内科医が知っておきたい精神疾患の症候や対応について,症例やピットフォールを交え臨床に役立つようまとめた1冊。さらに他職種間との連携のポイントをわかりやすく解説。
序 文
本書は,循環器疾患と精神疾患の併存に関する知見を,内科医の臨床に役立つという観点から企画したものである.身体疾患を患うと,だれもが落ち込み不安となる.その多くは,患者のセルフヘルプを支援することで回復できるが,一方で抗うつ薬が奏効するうつ病があり,治療が長引く難治性うつ病もある.また診察場面でのうつ状態が軽度であっても難治性の場合もあり,横断的に診断することには困難が伴う.内科医は,どのような姿勢でこの課題への治療戦略を立てればよいのか.これが本書を企画した問題意識である.
循環器疾患とうつなどの精神疾患は高率に併発し,併発すると予後を悪化させることは,国際的に高いエビデンスで確認されている.このことは,両疾患の治療を並行し,双方向からアプローチすることによって,予後の改善につながる可能性があることを示している.本書は,循環器科での多様な患者への治療の手がかりとなることに心がけて構成されている.
第1章は総論で,循環器疾患と精神疾患の併存の頻度とその背景に考えられるメカニズムについて概説してある.後者については,心臓病学と精神医学の両面から考えられる仮説について執筆していただいた.
第2章では,循環器領域でよく見られる疾患や問題について循環器科医の立場から論じている.なお,心移植に関するメンタルヘルスケア,睡眠障害とせん妄については,精神科医が執筆しており,具体的案対応に関する示唆が得られるであろう.
第3章は,精神科入門編とトピックスである.前者では,内科医と精神科医がどのように連携をとればよいのかについて,具体的なポイントが述べられている.後半のトピックスでは,循環器科の中で取り組む可能性のある治療について紹介している.
本書のテーマは,海外では活発に臨床研究成果が発表されているが,わが国では一部の先進的な専門家や医療機関を除いては,それほど活発ではなかった.本書の執筆者は,わが国でこのテーマに初期から取り組んでこられた循環器科医および循環器科チームの方々である.その意味でこれまでにわが国で蓄積されてきた経験が,本書に満載されているといっても過言ではない.関係者のご理解とご協力に感謝するとともに,本書が全国の循環器科において活用されることを期待する.
国立精神・神経医療研究センター
総長 樋口 輝彦
第1章 概論
Ⅰ.総論
Ⅱ.疫学と評価
Ⅲ.米国心臓協会(American Heart Association:AHA)指針と評価
Ⅳ.循環器領域からみた循環器疾患と精神疾患のメカニズム①
内分泌系(免疫,炎症,神経体液性因子)
Ⅴ.循環器領域からみた循環器疾患と精神疾患のメカニズム②
自律神経系
Ⅵ.精神科領域からみた循環器疾患と精神疾患のメカニズム
うつ病の観点から
Ⅶ.循環器心身医学による全人医療と包括医療
第2章 各 論(循環器疾患と精神疾患との関連を中心に)
Ⅰ.高血圧
Ⅱ.心不全
Ⅲ.不整脈・デバイス
Ⅳ.冠動脈疾患と抑うつ・不安
Ⅴ.急性心筋梗塞とうつ
Ⅵ.心移植
Ⅶ.心不全の緩和ケア
Ⅷ.睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群)
Ⅸ.せん妄
第3章 各専門医との連携に向けて(精神科医からのアドバイス),トピックス
ⅰ .精神科入門編(うつ,不安を中心に)
Ⅰ.どこまで循環器内科・内科医が診療できるか
Ⅱ.DSM-Ⅳを用いた診断および評価法の実際
Ⅲ.内科医と精神科医の共通言語①
精神科への紹介のポイント
Ⅳ.内科医と精神科医の共通言語②
精神科との連携の実際とポイント
Ⅴ.患者への対応の仕方-こんな患者へどう対応するか?
Ⅵ.循環器系疾患における向精神薬処方の留意点
ⅱ .トピックス
Ⅰ.治療について①心臓リハビリテーション
Ⅱ.治療について②行動変容(アドヒアランス向上)
Ⅲ.治療について③ヨーガ療法
Ⅳ.治療について④自律訓練法(Autogenic Training)
Ⅴ.治療について⑤認知行動療法
Ⅵ.治療について⑥協働ケア(collaborative care)