軸性脊椎関節炎 ―診断からリハビリ・患者指導まで―
浦野房三(篠ノ井総合病院 リウマチ膠原病センター長):著
2014年発行 B5判 112頁
定価(本体価格3,500円+税)
ISBN9784880027487

その他執筆者など▼
内容の説明▼

脊椎関節炎の中核群である「軸性脊椎関節炎」について,診断から薬物治療,リハビリテーション,患者の生活指導まで丁寧に解説。
①診察法:写真を用いて、丁寧に解説するとともに、日常の診療に役立つよう、鑑別診断・合併症についても触れています。
②薬物療法:最近の薬物治療の主流である生物学的製剤を事例とともに紹介し、さらに疼痛緩和についても解説しました。
③ADL指導:日本の生活様式に沿った日常生活の注意点を述べ、さらに、治療体操とそのポイントをカラー写真で解説しました。

はじめに

 2008年に「症例から学ぶ脊椎関節炎」を上梓してから5年を経過した。この間に欧米では脊椎関節炎(SpA:spondyloarthritis)に新しい動きがあり,新分類基準が提唱された。その動きは欧米のみならずアジア諸国のリウマチ専門医も注視しており,新たな研究成果が発表されている。まさに今が脊椎関節炎の転換期である。
 今回,その動きを見つめながら,主に脊椎関節炎の中核群である軸性脊椎関節炎(axial SpA:axial spondyloarthritis)を取り上げた。また,脊椎関節炎の中でも乾癬性関節炎(PsA:psoriatic arthritis)はとりわけ重要な病型であるので,付録として取り上げた。今回,その他のSAPHO症候群,反応性関節炎,炎症性腸疾患に伴う関節炎などについては割愛した。
 付着部炎が脊椎関節炎の本態といわれて久しい。しかし,本邦ではこの病態がいまだに十分に浸透しているとはいえず,患者本人は最大の影響を受けているが,医療関係者も診断に難渋している症例の中に,この病態が根底にあることに気づいていないことが多い。得てして,この疼痛病態が心因性,あるいは精神医学的疾患と誤診されていることが多く,この病態を有する患者群は有病率が高いにもかかわらず,通常の医療を受けられていない症例が多い。
 さて,脊椎関節炎の海外の状況はどうであろうか? 2012年6月,ドイツ・ベルリンの欧州リウマチ学会(EULAR)に参加してさまざまな状況を知ることができた。参加者は15,000名,関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)の演題数は800題超,そして,脊椎関節炎は300題に迫る勢いであった。また,リウマチ病のMRI画像診断に関するセッションでは,脊椎関節炎に関する内容が多く,近年,MRIが脊椎関節炎では最も重要な画像診断法とされている。
 また,リウマチ病のMRI画像診断に関するセッションでは,関節リウマチの次に脊椎関節炎が数多く発表されていたのは驚きであった。演題名では強直性脊椎炎(AS:ankylosing spondylitis)の疾患名の代わりに,軸性脊椎関節炎が数多く使用されていた。
 治療に関しては現在,生物学的製剤が活況を呈している。国際脊椎関節炎評価学会(ASAS:Assessment of SpondyloArthritis International Society)のrecommendationではNSAIDsが効かない場合は生物学的製剤が推奨されている。軸性脊椎関節炎と診断された場合,生物学的製剤の適応があるということである。
 一方,2014年現在の日本の現状をみると,保険適応が認められている生物学的製剤はインフリキシマブ(レミケード®),アダリムマブ(ヒュミラ®)の2剤のみであり,この疾患群自体が国内には十分浸透していないために,患者はいまだにドクターショッピングを続けている。欧州と日本のあまりの違いに愕然とする出張であった。中国・台湾では新しい考え方に準拠した発表が増えており,欧米の主要な学会誌にもアジアからの投稿が多い。脊椎関節炎の本態は付着部炎であるという認識がすでに国際的にも常識となっている。仙腸関節炎をはじめとして,四肢・体幹の付着部炎を追求する研究あるいは診療は日進月歩である。生物学的製剤の発達は診断学に影響を与え,また,画像診断の進歩は軸性脊椎関節炎の分類基準が浸透する時代に入っている。最近の調査報告では診断の遅延は生命予後を悪化させるといわれており,リウマチ専門医はこれらを認識すべきではないだろうか。
 そして,2013年3月,都内のある施設に私と他3名のリウマチ医と放射線科医が集合した。「多発性付着部炎研究会」の初回の世話人会である。国内の状況を憂いながら,研究会を立ち上げた。この会は今後の我が国の脊椎関節炎診療と研究への試金石ともいうべき会合となった(4頁コラム参照)。
 冒頭でもふれたように「症例から学ぶ脊椎関節炎」を執筆して以来,5年が経った。本邦のリウマチ学の中で脊椎関節炎は徐々にではあるが,重要視されつつある。最近の脊椎関節炎の動向などを踏まえ,今回の原稿をまとめたつもりである。今後の日本における発展を祈念しつつ上梓したい。
 最後に,本稿の未分化型脊椎関節炎に関する記述および第5章の「ADL指導とリハビリテーション」などはそれぞれ参考とした著書がある。前者はZeidler Hの「Undifferentiated Spondyloarthritis」,後者はKhan MAの「the Facts Ankylosing Spondylitis」である。これらの内容を正確に翻訳し,情報を提供していただいた安曇野市在住,田島彰子氏に深謝申し上げる。また,AS体操の写真撮影については篠ノ井総合病院リハビリテーション科およびその理学療法士石川亜季氏に深謝申し上げる。

