髄液検査データブック

水澤英洋:監修
太田浄文・石原正一郎:著

2017年発行 B6判 138頁
定価(本体価格2,400円+税)
9784880024066

内容の説明

神経内科医必携のデータブック!
これまで明らかに記載されていなかった、髄液検査の基準値・カットオフ値を最新文献を元に示し、疾患ごとに何を調べるべきかを簡単に理解できるよう解説。髄液検査から得られる情報をあますところなく使いこなそう! 臨床医待望のデータブック。

監修にあたって

 このたび,JAとりで総合医療センター神経内科の太田浄文博士と石原正一郎博士より「髄液検査データブック」の監修の依頼があり,大変嬉しくすぐにお引き受けした。まずは,著者の前書きにあるように,髄液検査は重要かつ有用でもっと活用されるべきであるにもかかわらず,測定項目の基準値がわからないために,十分に威力を発揮していないと思われることである。すなわち,大きなニーズがありその発刊が待たれていたということである。もう一点は,太田博士,石原博士ともに,東京医科歯科大学大学院の脳神経病態学(神経内科)にて,同じファミリー(教室)の一員として,苦楽を共にしたからであり,本書の刊行に心よりのお祝いと敬意を表する次第である。2人とも学生,研修医,医員として直接多くの患者さんを担当し,何百回も髄液検査を行ったことと思う。まさに,実際に経験した者でないとわからない,かゆいところに手が届く書きぶりとなっている。
 本書は,12章から成り立っているがそれらは大きく2つに大別される。すなわち総論(第1,2,3章)と各論(第4~12章)である。総論は,まず第1章で,髄液検査の仕方,手技について説明している。検体の取り扱いについても言及があることは嬉しい。基本的な体位,位置決め,消毒法などは他書にあるので省いたと説明されているが,本書1冊で全て理解できるように,改訂版では是非にイラストや写真もつけてわかりやすい説明を期待したい。第2,3章が本書の肝であり,まず各種の髄液検査の基準値とカットオフ値がリストになっていて,現在,一般診療で利用可能なほぼ全ての項目が網羅されている。その後,各項目について簡潔で明瞭な説明がなされていて,詳細が知りたいときはリストに加えて解説を読むことで理解が深まる。また巻末に特殊検査の依頼先のリスト,さらに和文・欧文の索引が充実していることもたいへんに有用である。
 各論は,髄液検査がよく行われる順に,神経感染症,神経免疫疾患,神経変性疾患,末梢神経疾患,脳腫瘍,内科疾患・代謝性疾患,脳血管障害,脊髄・脊椎疾患,その他の疾患と9章に区分されている。神経感染症では,塗抹や培養による病原体の同定,抗原・抗体検査のほか,最近増えてきているゲノム検査についてもアップデートな説明がある。また,随所に囲み記事がありトピックやさまざまなノウハウが記載されている。神経免疫疾患は,従来からの多発性硬化症,Behçet病などに加えて,最近増加している,抗NMDA受容体抗体など,さまざまな自己抗体を伴う脳炎・脳症についてもきちんと対応している。願わくば,傍腫瘍症候群に関する自己抗体のリストがあると便利だと思われる。神経変性疾患の多くは異常蛋白の蓄積を伴い,髄液検査は有用であるがあまり知られていない。Alzheimer’s病ではその有用性は確立しており,もっと活用されることが望ましい。例えば,Lewy小体型認知症にはアミロイドβ蛋白の蓄積も伴うが,その程度の評価など病態の解析にも活用可能である。認知症とパーキンソン症候群の鑑別診断のリストが囲み記事に載っているのは大変有用である。末梢神経障害ではGuillain-Barré症候群などの免疫性疾患が中心である。脳腫瘍は細胞診を含む概説の後,とくに重要な個別疾患について説明がされている。ミトコンドリア病は内科疾患・代謝性疾患の章で説明されている。その他,脳血管障害,脊髄・脊椎疾患,その他の疾患と続く。
 本書は,今,患者さんを受け持っている研修医や神経内科,脳外科,内科の諸先生にすぐに役立つ実際的な書籍である,また指導医以上の方々にも知識の整理にはとても有用であり,座右の1冊としてお勧めしたい。最後に,本書が,多くの先生方,メデイカルスタッフ,そして患者さんにとって役立つことを祈念する次第である。

