誰にも聞けない開業医のための悩める初診外来
外来はあって上達する

 永井賢司(ながい消化器クリニック院長):著

2019年発行 A5判 168頁
定価(本体価格3,300円+税)
9784880028736

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内容の説明

失敗がどのようなミスから発生したかを学ぶことは、きっと役に立つ!

隣の診察室の先輩医師に相談するように、自分自身の診断についてアドバイスがほしい、開業医の先生方のための心強い指南書。クリニックでよく遭遇する患者の訴えや相談をあげ、それぞれに要点を解説。著者による豊富な経験談が随所にちりばめられ、診療の合間にさらっと読める好個の著。

はじめに

 医師になって43年余,医師人生のほとんどを内科臨床医として過ごしてきました。特にここ14年余を内科開業医として外来診療を実践する中で,「個々の患者さんの病態を見極めた上で適切な医療をしよう」「無駄な医療は止めよう」「自分の臨床能力を最大限に発揮し,開業医の役目を果たそう」「対症療法に堕しない」「患者さんの希望を聞いたうえで指導的立場で医療を行う」「患者さんを通じて経験し勉強したことを次に活かす」を根幹理念としてきました。
 ある患者が嘔吐・腹痛・下痢のためある内科医院を受診したところ,制吐剤,鎮痙剤および止痢剤を投与されました。5日経っても症状が改善するどころか,腹満,下痢,放屁,全身苦悶感がひどくなり当院を訪れました。大腸はガスのため高度に拡張し,中毒性巨大結腸の様相を呈していました。前医は本人の訴える症状を除くために対症療法を行ったわけですが,特に止痢剤によって重大な有害事象を誘発させてしまったのです。原因や病状を適切に把握評価することなく,不適切な治療を行ったことになります。
 ある時は,高齢の女性が当院を初めて受診しました。主訴は上腹部不快感でした。現病歴を問診すると,4ヵ所の医療機関に通院し,20種類以上の薬が処方されていました。薬剤の副作用の可能性が懸念されたため,「必要最小限の5種類の薬に絞って様子をみましょう」と説明しても納得せず,私の提案を受け入れることなくクリニックを出て行きました。彼女は残念ながらその後二度と当院を訪れることはありませんでした。高齢者の中には同時に多数の医療機関に通院し極めて多種類の薬剤を服用していることがあり,誰か一人の医師がかかりつけ医の立場で責任を持って薬の交通整理をしなければなりません。薬の無駄遣い,医療費の無駄遣いです。もちろん本人にとって薬害が起きるリスクが高まっています。
 大病院ではセット検査が横行しています。セット検査を行えば見落としが少ない,あるいは検査項目を選択する時間を省くことができるなどと考えてのことです。またもし重大な疾患を見逃したら大変だという医師側の強迫観念もセット検査が横行する要因の1つになっています。患者さんの症状を冷静に観察すれば,必要な検査項目を絞ることができるはずです。検査が何もできない夜間休日診療所では,なおさら病態に対する洞察力が求められます。医師は医療の専門家としての気概をもって,素人の患者さんと接することが必要です。もちろん患者さんにとって難しい医学用語をわかりやすく説明し,納得の上同意してもらえるようにしなければなりません。「患者中心の医療」の真の意味を改めて問い直す必要を感じることがあります。治療方針を決定する段階で,いくつか選択肢がある場合,医師はその患者にとって最もよいものを選択し,患者側へ提示しなければなりません。医学知識のない患者が治療法を決定することは不可能です。患者側が選択した方針によって不都合な事態が発生した場合に,その責任を患者側に押しつけることはできません。医療に関して問題が発生した場合,医療側が当然全ての責任を負わなければなりません。
 科学的証拠に基づいた医療「Evidence Based Medicine:EBM」がここ4半世紀いわれ続けています。データを重視してガイドラインに沿って医療を行っても,思いがけないトラブルや想定外の治療経過を辿ることをしばしば経験します。患者を一人の人間として総合的に評価し,きめ細かく治療計画を立てなければなりません。治療の途中で不都合な事態が発生したら,方針の変更を躊躇してはいけません。そのような場合には同様の症例を経験している先輩医師のアドバイスが重要となります。それこそ経験に基づく医療「Experience Based Medicine=EBM」です。したがって医療技術が発達した現代に求められる医療は,科学的根拠に経験を加味した医療「Evidence & Experience Based Medicine=EEBM」です。
 勤務医として働いている時は,先輩医師の意見を聞く機会がありますが,開業医は自分だけで判断することを求められます。教科書や医学雑誌は診断名が決まってからの対応の参考になりますが,診断がついていない患者の症状経過から診断名を決定するには不向きです。隣の診察室で診療を行っている先輩医師に相談するときと同じように,一冊の本がアドバイスしてくれたら,本当に助かると思います。一人の医師が高だか40~50年間に体得した経験や知恵はわずかであるとはいえ,成功はどうしたら生まれたか,失敗はどのようなミスから発生したかを学ぶことは,きっと自分と同じ道を歩む後輩にとって役立つものとなるはずです。
 診療所の外来でよく遭遇する患者の訴えや相談項目を挙げ,それぞれの診断や治療の要点をまとめてみました。診断や治療方針の決定に迷ったときに参考にしてください。また診療の合間に読み物として流し読みしてくださっても結構です。

永井賢司

おもな目次

Contents  悩める初診外来

1 風邪症候群
2 嗄声
3 発熱
4 頭痛
5 めまい
6 咳嗽・痰
7 血痰
8 胸痛・背部痛
9 喘鳴
10 動悸
11 腹痛
12 吐き気・嘔吐
13 黄疸
14 下痢
15 便秘
16 消化管出血
17 食欲不振
18 嚥下困難
19 食べ物のつかえ感
20 胸焼け・呑酸
21 胃切除後症候群
22 体重減少
23 浮腫
24 頸部リンパ節腫脹
25 高血圧症
26 心肥大
27 心電図異常
28 貧血
29 肝機能異常
30 脂質代謝異常
31 高血糖
32 肥満
33 蛋白尿・腎機能低下
34 血尿
35 高尿酸血症
36 電解質異常
37 骨粗鬆症
38 疼痛性疾患
39 慢性疲労
40 花粉症
41 もの忘れ
42 不定愁訴
43 不眠症
44 月経困難症・生理不順
45 慢性湿疹・アトピー皮膚炎・尋常性乾癬
46 排尿障害
47 こむら返り

附録① 漢方処方のヒント
附録② 本文中で紹介したおもな漢方薬
附録③ 漢方参考BOOKS

索引