2014年3月 浦野房三

おもな目次▼

第1章 脊椎関節炎総論
1 疫学
2 臨床像
 (1)付着部炎
 (2)多発性付着部炎と線維筋痛症(FM)との関係
 (3)未分化型脊椎関節炎(uSpA)の自然経過
 (4)軸性脊椎関節炎(axial SpA)の提唱
3 診断の要点
4 これからの脊椎関節炎(SpA)分類
5 鑑別診断
 (1)関節リウマチ(RA)
 (2)リウマチ性多発筋痛症
 (3)線維筋痛症(FM)
 (4)慢性疲労症候群
 (5)結合組織病(膠原病)
 (6)整形外科的疾患
6 合併症
 (1)脊椎関節炎(SpA)サブグループの関節外症状
  ①眼科疾患
  ②皮膚科疾患
  ③炎症性腸疾患
  ④感染症
 (2)肺障害
 (3)循環器系合併症
 (4)骨粗鬆症
7 疾患活動性の指標

第2章 多発性付着部炎診察法
1 体幹
 (1)頸椎
 (2)胸椎
 (3)腰椎
 (4)骨盤帯
 (5)仙腸関節
 (6)前胸部
2 四肢関節
 (1)肩関節
 (2)肘関節
 (3)手関節
 (4)指・指関節
 (5)股関節
 (6)膝関節
 (7)足関節
 (8)足根部から足趾

第3章 脊椎関節炎各論
1 軸性脊椎関節炎(axial SpA)
2 分類基準
3 画像診断
 (1)X線所見
 (2)MRI所見
  ①仙腸関節所見
  ②脊椎所見
  ③膝関節所見
  ④肩関節所見
 (3)PET
 (4)超音波
4 臨床検査

第4章 脊椎関節炎の薬物療法と予後
1 薬物療法
 (1)非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
 (2)抗リウマチ薬
 (3)免疫抑制剤
 (4)生物学的製剤
  ①インフリキシマブ(レミケード®)
  ②エタネルセプト(エンブレル®)
  ③アダリムマブ(ヒュミラ®)
  ④トシリズマブ(アクテムラ®)
  ⑤アバタセプト(オレンシア®)
  ⑥ゴリムマブ(シンポニー®)
2 疼痛治療の薬物療法
 (1)アセトアミノフェン
 (2)弱オピオイド
 (3)強オピオイド
3 予 後
 (1)機能的予後
 (2)生命的予後

第5章 ADL指導とリハビリテーション
1 日常生活および就労上の注意点
2 リハビリテーション
 (1)なぜ運動療法が必要か
 (2)運動療法の種類
  ①理学療法
  ②作業療法
 (3)スポーツ・娯楽活動
 (4)車の運転
 (5)装具療法
3 外傷との関係
付録 乾癬性関節炎
1 診断と分類
2 治療
3 関節リウマチ(RA)との差異
4 まとめ
参考文献
索引