いまこそ、症候学!
疾患修飾薬が承認され、認知症診療が劇的に変わろうとしている。この流れのなかで認知症の薬物療法、非薬物療法は、より早期からの介入が求められることとなった。これまで以上の精微な症候学の知識と最新バイオマーカーを組み合わせた正確な診断が求められている。バイオマーカーを適確に用いるためにも、症候学の知識は欠かすことができない。また、症候学は妄想や攻撃性といった派手な症候の裏に隠された本人の思いや苦悩を読み解く鍵となる。診断されたあとも適切なケアを継続していくうえで欠かせないものである。
改訂にあたって
本書の前身である「日常診療に必要な認知症症候学」(以下,前書)が出版されたのは2014年である。それから9年半の間に,認知症の当事者や介護者,さらには医療の専門職である我々も想像だにしなかった感染症蔓延下での診療や介護を経験することになった。そして,2023年6月には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立し,8月にはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)に対する疾患修飾薬レカネマブが本邦で初めて承認された。2000年前後に初めての抗認知症薬としてドネペジルが上市され,介護保険制度が開始された時以来の,大きな変革期が認知症診療に訪れようとしていることは間違いなさそうである。池田 学
第Ⅰ章 総論
1 認知症診療における症候学の重要性 森 悦朗 14
認知症診療における症候学の役割 14
病歴 15
神経症候 15
神経心理症候 15
認知症の行動・心理症状(BPSD) 17
2 神経心理学的検査と症候学 今村 徹 23
MMSEの症候学的ポイントと有用な追加課題 24
MMSEの施行順序と教示内容例 26
3 画像と症候学 福原竜治 30
大脳の領域とその機能 30
認知症の行動・心理症状(BPSD)と脳画像 32
123I-MIBG心筋シンチグラフィ 33
ドパミントランスポーターシンチグラフィ 33
第Ⅱ章 認知症をきたす疾患の症候学
1 アルツハイマー病の症候学 松田 実 38
アルツハイマー病(AD)概念の変遷と症候学 38
AD診断における基本的な注意点 40
ADにおける全体的行動の特徴や診察上の注意点 40
要素的な認知機能障害 42
行動・心理症状(BPSD) 44
高齢者ADと非定型ADについて 45
2 血管性認知症の症候学 森 悦朗 48
血管性認知症(VaD)の基本的なタイプとそれらの症候 49
血管性病変をもつ認知症患者 54
脳微小出血(CMBs)と脳アミロイド血管症(CAA) 54
3 レビー小体型認知症の症候学 池田真優子,橋本 衛 57
認知機能障害 57
レビー小体型認知症(DLB)の精神症状 60
レビー小体型認知症(DLB)の神経症候 62
Prodromal DLB 63
4 前頭側頭葉変性症の症候学 池田 学 65
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)にみられる特徴と鑑別診断 66
意味性認知症(SD)にみられる特徴と鑑別診断 70
進行性非流暢性失語(PNFA)にみられる特徴と鑑別診断 72
治療とケア 72
5 大脳皮質基底核変性症と進行性核上性麻痺の症候学 下村辰雄 78
大脳皮質基底核変性症(CBD) 78
進行性核上性麻痺(PSP) 80
6 正常圧水頭症と慢性硬膜下血腫の症候学 數井裕光 86
特発性正常圧水頭症(iNPH) 86
慢性硬膜下血腫(CSDH) 89
第Ⅲ章 症候学 各論
1 せん妄 西 晃,船山道隆 94
せん妄の概説 94
せん妄の診察ツール 95
せん妄の予防・治療 96
2 うつとアパシー 水上勝義,佐藤晋爾 98
認知症に合併するうつ状態と老年期うつ病 98
認知症の前駆段階でみられるうつ状態 99
うつ病性仮性認知症 100
認知症のうつ状態 100
アパシーとうつ状態 101
アパシーへの対応 102
3 注意障害 平山和美 105
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD) 107
大脳皮質基底核症候群(CBD) 108
アルツハイマー病(AD) 108
レビー小体型認知症(DLB) 109
4 遂行機能障害 穴水幸子 111
遂行機能障害の定義 111
遂行機能障害の検査法 112
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断における遂行機能障害について 113
認知症の行動・心理症状(BPSD)の家族介護者の態度との関連 114
5 記憶障害 三村 悠,三村 將 116
記憶とは 116
認知症における記憶障害 118
6 幻覚 長濱康弘 121
幻覚の定義,種類 121
認知症,器質性精神障害と幻覚 121
主要な認知症疾患と幻覚 121
その他の高齢者疾患と幻覚 124
認知症における幻覚の発症機序 125
幻覚の治療 126
7 妄想 鐘本英輝 130
妄想とは 130
認知症でよくみられる妄想 130
各認知症疾患でみられる妄想 132
認知症における妄想の治療 133
8 常同・強迫行動 繁信和恵 137
前頭側頭型認知症(FTD) 138
ハンチントン病(HD) 139
パーキンソン病(PD) 140
進行性核上性麻痺(PSP) 140
自閉スペクトラム症(ASD) 140
9 食行動異常 品川俊一郎 142
認知症患者における食行動 142
食行動異常の症候学 143
アルツハイマー病(AD)における食行動異常 144
前頭側頭型認知症(FTD)における食行動異常 145
レビー小体型認知症(DLB)における食行動異常 146
10 睡眠関連症状 足立浩祥,立花直子 152
認知症の鑑別診断に役立つ睡眠関連症状 153
認知症患者や家族のQOLに影響する睡眠関連症状 154
知っておきたい一次性睡眠関連疾患の睡眠関連症状 155
11 失語および関連言語症状 大槻美佳 158
言語症状を診る基本ポイント―要素的言語症候と関連する症候― 159
進行性失語の診断ポイント 165
認知症性疾患と失語症の関係 170
12 失行症(行為・動作の障害) 中川賀嗣 174
失行の前提要件(鑑別症候) 174
古典的失行のここでの表記法 175
狭義の失行とその基本的な評価法 176
非失行性の行為・動作障害との鑑別 178
他人の手(症候群)について 181
13 相貌認知障害と鏡現象 小森憲治郎 184
既知の相貌認知の障害(相貌失認) 184
相貌の意味記憶障害(人物特異的意味記憶障害) 185
鏡現象 187
第Ⅳ章 症候学から生活支援へ
1 自動車運転 上村直人,中山愛梨,藤戸良子 192
増加する高齢ドライバーと交通事故との関連性 192
道路交通法の変遷と把握しておくべき最新の関連法 193
臨床場面における具体的対応と生活指導 195
運転行動・運転能力と認知症との関連性 196
2 症候学から認知症の人を理解する―在宅支援を中心に― 鈴木麻希 201
認知症診断と支援 202
認知症の原因疾患別の対応法(環境調整) 202
認知症支援における多職種連携と地域連携 204
オンラインを用いた遠隔支援 206
COLUMN 1 認知症に対する薬物療法up to date 岩田 淳 19
COLUMN 2 認知症におけるPET画像診断up to date 石井一成 35
COLUMN 3 右側頭葉優位型の前頭側頭型認知症について 佐藤俊介 76
COLUMN 4 認知症と口腔機能―歯科との連携― 眞鍋雄太 149
COLUMN 5 認知症と感染症(主にCOVID-19に関して) 牧 徳彦 208
COLUMN 6 介護保険制度と診断後支援 谷向 知,柴 珠実 212