2017年8月

国立精神・神経医療研究センター 水澤英洋

 髄液検査は神経疾患診療において必須の検査であり,特に中枢神経感染症や炎症性疾患で重要な役割を果たしている。脳,脊髄への体液管理は血液脳関門によって厳密に管理される特殊な環境にあり他臓器のように血液検査からでは得られる情報量が少なく,髄液検査のみから得られる情報が多い。特にアルツハイマー病やプリオン病などの中枢神経に限局した疾患では一般血液検査は正常であり髄液検査が唯一の診断の参考であることもある。
 近年の画像診断技術の発展によりPET検査でアルツハイマー病診断に応用されるアミロイドイメージングやタウオパチーのタウイメージングを利用することで脳の病理所見を反映した画像所見が得られることも確かだが,そのような特殊な画像装置を持つ施設は極わずかで患者数の多さを考えると診断技術として一般化するのは現実的ではない。アルツハイマー病の髄液検査所見は研究が進んでおりアミロイド蛋白,タウ蛋白の測定により実際の脳病理を反映した結果が得られ,それらはPET検査と遜色ない感度,特異度を持つようになっている。一般臨床ではPET検査は行えないが髄液検査は特別な条件なく行えるため髄液検査の持つ診断能力の重要性は神経感染症だけでなく変性疾患でももっと重要視されてもよいと思う。
 髄液検査は血液検査と比べて侵襲度が高いために多数の正常検体で基準値を出すことが難しく教科書を見ても細胞数,蛋白,糖などの一般的なものはすぐに基準値が見つけられるが特殊項目に関しては記載がない場合が多い。邦文,英文の各種雑誌を見ても,特殊検査項目はある疾患で上昇する,あるいは低下するという記載はあるものの,そもそもの基準値が明確に記載されてないことが多く検査結果の評価ができないこともしばしばある。そのために検査ごとに膨大な文献検索をして探してくる手間がかかり臨床医の時間と労力が費やされている。筆者らもその検索に何百時間を費やしてきた。
 本書では髄液検査項目と疾患とに項目を分けて特殊な検査項目の基準値を文献を元に示し,疾患毎では何を調べるべきかをわかりやすくかつ簡単に理解できるように解説した。
 本書が臨床医の時間と労力を軽減し日々の診療に役立つことを希望する。

2017年8月

著者を代表して 太田浄文

おもな目次

1 手技,検体取り扱いの注意事項
腰椎穿刺一般
合併症
検体取り扱い

2 髄液検査基準値,カットオフ値一覧表

3 髄液検査項目解説
髄液圧
外観
細胞数
細胞形態
蛋白

Q ALB(quotient albumin),ALB Index
IgG,IgA,IgM,IgE
CD4/8比

LDH
CK
β2ミクログロブリン(β2MG)
β―Dグルカン
ADA
ミエリン塩基性蛋白(MBP)
オリゴクロナールIgGバンド(OCB)
乳酸,ピルビン酸
総ホモシステイン
IL―6
IL―10
sIL―2R
VEGF
CEA(癌胎児性抗原)
総タウ蛋白(t―tau)
リン酸化タウ蛋白(p―tau)
アミロイドβ(Aβ)
NSE
14―3―3蛋白
ネオプテリン
アンジオテンシン変換酵素(ACE)
リゾチーム
オレキシン(ヒポクレチン1)
鉄(Fe)
フェリチン
トランスフェリン
HVA,MHPG,5―HIAA
抗NMDA受容体抗体
抗GAD抗体
TPO抗体,抗サイログロブリン抗体
フローサイトメトリー

4 神経感染症
中枢神経感染症における病原体,ゲノム,抗原,抗体検査
細菌性髄膜炎
結核性髄膜炎
真菌感染症
ウイルス性髄膜炎・脳炎・脳症一般
単純ヘルペスウイルス(HSV)感染症
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染症
サイトメガロウイルス(CMV)感染症
EBウイルス(EBV)感染症
ヒトヘルペス6型ウイルス(HHV6)感染症
日本脳炎
HIV感染症
HTLV―1関連脊髄症(HTLV―1 associated myelopathy:HAM)
進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)
亜急性硬化性全脳症(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)
プリオン病
モラレ髄膜炎(Mollaret meningitis)
ベル麻痺(Bell palsy)
ラムゼイ―ハント症候群(Ramsay Hunt syndrome)
ポリオ
狂犬病
インフルエンザ脳症
ハンセン病
破傷風
神経梅毒
ライム病
ワイル病(レプトスピラ感染症)
ツツガムシ病(リケッチア感染症)
トキソプラズマ脳炎
脳マラリア
アメーバ感染症
寄生虫感染症

