に関わりたいと望むなら,最初に変形性関節症の疾患過程を理解しておく必要があるでしょう。Part. 1では変形性関節症という病気について解説し,その原因,発症しやすい人,関連した症状,診断方法,長期的な見通しについて述べます。
 次にPart. 2では,変形性関節症に使われるさまざまな管理方法について説明します。具体的には,自己管理計画とは何か,変形性関節症の管理を手助けしてくれる医療専門家について,運動,食事療法,使用される薬剤,その効果と副作用,外科治療,代替療法などです。
 変形性関節症の治療にどんな薬物療法が使われるのかを知っていれば大変心強いです。さらに,変形性関節症の治療に携わる医療専門家(医師,理学療法士,栄養士を含む)について知ることも,特別な問題が生じた時に,誰に頼ればよいのかが分かるので重要です。
 代替療法についての情報には価値あるものもありますが,役立つものとそれ程でもないものがあります。有用なものと害になり得るものについて知っておくことが肝要です。
 残念ながら,多くの変形性関節症患者は安静を強いられるか,痛みを和らげるための唯一の手段として薬を処方されていますが,その一方で,疾患の管理に運動の有用性とバランスのとれた食事療法を勧めている多くの科学的調査もあります。疼痛管理,疲労感,うつ病や人間関係などの個人的な問題が極めて深刻な患者もおり,それらをうまく管理することでも大きな違いが生まれます。
 もっと詳しく知りたい人には,「役に立つアドレス」の中にも,支援団体やウェブサイトといった有用な情報源が記されています。
 最後に本書は「適切な医学的治療の代用となるものではない」ということを記しておかなければなりません。それよりはむしろ苦痛を和らげるための道具として,変形性関節症の患者を教育し,力づける契機となるものです。

【監訳者序文】

 本書の題名の最初にある「the FACTS」という英語表現は日本語に直せば,「これが真実」ともいう強い表現の言葉である。今まで,監修した「the FACTS強直性脊椎炎」,「the FACTS乾癬性関節炎」は従来,あまり知られていなかった医学的内容の書であり,まさに「これが真実」であった。しかし,今回の変形性関節症はよく知られた病名であり,これが「真実」と言うべき内容は少ないのではないかとタカをくくっていたが,本書を読んでその考え方が浅いと思ったのは私だけであろうか?
 実際,高度の変形性関節症に対しては人工関節がもっとも良好な結果が期待できる。また,人工関節の進歩は眼を見張るものがあり,21世紀になり整形外科の技術も格段に進歩している。欧米で人工関節手術が開始されてから,数十年の年月を経るが,整形外科の進歩はまさにその世界である。
 一方,外科的治療が高度に進歩した昨今であるが,手術を施すには非常に困難な症例は常に存在する。また,手術を希望しない患者,あるいは手術を施行するには早すぎる軽症例は非常に多い。このような症例には手術以外に日常,患者本人が実行可能な方法を提示する必要がある。
 本書ではPart. 2 8章の「ペーシングと活動の管理」にはそのような患者本人が自分でできる方法が述べられている。とくに,長期間の休養を余儀なくされることなく,日常生活を続けられるという点は患者自身にとって望むべきことであり,また,切実な願いである。ペーシングを阻むものとしては自分のそれまでの習慣,時間の使い方,家族や友人から受ける影響などがあり,それらに対して,日常のさまざまな問題に対する対処法,あるいは考え方が述べられている。普通,医療関係者はそこまで立ち入って,患者の悩みについての相談に乗ることは極めて少ない。しかし,患者は常に日常の問題に直面し,それに終始せざるを得ない実情がある。さまざまな日常生活様式と関節症状はかなり関係があることが多い。特に,和式生活(正座,和式トイレ,畳での立ち振る舞いなど)は下肢の関節,すなわち,股関節,膝関節,足関節に高度の負担がかかる。本書では和式生活については述べられていないが,生活環境と上手に付き合うことにより,関節症の症状が少しでも軽減される。和式生活については本書に述べられていることに想像力を働かせて,実践していただきたいと思う。
 また,心の問題について述べられていることも本書の特徴である。Part. 2 10章の「思考と感情」の項では関節痛のため,不安やうつ病など否定的な感情が起こることがあり,それに対する考え方や対処法が書かれている。「怒り」,「否定」,「心配」そして「不安」など,関節症の痛みが影響してそのような感情が出現してくる。精神的なそれらの症状は,場合によっては専門医を受診する必要があり,その目安となる症状もリストに挙げられている。
 本書では従来言われていた整形外科,あるいはリハビリテーションの立場を超え,心理学・精神医学,あるいは日常生活の問題まで述べられている。変形性関節症の患者にとっては有益な書であると信じる。

2013年3月
浦野房三

おもな目次▼

Part. 1 変形性関節症の背景
1.変形性関節症とは
2.変形性関節症の原因
3.関節と変形性関節症
4.変形性関節症の症状とサイン
5.変形性関節症の診断
6.変形性関節症の長期的な展望

Part. 2 変形性関節症の管理
1.変形性関節症の管理
2.変形性関節症医療チーム~医療チームを最大限に生かすこと~
3.運動
4.食事
5.グルコサミン,ビタミンと変形性関節症
6.変形性関節症に使われる薬剤
7.注射療法
8.ペーシングと活動の管理
9.装具の使用とその他の治療法
10.思考と感情
11.手術
12.補完療法

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