複雑混沌とした漢方の世界にわずか3秒で合理的に理解できるルールをまとめました。今まで誰も書かなかった、Improbable(ありえない)本ができました。お楽しみください。
推薦の言葉
漢方を使い始めると,たくさんの有効例を経験します.そんなときに漢方のルールが,わかりやすく理解できれば,診療の役に立ちます.新見先生がまた本を書きました.「3秒でわかる漢方ルール」なんてあるのでしょうか? 漢方は難しいものだ,そう簡単にマスターできるものではない,少なくとも10年ぐらいは苦労しなさい,と云われたことはありませんか.そんなことはない,やろうと思えば漢方治療はすぐに始められる,そういう便利な方法がある,自分は10年かかって現在に至ったが,そうではない近道を伝授しましょうと新見先生は云います.そこには,せっかく漢方に興味を持った人に,難しい“理論”を押しつけて嫌いになる人を減らしたいとの著者の願いがこめられています.
この本の趣旨は,「生薬から漢方の世界を推論する」ことです.経験則によって導かれる漢方にルールがあることを著者なりの方法で導いています.仮想病理概念を排除するため,生薬レベルからのルールです.生薬から漢方の魅力に迫ることは,楽しく,合理的で,かつ漢方の曖昧感が払拭できます.生薬レベルからの法則を会得すれば,短時間で漢方薬の性質を理解できると著者は説きます.漢方薬の性質が僅か3秒で合理的に理解できる,ビッグデータの利用法と同じく,因果関係は考えず相関関係を調べることができる,複雑な漢方の世界に法則性を導きだそうと云うものです.こういう方法もあるということで,まだ進化の途中だそうですが,どんな相関を考えたのか,この本をご覧頂きたいと思います.
生薬の性質などから漢方処方の働きを推論することは,知っているととても役立ちます.生薬一つ一つの主要な働きを知ると,漢方処方の働きがわかるようになります.漢方処方の効能効果を知ることは一般に行われる勉強方法ですが,構成生薬の顔ぶれをみて処方の働きを知ることは一段上の勉強です.大塚敬節先生は,漢方を本当に学ぼうとするなら,まず生薬を勉強せよと教えました.しかし,多忙な臨床医家は,生薬の勉強までは面倒くさいと尻込みしたくなります.でもこの本を読むと,そんなことはない,生薬から漢方を理解することができると納得できます.処方の法則性を見いだそうとするのは,一段上のレベルの勉強ですが,実は面白い,実地に役立つことです.いつものように新見先生らしさが出ている楽しい有用な本です.ぜひ多くの方に読んでいただきたく推薦いたします.
平成25年5月
社団法人日本東洋医学会元会長名誉会員 松田邦夫
はじめに
漢方薬は生薬の足し算の叡智です.わが国で使用されている約150の保険適応漢方薬は最大でも18の構成生薬からできています.そして,その構成生薬の総数は約100です.漢方薬に興味を持ち始めると,なぜ効いていたのかと原因を探りたくなります.そしてどの成分が有効だったのかという疑問が湧いていきます.もしも1つの成分が有効であるのなら,敢えて生薬の足し算をする必要はありません.副作用を減弱することが求められていなければ,有効成分を含有する生薬を内服すれば必要十分のはずです.
漢方薬の魅力は,基本的にひとつひとつの生薬の力には限りがありますが,でもそんな生薬を足し合わせることで,効果を増強し,新しい作用を作り,そして副作用を減らしています.
生薬から漢方の魅力に迫ることは,楽しく,合理的で,そして漢方の曖昧感が払拭できる方法です.そして経験的に蓄積された漢方薬の性質を,生薬レベルからの法則に落とし込めば,短時間でその漢方薬の性質を理解できます.そんな漢方のルールをまとめました.このルールを知れば漢方薬のいろいろな性質がわずか「3秒で」,合理的に理解できるものになっています.是非,体感して下さい.
2014年5月
新見正則
あとがき
やっと書けました.生薬という現実から,漢方の胡散臭いと思われる世界を推論する方法です.僕が自分のためにやりたかったことです.漢方の経験が長ければ,自然とこのような考え方が頭に入ります.でもそれを最初から理路整然と提示すれば,わかりやすくなります.せっかく漢方に興味を持ったのに,嫌いになる先生方が減ると思っています.そんな本ができました.
こんな方法があるということで,まだ進化の途中です.また皆さんも自分なりの法則を書き加えて,または全く新しい法則を導けば良いのです.
