
ハーバード大学のバースキー教授が開発した,医学的症状の自己管理のための認知行動療法プログラム日本語版。同氏が初めて提唱した概念「身体感覚増幅」についても解説。心身医療に携わるすべての方,必見。
はじめに
Barsky教授は,心気症における認知と知覚様式について,深い臨床的洞察と研究から“身体感覚増幅(somatosensory amplification)”として概念化した。本書は,“身体感覚増幅の認知・知覚モデル”を基盤に開発された“医学的症状(medical symptoms)の自己管理”を目的とした,認知行動療法プログラムの日本語版である。ここでの“医学的症状”は,健常な身体感覚や内臓感覚由来の良性の身体症状から病理性のある心気症状を包括して総称している。すなわち“医学的症状”は実際に身体に出現している“身体の症状”であり,医学的に説明ができるかどうか,根拠があるかどうかなどの双方向の因果関係思考にもとづくものではない。身体に出現している様々な“不快な症状”に悩まされて,身体科を受診する患者は多い。日本の一般医においては,抗不安薬などが投薬されることが多く,症状軽減のための確固とした治療手段がないことが現況であろう。
本書の第1章は,Barsky教授が開発した,医学的症状の自己管理のための認知行動療法プログラム日本語版である。第4章はそのダイジェスト版である。第2章は,大規模なランダム化比較対照試験(RCT)を行って検討された,この認知行動療法プログラムの心気症における有効性についての論文を,日本語で詳説した。第3章は,認知行動療法プログラムの理解を深めるために,身体感覚増幅について概説した。
ここ数年間,国内における認知行動療法の臨床と研究は目覚ましく発展しており,本書が活用される土壌は充分に整いつつあるように思われる。心身医療領域だけでなく,各方面で本書が役立つことを心から祈念する。
2014年5月
村松公美子
第1章 医学的症状の自己管理
セッション1 導入
セッション2 注意
セッション3 認知(信念と思考)
セッション4 文脈(周囲の事情と状況)
セッション5 行動
セッション6 気分,まとめ
第2章 心気症に対する認知行動療法の有効性
Ⅰ 心気症の本態
Ⅱ 方法
Ⅲ 結果
Ⅳ 研究結果のまとめ
Ⅴ 認知行動療法(CBT)プログラムを適用した症例について
第3章 身体感覚増幅の概説
Ⅰ 身体化(somatization)の概念
Ⅱ 身体感覚増幅について
Ⅲ 身体感覚増幅が関与する可能性のある疾患や病態
Ⅳ biopsychosocial modelにおける身体感覚増幅の位置づけ
Ⅴ Somatic Symptom Disorder(DSM-5)
第4章 心気症の心理教育的カウンセリング
セッション1 身体感覚増幅のシステムの概要
セッション2 たいていの症状は良性のものである
セッション3~4 診断を得ることから対処することに焦点を変えること
セッション5 症状と治療に関するよくある誤解―システムの機能の仕方
セッション6 おさらいとまとめ