不安症と双極性障害-コモビディティに学ぶ-

貝谷久宣(京都府立医科大学 客員教授):編
加藤忠史(順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学 主任教授):編
佐々木司(東京大学大学院教育学研究科 教授):編

2022年発行 A5変型判 168頁
定価(本体価格3,500円+税)消費税10%込(3,850円)
ISBN 9784880029214

紙版(クレジット・コンビニ決済)はコチラ→BASESTORES

電子版はコチラ→M2PLUS医書.jp

内容の説明

「不安症と双極性障害は互いに高い頻度で合併するが,このことは研究テーマのみならず,
臨床現場での治療方針を決定するうえでも極めて大きな問題となっている.」

あとがきに記されたこの1文にあるとおり
近年、急速に関心を集めるようになった“コモビディティ”(併存症)のうち、
不安症と双極性障害は、臨床においても深い結びつきが認められているものである。

本書は臨床・研究の第一線にいる執筆陣が
実臨床、臨床薬理、脳画像研究、ゲノム研究、精神病理、ガイドラインなど
多面的なテーマによりこの「併存」について論じたものである。

・コモビディティを抱えた患者の治療、対応をどう進めればよいのか?
・不安症の症状ごとに併存の特徴にはどういったものがあるのか?
・脳画像、ゲノムなどが示す併存研究の最前線とはどのようなものなのか?

主として不安症や気分障害に取り組んでいる医療者はもちろん、
このようなテーマに関心のある方々にとっても、実りある情報に満ちた1冊となるはずである。

序 文

 この本のテーマである〝不安症と双極性障害〟の関係は,実は古くからわかってはいたが,明白に並べ立てて論じられるようになったのは比較的最近のことであろう.
 臨済宗中興の祖と称される白隠禅師は,この両者の病を持っていた人であると考えられる.15 歳で仏門に入って以来修行を重ね,24 歳時に越後高田の英厳寺にて暁の鐘の音を聞き大悟した.その時の白隠は,「(すでに亡くなっていた)厳頭和尚は健在じゃ」と大声で叫び,小躍りして足を踏み鳴らしたという.自分はこの300 年来もっとも痛快に悟りを開いたと壮語した.この状況は次のように記されている.〝手を拍して呵呵大笑.同伴驚いて顛狂せりとす.これより一切の人を見ること野馬陽炎の如し,自ら思えらく,二三百年来,予が如く多打する者またまた稀なりと.是より慢幢山の如く聳え,憍心潮の如くに湧く.〟この状態を周囲の者は気が違ったと思ったと述べており,精神医学的には躁状態と診断されるであろう.その状態で飯山の正受庵主 道鏡慧端禅師を尋ね,おごりとたかぶりを徹底的に叩きのめされ,躁状態は落ち着いた.その年の11 月に駿河の大聖寺の息道和尚が病気のために帰国し看病しているうちに自分も病気になっていた.躁状態の反動が来たのであろう.そして,間もなく禅病(パニック症)を発症している.この難病に困り果てた末,白隠は京都白河の山奥に住む仙人白幽子に秘法(内観療法と軟酥の法)を聞き,その秘法を3 年実行して病気が癒えた.白隠は躁状態に引き続きパニック症になっているが,私の臨床経験から躁からパニックというのはあまり経験がない.多分,躁状態の前に軽いパニック発作が出現していたのであろう.
 社交不安症は20 数年前までは対人恐怖と言われていた.対人恐怖研究の日本における専門家達は,対人恐怖患者の性格の二面性を,それぞれが特有の言葉で示している:〝負け惜しみの意地っ張り根性〟森田正馬(1874~1938);〝外面のおとなしさと内心の負けず嫌い〟三好郁男(1931~1971);〝 強気と弱気〟.内沼幸雄(1935~..);〝小心さと傲慢さ〟高橋 徹(1935 ~ ).どれも見事に社交不安症の軽躁状態を示しているのではなかろうか.
 筆者が50 余年前に出会った躁うつ病の患者は,躁期になると同窓会をはじめ次々といろいろな会を催す人であった.この躁期以外の時は抑うつ的ではなかった.今から考えれば,社交不安症の状態だったのであろう.猫を被ったようにおとなしく,愛想がよく,善良でやさしい人であった.
 Akiskal によれば,前世紀初頭のフランスの精神科医Pierre.Kahnはanxious.neurotic.connection.to.cyclothymia という言葉を使っていたという.このように古くから何となく考えられていたことが,近年は研究課題として取り上げられるようになってきた.これこそが臨床に直結する学問の進歩というものであろう.
 同テーマの単行本『不安障害と双極性障害』(日本評論社)を9 年前に筆者らにより発刊しているが,それからも学問の進歩は続いており,本刊がさらに精神医学臨床の発展につながることを心から願う次第である.
 なお,本書の大部分の内容は,不安・抑うつ臨床研究会(共催.持田製薬株式会社)による第22 回八ヶ岳シンポジウム(令和3 年10月24 日,於ザ・ロイヤルパークホテル アイコニック東京汐留)で発表されたものである.
  蓼科三井の森にて

令和4 年壬寅 葉月 吉日
貝 谷 久 宣

おもな目次

序文(貝谷久宣) 4
1 パニック性不安うつ病-Multi-Comorbidityの病-(貝谷久宣) 7
2 双極性障害の治療薬の作用機序(加藤忠史) 27
3 双極性障害における侵入思考(橋本 佐) 35
4 全ゲノム関連解析からみた双極性障害と不安症の遺伝的関係(音羽健司) 46
5 パニック症のComorbidity-遺伝子研究と心理・生物学的所見から-(谷井久志) 58
6 パニック症のポリジェニックリスクスコア(PRS)解析(塩入俊樹,大井一高) 69
7 脳画像からみる不安症と双極性障害(浅見 剛) 79
8 脳画像から見た統合失調症と双極性障害との類似点と相違点(中村啓信,髙橋英彦) 91
9 不安症と双極性障害-臨床的見地から-(坂元 薫) 103
10 双極性障害の薬物療法(多田光宏,桑原優仁,仁王進太郎) 123
11 診療ガイドラインと実臨床・実社会の間(境 洋二郎) 139
12 双極性障害の認知行動療法と精神療法の視点(樋山光教) 146
あとがき(佐々木 司) 160