僕たち西洋医は,忙しい臨床の中で,漢方の魅力に憑かれ,そして漢方の良さが患者さんに反映されればそれでいいのです.
因果はいりません.漢方は相関の世界で必要十分です.因果を追うことは西洋医学の研究者の姿勢です.臨床医も因果の追究はほどほどでいいと思っています.目の前の患者が治れば,相関の世界に頼るのも悪くない方法です.考え方のパラダイムシフトです.因果を求めず相関を楽しみましょう.これがこの本の根底にある考え方です.
いつも,いつもお世話になっている須藤孝仁氏,新興医学出版社の林峰子社長に深謝申し上げます.
2014年5月吉日
新見正則
Ⅰ.相関の世界にわかりやすいルールを!
因果が大切か,相関で十分か?
ビッグデータ,そしてインフルトレンド
コンプレキシティ(複雑系),そしてボイド
Improbable,つまり有り得ないこと!
この本の使い方
Ⅱ.まったくの初心者向け―漢方が上達するために―
漢方上達のための7箇条
❶いっそ,ラムネと思って処方しよう
❷無限の海を泳がない
❸人の経験は信じない
❹食べ物の延長と思って処方する
❺保険適応でなければ意味がない
❻医療費の削減になることを体感する
❼古典は読まない.腹診はしない
おまけ・勉強にお金を惜しまない
究極の上達の法則 本当にラムネと思って使用する!
プラセボ効果
漢方は西洋薬と同じように有効か?
漢方の即効性を体感できる芍薬甘草湯(68)
まず家族に,自分に試しましょう
漢方の有益性を体感できる風邪処方
漢方薬 番号順
漢方薬 五十音順
生薬の読み方
漢方薬の名前の由来
生薬の名前1つ+湯
生薬の名前の別名1つ+湯
生薬の名前1つ+散or丸
生薬の名前1つ+飲
構成生薬をすべて羅列
構成生薬のいくつかを並べて記載
生薬の合計数+他の字句
漢方薬+生薬
漢方薬+複数の生薬
漢方薬+漢方薬
生薬名+作用
大または小がつくもの
作用が書いてある
その他
Ⅲ.中級者も納得!複雑で混沌とした世界に体系的法則を
漢方15分類チャート
❶麻黄を含むか?
❷柴胡を含むか?
❸黄連と黄芩を含むか?
❹人参+茯苓+蒼朮+甘草を含むか?
❺人参+黄耆を含むか?
❻地黄+当帰+芍薬+川芎を含むか?
❼地黄+山茱萸+牡丹皮を含むか?
❽附子を含むか?
❾茯苓,朮,沢瀉,猪苓,半夏,防已を2つ以上含むか?
❿桃仁,牡丹皮,紅花,大黄,当帰を2つ以上含むか?
⓫当帰を含み,地黄を含まない
⓬大黄(+芒硝)を含むか?
⓭桂皮+芍薬+甘草+大棗+生姜を含むか?
⓭’ 膠飴を含むか?
⓮蘇葉,香附子,厚朴を含むか?
⓯その他
1つの生薬で漢方の方向性がわかる
すべての生薬の方向性
虚実のルール
寒熱のルール
腹診のルール
腹力の判定
❶小腹鞕満
❷胸脇苦満
❸心下痞鞕
❹腹直筋の攣急
❺心下振水音
❻小腹不仁
❼腹部大動脈の拍動
腹診についてへそ曲がりの感想
気・血・水のルール
気逆・気うつ・気虚・血虚・瘀血・水毒のルール
❶気逆
❷気うつ
❸気虚
❹血虚
❺瘀血
❻水毒
生薬数で分類
生薬の加減で名前が異なる漢方薬
1種類追加で名前が変わる漢方薬
2種類追加で名前が変わる漢方薬
1つ入れ替えて名前が変わる漢方薬
2つ入れ替えて名前が変わる漢方薬
2つの追加で漢方薬+漢方薬
まれに使用される生薬から魅力を探る
1つの漢方薬だけに使用されている生薬
2~3の漢方薬に使用されている生薬
Ⅳ.上級者もビックリ!さらなる混沌とした世界にも体系的法則を
六病位のルール
舌診のルール
脈診のルール
掲載の古典
アバウトという根拠
おまけとあそび
徒々なるままに
因果を求める患者には 五臓理論を語る
漢方おたくの発言を!
業界用語もありますよ
説得力のない症例報告はしないように!
漢方薬の生薬構成
あとがき
参考文献
索引