めまい鑑別のコツを著者の豊富な経験と症例でわかりやすく伝授!教科書では学べない臨床のエッセンスを随所にちりばめ、若手からベテランまで、めまい診療を楽しく学べる。めまいの診療をきっかけに、患者さんの生活習慣の改善をめざそう。
はじめに
著者は,1971年群馬大学耳鼻咽喉科からスタートし,めまいについては,横須賀共済病院内科において単独で立ち上げた「めまい外来」を実践してきた.この結果,めまいを耳鼻咽喉科と内科の両面,それぞれの立場からより広い視点で診ることができた.特に画像は,横須賀共済病院で1988年から頭部MRIを,1996年からは頭部MRAと頸部MRAを病名の如何にかかわらずほぼ全症例についてチェックしてきた.特に頸部MRAで注意すべき部位は,前下小脳動脈,後下小脳動脈以外に,椎骨動脈起始部と脳底動脈合流直前の箇所である.この部位はアテローム硬化を生じやすいことですでに知られている.
近年,「良性発作性頭位めまい」(以下BPPV)の病名が広く知られることとなり,全めまい症例の50~60%近くがこの疾患という意見が出るほどである.一部の内科医の間ではめまいの80~90%はこの疾患が占めるという極端な考えすらある.2015年には団塊の世代がすべて65歳以上になり,その数は3395万人に達するといわれている.高齢人口が世界最速で進む社会環境のなか,最近の糖尿病とその予備軍の人たちの右肩上がりの増加を含め,高血圧,脂質異常症,肥満,喫煙などの危険因子を持つ中高年の人たちは,BPPVと鑑別困難な眼振所見を示す「中枢性発作性頭位めまい」を起こしやすい.ヒトの身体は神経,血管などでつながっているので,この本を通して内耳のみに限定せず視野を広くして,俯瞰的に診ていっていただければ幸いである.
高齢者や危険因子を抱える中年の人たちは,一見BPPVのようにみえても,動脈硬化を背景にして,後日一過性脳虚血発作や脳梗塞,狭心症,心筋梗塞を起こすことが時にある.著者が耳鼻咽喉科医としてめまいを診ていた頃は,もしめまい後に脳卒中や心疾患を発症すれば,神経内科,脳神経外科,循環器内科に収容されたはずで,その情報を知ることはできなかった.
しかし内科では,生活習慣病などでめまい後の経過観察を継続していくことになる.臨床医にとって経過をみていくことは大切なことである.
さらに,この本ではSpot Informationのような囲み欄を配置し教科書を読むだけでは得がたい日常臨床に直結する情報を記載した.
本書が今日からのめまい診療に役立つことを切望している.
2015年9月吉日
中山杜人