5 神経免疫疾患
多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)
視神経脊髄炎(neuromyelitis optica:NMO)
MOG抗体陽性視神経炎(MOG anti‒body positive optic neuritis:MOGON)
急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis:ADEM)
clinically isolated syndrome (CIS)
アトピー性脊髄炎
神経ベーチェット病
神経スウィート病
神経サルコイドーシス
ループス神経・精神障害
シェーグレン症候群
リウマチ性髄膜炎
中枢神経系血管炎(central nervous system vasculitis:CNS vasculitis)
可逆性脳血管攣縮症候群reversible cerebral vasoconstriction syndrome (RCVS)
肥厚性硬膜炎
NMDA受容体脳炎
VGKC複合体抗体陽性脳炎(Morvan症候群)
橋本脳症
GAD抗体陽性小脳失調症,GAD抗体陽性てんかん,GAD抗体陽性辺縁系脳炎
グルテン失調症
アイザックス症候群(Isaacs syndrome)
スティッフパーソン症候群(stiff―person syndrome)
原田病(Vogt―Koyanagi―Harada disease)
トロサ・ハント症候群(Tolosa―Hunt syndrome)
chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids(CLIPPERS)
ビッカースタッフ型脳幹脳炎(Bickerstaff brainstem encephalitis)

6 神経変性疾患
アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)
レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)
血管性認知症(vascular dementia:VaD)
前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)
正常圧水頭症
軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)
嗜銀顆粒性認知症(dementia with grains:DG)
神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary tangle type:SD‒NFT)
パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)
進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP),皮質基底核変性症(corticobasal degeneration:CBD,corticobasal syndrome:CBS)
脳血管性パーキンソニズム
筋萎縮性側索硬化症
脊髄小脳変性症
ハンチントン病(Huntington’s disease)
瀬川病

7 末梢神経疾患
ニューロパチー全般について
ギラン・バレー症候群(Guillain‒Barré syndrome)
慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy:CIDP)
抗MAG抗体関連ニューロパチー
多巣性運動性ニューロパチー(multifocal motor neuropathy:MMN)
非全身性血管炎性ニューロパチー(nonsystemic vasculitic neuropathy)
神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy)
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangitis:EGPA, churg‒strauss syndrome)
クロゥ・深瀬症候群(POEMS症候群)
家族性アミロイド多発ニューロパチー(familial amyloid polyneuropathy:FAP)
シャルコー・マリー・トゥース病(Charcot‒Marie‒Tooth disease:CMT)
糖尿病性ニューロパチー
薬剤性ニューロパチー

8 脳腫瘍
脳腫瘍診断一般について
神経膠腫(glioma)
悪性リンパ腫
白血病
癌性髄膜炎(髄膜癌腫症)

9 内科疾患,代謝性疾患
肝性脳症
尿毒症性脳症
ビタミンB1欠乏症
ビタミンB12欠乏症
低酸素脳症
低血糖脳症
一酸化炭素中毒
ウィルソン病(Wilson’s disease)
副腎白質ジストロフィー
reversible posterior leukoencephalopathy syndrome(RPLS)
ファブリー病(Fabry disease)
ミトコンドリア病(CPEO,MELAS,MERRF,Leigh脳症,LHON)

10 脳血管障害
脳梗塞
脳出血
くも膜下出血
脳静脈血栓症
アミロイドアンギオパチー
脳動静脈奇形

11 脊髄,脊椎疾患
脊柱管狭窄症
脊髄空洞症
脊椎硬膜外膿瘍
脊髄梗塞
放射性脊髄症

12 その他の疾患
脳表ヘモジデリン沈着症
筋炎,重症筋無力症,筋ジストロフィー
ナルコレプシー
てんかん
うつ病
統合失調症
脳脊髄液減少症
片頭痛,筋緊張性頭痛,群発頭痛
むずむず脚症候群

APPENDIX:特殊検査項目提出先一覧
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