精神科領域のチーム医療実践マニュアル

山本賢司(東海大学医学部 教授)

2016年発行 B5判 154頁
定価(本体価格3,300円+税)
9784880027609

内容の説明

精神科医療チームを理解し最大限に活かすためのテキスト。精神科チーム医療と一括りにいっても、リエゾン、地域支援、デイケアなど、求められる支援は多岐にわたります。本書はチームのアウトラインをつかみ、実践に備えるべく、領域ごとにわかりやすくまとめました。精神科チーム医療に参加することになったら、あるいは自分たちのチームが本当にそれぞれの役割を十分に発揮できているのか疑問に感じたら、ぜひ読んで欲しい1冊です。

序文

 近年の精神科医療の流れの中で「チーム医療」は様々な形で展開されているが,これはある意味で必然だったと思う.数十年前の精神科病院では退院後の受け入れ施設が少なく,長期入院となって病院で暮らしている患者さんが珍しくなかった.また,総合病院でも身体科病棟における精神科医のリエゾン活動は少なく,精神科病棟か精神科外来での診療が中心であった.さらに,メンタルクリニックも数は少なく,精神疾患患者に対する訪問看護や訪問診療なども珍しいものだった.この20年くらいの間で地域にはデイケアや就労支援施設,グループホームなどが増え,精神科病院の平均在院日数は漸減している.総合病院では緩和ケアや精神科リエゾンチームなどに対して診療報酬の算定が可能となり,デイケアだけでなく,リワークや多職種訪問などを含めた多機能クリニックなども増えてきている.医療は一施設内で完結するものではなく,医療機関は機能分化をして地域の社会資源や福祉施設とも密接なかかわりをもつようになってきているのである.この地域医療の発展や医療技術の進歩により,インフォームド・コンセント,意思決定,安全管理など医療や福祉にかかわる様々な業務が繁雑さを増している.この繁雑な業務を確実に遂行していくためには,医師の力だけではなく,医療にかかわる多くの職種の力が必要である.そして,それぞれの職種が専門性を活かしながら業務にあたることはより質の良い医療の提供につながるものと信じられている.チーム医療のあり方はひとつではない.その施設のマンパワー,医療状況,患者さんや家族のニーズにより柔軟に変化しうるものである.最近の精神科医療の情勢を考えると,多職種協働によるチーム医療は今後もさらに分化・発展していくものと予測される.
 一方で,実際に医療現場で働いている人たちはどれくらいチーム医療のことを理解しているのだろうか? それぞれの職種のことを理解し,意味のある治療構造を患者さんに提供できているのだろうか? 柔軟な対応ができずに,我流の方法に終始していないのだろうか? チーム医療の枠の中で働くときに,いつもこのような疑問を抱く.チーム医療が当たり前のものになればなるほど,自施設で有効な,患者さんやその家族のためになる方法をいつも探し求めなくてはいけない.
 本書ではチーム医療の総論的なことに加えて,実際にチーム医療を展開している先生方に,状況の異なる7つの精神科医療チームについて,その目的や各職種の役割,具体的な内容などを詳述していただいた.初めて精神科の医療チームで働く人々や,現在医療チームで働いている人の中で自施設のあり方,自分の職種のあり方を見直したい方に参考にしていただければ幸いである.

平成28年新春

編著者 山本賢司

おもな目次

チーム医療とは
精神科医療におけるチーム医療
チーム医療の目的
チーム医療の基本
 1.チームワークとリーダー・シップ
 2.コミュニケーション
 3.チーム医療を支えるもの
精神科チーム医療における倫理的な問題
 1.臨床倫理の問題
 2.研究倫理の問題

A.精神科病院における「力動的チーム医療」
「力動的チーム医療」の目的
 1.なぜ「伝統的チーム医療」ではなく「力動的チーム医療」なのか
 2.「伝統的チーム医療」と「力動的チーム医療」─この似て非なるもの─
「力動的チーム医療」による成果─改革前後の診療実績の比較─
 1.外来医療の診療実績について
 2.入院医療の診療実績について
 3.精神科救急の診療実績について
「力動的チーム医療」におけるシステム論
 1.システム論の重要性
 2.システム論からみた開かれた「精神科病院」の姿
 3.システムの統合機能
治療ハードについて
 1.治療ハードの基本的な考え方
 2.大病棟の抱える管理,治療上のリスク軽減のために─「病棟機能分化」と「病棟内機能分化」─
治療ソフトについて
 1.「治療共同体」の想定
 2.不要(非治療的,非生産的)な退行を防ぐための工夫─治療の構造化─
当院の「力動的チーム医療」を支える多くのスタッフの役割と育成
 1.各職種の役割
 2.スタッフチームの育成
「力動的チーム医療」と薬物療法─低用量,単剤化を目指して─
当院における「力動的チーム医療」の実際
「力動的チーム医療」のさらなる展開
 1.「病院づくり」から「街づくり」へ
まとめ

B.精神科病院・クリニックでのデイケア
チームの目的
メンバー構成
運営方法
 1.利用開始
 2.オリエンテーション
 3.デイケア利用中のプログラム実践
 4.卒業/利用停止
 5.新規顧客開拓PR
 6.ケア会議
治療効果
 1.症状再発率の低下
 2.生活リズムの改善
 3.自己肯定感の改善
 4.「場」の力
具体的な活動状況
全国デイケアプログラム例

C.リワークプログラムにおけるチーム医療
チームの目的
メンバー構成
運営方法
治療効果
具体的な活動状況
 1.最近の取り組み
 2.チームでの協働が有効であった症例
まとめ

D.総合病院での精神科リエゾンチーム
チームの目的
 1.理想的な精神科リエゾンチームとはどういうものであるか
 2.診療報酬制度に基づく精神科リエゾンチームに求められる目的とは
メンバー構成
運営方法
 1.専門職種それぞれの役割
 2.運営の手順と工夫
治療効果
 1.情報収集力が向上する(生活歴・家族構成・薬剤情報など)
 2.多様な患者ニーズに対応できる
 3.転院調整など院外機関との連携が円滑に行える
 4.スタッフのメンタルケアに役立つ
 5.病棟スタッフや他科医師への教育・啓蒙活動的効果がある
 6.対費用効果について
筆者の病院での症例から

E.総合病院での緩和ケアチーム
チームの目的
 1.わが国における緩和ケアチームのあゆみとその目的
 2.緩和ケアとがん診療
 3.がん診療連携拠点病院の緩和ケアチームに求められる役割
メンバー構成
運営方法
 1.緩和ケアチームの活動内容
 2.緩和ケアチームによるコンサルテーション活動の留意点
 3.緩和ケアチームの運営方法
治療効果
具体的な活動状況
まとめ

F.救命救急センターでの精神科医療チーム
チームの目的
メンバー構成
 1.精神科医
 2.リエゾン看護師
 3.精神保健福祉士
 4.臨床心理士
運営方法
 1.具体的な運営方法
 2.自殺企図患者への対応
治療効果
具体的な活動状況
 1.当院の場合
 2.児童・青年期の患者への対応
 3.PEECコース
症例
まとめ

G.認知症地域支援チーム
チームの目的
メンバー構成
 1.メンバー構成の概要
 2.チームのメンバーに求められること
運営方法
 1.基本的な運営方針
 2.チーム運営における課題
 3.より効果的なチームになるための仕掛け
チームによるケアの効果
具体的な活動例
まとめ
索引