行為と動作の障害

 一般社団法人日本高次脳機能障害学会 教育・研修委員会:編

2019年発行 A5判 200頁
定価(本体価格3,900円+税)
9784880028729

内容の説明

神経心理学の中でも難解な「行為と動作の障害」に注目し、各症候について様々な視点からスペシャリストたちが解説!
実践的な評価法から、行為・動作障害の研究の歴史的変遷や臨床における混乱、今日の考え方まで網羅されている。
広く神経疾患の医療に関わる臨床家にとり、評価・研究の際に頼りになる一冊である。

はじめに

 ヒトには利き手があり,また道具を使うことができる。こうした特性を持つヒトの大脳損傷例での行為・動作の障害に関する神経心理学的研究は,Liepmannの時代以来,多くの仮説が出され,模索し続けられてきた。その歴史は,すでに100年を超えている。この100年の間には,電気生理学的技術や形態・機能画像技術は進歩し,神経心理学的検討をサポートするような多くの情報が得られるようになった。また神経心理学的手法以外の戦略を用いた研究も多くみられるようになった。そうした状況の中で,第41回日本高次脳機能障害学会学術総会サテライト・セミナーが,「行為と動作の障害」と題して2017年12月に大宮で開催された。本著はこのサテライト・セミナーの内容に,さらにいくつかの項目が追加され作成された。実践的な評価法から,行為・動作障害の研究の歴史的変遷や,今日の考え方まで,可能な限り網羅されるよう意匠されている。行為・動作障害の評価,研究の際に最も頼りになる一冊になればと思う。
 さて,本著は3章からなる。第Ⅰ章には患者に対峙する前に知っておくべき,総論的な基礎知識が示されている。第1項では,神経心理学における行為・動作障害の研究の中での諸家のみかたや考え方について近藤正樹先生に概説していただいた。そこでは,Liepmannだけにとどまらず,主要な仮説や考え方が説明されている。第2項では,古典的失行論で観念失行の標的動作とされていた「系列行為」の障害が,今日どのように捉えられているのかについて仁木千晴先生に概説していただいた。そこでは症例が提示され,わかりやすく説明されている。第3項では,行為・動作の神経生理学的基盤について,村田哲先生と望月圭先生に概説していただいた。サルでの知見のみならず,それらの知見とヒトでみられる症状との関連の可能性など幅広く話題を提供していただいた。第4項では,複雑な行為・動作障害を評価するために必要な神経学的な症状の診かたについて福井俊哉先生に概説していただいた。膨大な知見から,是非おさえておくべき事柄をピックアップし,わかりやすくまとめていただいた。
 第Ⅱ章には具体的な行為・動作の障害が失行に限定されることなく示されている。いくつかの項目は,内容に重複があるが,それは異なる視点から類似した症候を記載するためであり,そうすることで内容に抜け落ちが少なくなるよう意図したためである。具体的には行為・動作障害には3つの異なるタイプがあるとみなしうる。1つは「感覚情報の統合不全による運動障害」であり,視覚性運動失調や拙劣症,構成障害や着衣動作の障害について,前島伸一郎先生と大沢愛子先生に概説していただいた。2つ目に「行為・動作そのものの実現機構の障害」として,パントマイムの失行や使用の失行を,筆者が概説した。3つ目は「前頭葉や脳梁の損傷による動作の障害」であり,これらの障害全体について森悦朗先生に概説していただいた。そこでは前頭葉や脳梁の損傷に由来する各障害の関係や違いが指摘されている。そして一部に前頭葉や脳梁の損傷による症状を含む「alien hand syndrome(sign)」の存在意義について筆者が概説した。最後に前頭葉や脳梁の損傷にこだわらず,かつ前頭葉や脳梁とも深く関係する「運動無視と間欠性運動開始困難」について,大槻美佳先生と筆者が概説した。「間欠性運動開始困難」は本著の執筆者のひとりである福井俊哉先生が,発見し命名した症候である。
 第Ⅲ章では失行症のリハビリテーションについて,種村留美先生に概説していただいた。そこでは理論的背景を紹介しながら複数の症例が提示され,わかりやすいものとなっている。いずれの項も執筆してくださった先生の熱意が伝わってくるものである。
 行為・動作障害に関してのまとまった書籍としては,本邦ではこれまでに,秋元波留夫先生の『失行症』(東京大学出版会, 1976年)があり,その後,河村満先生,山鳥重先生,田邉敬貴先生の鼎談形式の共著書『失行』(医学書院, 2008年)が出版されている。行為・動作の障害は,難解であるためか,神経心理学の中でも,あまり注目されてこなかったことが窺われる。こうした状況で出版される本著は貴重なものであり,今後本邦での行為・動作障害の研究が盛んになることを期待したい。

(北海道医療大学 リハビリテーション科学部 言語聴覚療法学科  中川賀嗣)

おもな目次

第Ⅰ章 行為と動作障害の基礎知識
 1. 行為・動作障害のみかたの変遷  近藤正樹
 2. 系列行為障害症候群の考えかた  仁木千晴
 3. 行為・動作の神経生理学基盤  村田 哲、望月 圭
 4. 行為・動作障害の基盤となる神経機能の診かた  福井俊哉
第Ⅱ章 行為と動作障害の症候学
 1. 感覚情報の統合不全による運動障害  前島伸一郎、大沢愛子
 2. パントマイムの失行,使用の失行(観念運動失行,観念失行)  中川賀嗣
 3. 前頭葉や脳梁の損傷による動作の障害:道具の強迫的使用と拮抗失行を中心に  森 悦朗
 4. Alien hand syndrome(sign)  中川賀嗣
 5. 運動無視と間欠性運動開始困難  大槻美佳、中川賀嗣
第Ⅲ章 行為と動作障害のリハビリテーション
 行為・動作障害の回復とリハビリテーション  種村留美