「せん妄の臨床」の改訂版がポケットサイズで登場!
せん妄に対する最新の知見を網羅しつつ、著者のこれまでの臨床経験から現場での具体的な対処法がイメージしやすいようにまとめた1冊。
改訂版では、せん妄の予防的介入や、チーム医療としての取り組みについても言及した。
初版の序
総合病院に勤務する精神科医にとって,せん妄とは最もしばしば対応を求められ,その結果如何によって自分の臨床力の一部が評価されるような気持ちになってしまう緊張させられる疾患であると言えるだろう。典型的なケースは別にして鑑別診断にも迷うことが多いし,臨床症状や発症経過,治療中の身体疾患やその治療薬,検査データなどさまざまな要因を整理,解釈して見立てをしなければならない。治療的介入には何よりスピードが求められるし,限られた入院期間の中でどこをゴールとするのか考えつつ,担当看護師や担当医,家族とコミュニケーションをとりながら治療にあたる必要がある。選択した薬物療法が奏効しないばかりか有害事象を引き起こしてしまい,自分自身がひどくへこむこともある。精神科医にとってストレスフルな疾患であるとも言えるが,日々せん妄は発症しているので,ひるんではいられない。
今後わが国では加速度的に高齢化社会が進行し,必然的に入院患者は高齢化するとともに認知症を持つ患者の比率も高まり,せん妄の発症は増加すると思われる。医療経済的にも入院医療の効率化が強く求められている中,せん妄の合併はさまざまなリスクの拡大や,在院日数の延長などによる医療コストの増加に直結する。医療経済,医療安全の問題としてもせん妄への適切な対応が求められている。
本書は,一般医療の最前線で奮闘している精神科医や看護師を含む医療スタッフがせん妄への対応を求められたときに,何かしら役に立つのではないかと考えながら書いたものである。アートとか技と呼べるようなものでもなく,筆者のこれまでの日常臨床での試行錯誤の寄せ集めの間に,文献からの知見をはさみこんだ症例集と言えるかも知れない。ビジュアルにぱっと見て理解しやすい構成にはしなかったが,できるだけ具体的にイメージが湧くようにと思案しながら書いたつもりである。総合病院に勤務する精神科医が複合的な要因によって減少する一方,せん妄をはじめとした精神医学的ニーズが日々増大していることにより看過すべきでないミスマッチを生じている臨床現場で,本書が少しでもお役に立てばこの上ない喜びである。
本書の執筆にあたり,まだまだ未熟な筆者をご推薦くださった川崎医科大学精神医学教室名誉教授 渡邊昌祐先生に厚く御礼を申し上げたい。また筆者に多くの臨床経験をもつ場を与えていただき,ともに悩みながら仕事をさせていただいている岡山大学精神神経病態学教室ならびに広島大学精神神経医科学講座の先輩,同僚の先生方に感謝を申し上げたい。中でも,広島市立広島市民病院元副院長,佐々木メンタルクリニック院長の佐々木高伸先生,川崎医科大学精神医学教室教授の山田了士先生には,総合病院精神科医の先駆者あるいはロールモデルとして非常に多くのことを教えていただき,心より感謝している。また,何度となく締め切りを延長することになり,多大なご迷惑をおかけしたにもかかわらず終始励ましをいただいた新興医学出版社の林峰子さまには厚く御礼を申し上げたい。
また,本書で提示した症例については,プライバシー保護の観点から修正を加えている部分があることをご了承いただきたい。
平成24年3月
改訂にあたって
2012年に「せん妄の臨床─リアルワールド・プラクティス─」を上梓することができ,一定数の方が手に取り,目を通してくださった。今回,新興医学出版社より改訂版を出すようにお声かけがあり,できあがったのが本書である。
総合病院に勤務するリエゾン精神科医にとって,せん妄は最重要課題である。対応の結果如何によって自分の臨床能力が評価され,「使える精神科医」なのかどうか見定められているような気持ちにさせられる。日々の臨床場面では,症状や発症経過,治療中の身体疾患やその治療薬,検査データなどさまざまな要因を整理,解釈して見立てをしなければならない。治療的介入にはスピードが求められるし,限られた入院期間の中でどこをゴールとするのか考えつつ,病棟看護師や担当医,家族とコミュニケーションをとりながら治療にあたる必要がある。選択した薬物療法が奏効しないばかりか有害事象を引き起こしてしまい,自分自身がひどくへこむこともある。リエゾン精神科医にとってストレスフルな疾患であるとも言えるが,日々せん妄は発症しているので,コンサルテーションが減ることはない。
今後わが国では加速度的に高齢化社会が進行し,入院患者においてさらなる高齢化と認知症を持つ患者の増加によって,せん妄の発症は増加すると思われる。せん妄の合併はさまざまなリスクの増大や,在院日数の延長などによる医療コストの増加に直結し,医療安全,医療経済の問題としても喫緊の課題である。また,地域医療構想によって地域・在宅ケアが推し進められれば,地域で生活する高齢者でもせん妄が今後大きな課題となる可能性が高い。
第1版を上梓後,せん妄の臨床においてふたつの大きなトピックがあったと個人的には考えている。第1に,2012年度から精神科リエゾンチームが診療報酬上位置づけられ,コンサルテーション・リエゾンサービスがチーム医療によって提供されるようになった。リエゾン精神科医が個人プレイで行ってきた活動が,リエゾンナース,リエゾン心理士などとの協働によって提供できる体制になったのである。第2には,せん妄の予防的介入への関心の高まりがある。非薬物療法的介入に加えて予防的薬物療法のエビデンスも出てきており,せん妄の臨床がコンサルテーション・モデルからリエゾン・モデルへと転換しつつある。そしてリエゾン・モデルに基づいた早期介入を推進するために,精神科リエゾンチームがさらに重要な役割を果たすだろう。
本書は,一般医療の最前線で奮闘しているリエゾン精神科医や看護師を含む医療スタッフがせん妄患者への治療およびケアを行うときに,具体的な参考となるようにと考えながら書いたものである。第Ⅰ章理論編では,知識の整理にも役立つよう,文献についてはできるだけアップデートを行い,予防の章を追加した。第Ⅱ章実践編では,初版同様筆者が日常臨床で試行錯誤した症例を中心に文献的考察を合わせて解説した。総合病院に勤務するリエゾン精神科医が複合的な要因によって減少する一方,せん妄をはじめとした精神医学的ニーズが日々増大している現実により看過できないミスマッチを生じている臨床現場で,本書が少しでもお役に立てばこの上ない喜びである。
本書の執筆にあたり,まだまだ未熟な筆者をご推薦くださり,2018年10月に逝去された川崎医科大学精神医学教室名誉教授 渡邊昌祐先生に厚く御礼を申し上げたい。また,ともに日々悩みながら臨床をさせていただいている岡山大学精神神経病態学教室ならびに広島大学精神神経医科学講座の先輩,同僚の先生方に改めて感謝を申し上げたい。中でも,広島市立広島市民病院元副院長,佐々木メンタルクリニック院長の佐々木高伸先生,岡山大学精神神経病態学教室教授の山田了士先生には,多くの臨床経験を積む場を与えていただいたとともに,リエゾン精神科医の先駆者かつロールモデルとして非常に多くの臨床実践を教えていただき,心より感謝している。また,終始励ましをいただいた新興医学出版社の林峰子さま,岡崎真子さまには厚く御礼を申し上げたい。
また,本書で提示した症例については,プライバシー保護の観点から修正を加えている部分があることをご了承いただきたい。
令和元年5月