抗リン脂質抗体症候群
松田 重三 著
2001年発行 A5判 119頁
定価2625円(本体2500円+消費税5%)
ISBN9784880024370
内容の説明▼
まだ駆け出しの医者であったころに病棟で出会った患者のことが今でも脳裏に焼き付いている。
外来で診察した教授が入院させた30代の子持ちの主婦で、主訴は出血傾向。当時の知識を駆使して下した診断名は、他の疾患の除外診断した上での、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)だった。印象に残ったのは、梅毒血清検査の偽陽性反応で、将来は全身性エリテマトーデスに移行するかもしれない、ということを念頭に置いて、外来で経過観察することになった。
しかしその後、下肢の動静脈血栓症を何度も発症して入退院を繰り返し、ついには脳血栓症をも発症した。
なぜ血小板減少症の患者が血栓症を反復するのか理解できず、血液凝固因子をターゲットに無駄な検査を繰り返すだけであった苦い経験を思い出す。
やがて抗リン脂質抗体の存在が次第に知られるようになり、保存しておいた血清が抗カルジオリピン抗体陽性であることが判明したが、すでに痴呆症状の患者を前に医師として何も出来なかった己を歯がゆく思ったものである。
その後抗リン脂質抗体に関する研究は長足の進歩を遂げ、今では日常検査としてループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体が測定できるようになり、本当に隔世の感がある。
当時の教授の示唆もあって、遅ればせながら抗リン脂質抗体の研究を始めた。残念ながら、大した成果を上げられずに今日まで至ったのだが、今般新興医学出版社の服部秀夫社長の強い勧めもあって、現在までに明らかにされた抗リン脂質抗体について備忘録的にまとめることにして出来上がったのが本書である。
もっとも執筆を開始してから本書を上梓するまで3年近く経過してしまった。本来の怠け癖も手伝ったのだが、その最大の理由は日進月歩の抗リン脂質抗体の研究成果が発表されるたびに加除訂正を再三再四余儀なくされたためである。一時は断筆しようとまで考えたが、服部氏の激励に助けられ、どうにか本としての体裁を整えることが出来た。
本書は専門外の方々にも理解がたやすいようにと、出来る限り心がけて執筆したので、抗リン脂質抗体に興味を持たれている方のみならず、一般臨床医、検査技師などの方々にも抗リン脂質抗体の概要を理解する上でお役に立つものと自負している。(序文より)
おもな目次▼
1.抗リン脂質抗体と抗リン脂質抗体症候群概説
2.抗カルジオリピン抗体
3.抗カルジオリピン抗体検出法
4.ループスアンチコアグラント
5.ループスアンチコアグラント測定法
6.その他の注目されるaPL関連自己抗体
7.抗リン脂質抗体の産生機序
8.aPLの血栓症発症機序
9.抗リン脂質抗体陽性社の治療