過剰な臥床や不動による廃用症候群を防ぎ、生活機能自立の可能性を高めるために重要な、急性期からのリハビリテーション。さまざまな疾患・病態を網羅し、注意点や評価法、チーム医療など、急性期病院のリハビリテーションに欠かせない実践的な内容をコンパクトにまとめた。第一線で活躍する医師、療法士が臨床現場で生まれた秘伝の知識を紹介!
序
自分なりにリハビリテーション道を突き進み26年が過ぎましたが,未だに,もう少し早くリハビリテーション科に依頼をくれていれば,または相談してくれていればと憤りを感じるケースが多くあります.『リハでもしよう』『リハしかないな』この言葉はリハビリテーション医ならびにリハビリテーションスタッフにとって最も嫌いな言葉の1つです.いわゆる『でもしかリハ』というものです.『高齢化社会だからリハビリテーションは,重要だね.』という言葉を現場に出てから嫌になるほど聞いてきました.しかしながら,その割には正しいリハビリテーション医学の認知度は低いといわざるを得ません.理学療法士を中心に爆発的に数は増えてきましたが,全国に82ある医学部のある大学のうちリハビリテーション医学講座があるのはまだ20ほどしかありません.このことも原因の1つかもしれません.卒後教育もさることながら卒前教育は,非常に重要なものだからです.
障害の医学であるリハビリテーションでは,機能低下や能力低下などを正しく評価し,適切なリハビリテーションアプローチを処方し,施行しなければなりません.障害の回復,改善を目的とするアプローチをするとともに,必要に応じて対処法など教育的アプローチも行なわなければいけないことは皆様御存知の通りです.しかしながら従来,経験に基づくリハビリテーションの訓練方法が多く,EBMが確立していないものが数多く認められます.私どもが用いている評価方法には,近年著しく進歩した画像による脳機能画像評価や動作解析の方法があります.また,その他の方法も組み合わせながら,どのような訓練方法が科学的であり,より効果的であるかを検証することが,今後のリハビリテーション医学に必要なものと考えます.たとえば,脳卒中のリハビリテーションは,リハビリテーション方法論の神経科学的裏付けの時代以降,神経科学の知見から,神経リハビリテーションの方法論の創造という新しいリハビリテーションの流れが主流になってきています.今後,リハビリテーション医学のさらなる発展のために目指すリハビリテーションのあり方の1つの形でもあります.
今回,この本の筆者は東京慈恵会医科大学と国際医療福祉大学を中心とした臨床現場の第一線で働いている医師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士によって作成されたものです.各疾患の急性期からのリハビリテーションを考えるうえで非常にためになる生きた実践的な内容の詰まったバイブルになったと確信しています.最後に,この本の作成に当たり.多大なる尽力をしてくれた国際医療福祉大学リハビリテーション医学講座主任教授の角田 亘先生ならびに新興医学出版社社長の林 峰子さんに深謝申し上げます.
2017年5月
安保雅博
あとがき
本書は“マニュアル”と題されており,ハンディ・サイズに仕上がっている.そのサイズから考えると,必要最小限なポイントだけが記載されているものと想像されるかも知れないが,実際の内容はそんなものではない.慈恵医大グループと国際医療福祉大学グループから厳選されたリハビリテーション科スタッフが,基礎知識の記載のみにとどまることなく,豊富な臨床経験に裏付けられた秘伝の知識を惜しげもなく記してくれたのである.彼らが永らく心の中で温めてきた,彼らしか知りえない臨床のコツを文中にこれでもかとばかりに散りばめてくれたのだ.そして,もちろんではあるのだが,本書では急性期病院のリハビリテーション科スタッフが直面する問題の全てが広く網羅されている.すなわち本書は,コンパクトなサイズに質の高い知見が濃縮されて満載されている,“小さな巨人型”マニュアルなのである.
このマニュアルは,スタッフ各人のポケットに容易におさまるサイズで刊行された.ポケットにおさまるようにした理由は,いうまでもないことであるが,スタッフ各人に肌身離さずどんな時にも持ち歩いていただきたいとの思いからである.願わくば,事あるごとにこのマニュアルを開いていただき,アンダーラインを書き込んだり,蛍光ペンでマークをしたりと,ボロボロに汚れてしまうほどに使い込んでいただきたい.その暁に,読者たる諸兄に,初学者レベルをはるかに超越した急性期病院リハビリテーションの確固たる知識が幅広く備わることとなれば,これに勝る喜びはない.
今までのところ,本邦においては,疾患・病態の枠組みをこえて,急性期病院リハビリテーションの全容をたった一冊だけで言及したテキストは存在していなかった.そのような観点から考えると,本マニュアルの出版は,リハビリテーション医学・医療界におけるささやかな革命であると私は思う.革命がいかなる結末をたどるかは,時が流れぬことには知る由もないのであるが,私は,本書を手にした諸兄個々のさらなる進化を通じて,本邦の急性期リハビリテーションのレベルが総じて高まるものに違いないと確信している.
2017年5月
角田 亘