宮永和夫 南魚沼市病院事業管理者(ゆきぐに大和病院・南魚沼市民病院):著
2016年発行 B5判 158頁平成27年、指定難病として認定され、今注目を集める前頭側頭葉変性症についてまとめた著者入魂の書。本書ではピック病を含む前頭側頭葉変性症とその関連疾患について、臨床類型別の事例を取り上げるとともに鑑別診断、治療からケアまでを解説。図表を多用したわかりやすさが魅力の1冊。
はじめに
精神医学における疾患単位の概念は,カール・L・カールバウム(Karl L Kahlbaum)が導入し,エミール・クレペリン(Emil Kraepelin)が確立したものである.身体疾患の場合,同一の原因,同一の症状,同一の経過と予後,同一の病理解剖学的所見をもつものを一つの疾患単位としたが,この基本概念は進行麻痺などの梅毒に基づくものである.当然のごとく認知症の分類もこの流れによっている.まず,アントワーヌ・L・ベイル(Antoine L Bayle)により進行麻痺が,次にオットー・ビンスワンガー(Otto Binswanger)らにより脳動脈硬化による認知症が分離された.アルツハイマー型認知症は,ほぼ20年ほど前まで,鑑別診断を行った結果,最後に残る疾患名として控えめに診断されていたが,画像検査や生化学的検査の進歩から,より優先して鑑別疾患となり,逆に,最後に残ったのは,非アルツハイマー型疾患ということになっている.他方,ピック病は,非アルツハイマー型認知症の代表として,前頭側頭葉変性症(FTLD)の1型として再登場したが,臨床症状による診断基準はいまだ確立せず,神経病理学の面の発見とともに,神経病理学的疾患分類が年々のように変更されるなど,混沌とした状態が続いている.ここでは,ピック病を含む前頭側頭葉変性症とその関連疾患について,臨床類型別の事例を示すとともに,鑑別診断から治療までをまとめた.資料が少なく,不完全なところは多いと思うが,診断・治療とともに,ケアなどの生活支援の一助になれば幸いである.はじめに 1
1 ピック病をめぐるはなし 2
Ⅰ ピック病の歴史 2
1.アーノルド・ピックの報告 2
2.アーノルド・ピック以降の報告 3
3.ピック病の命名とその後の変遷 3
4.前頭側頭葉変性症(FTLD)の成立 5
●文献1-Ⅰ ピック病の歴史 6
Ⅱ 神経病理学的所見による前頭側頭葉変性症の分類 8
1.タウが関連する疾患 8
2.ユビキチン陽性,TDP-43陽性の疾患 10
3.ユビキチン陽性,TDP-43陰性の疾患 11
4.ユビキチン陰性,TDP-43陰性の疾患 12
●文献1-Ⅱ 神経病理学的所見による前頭側頭葉変性症の分類 12
Ⅲ 前頭側頭葉変性症の疾患分類など 14
1.FTLDの頻度 14
2.FTLDの年齢別頻度 14
3.行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD) 14
4.行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)の臨床類型 20
5.前頭葉の部位の名称 29
6.巣症状 30
7.原発性進行性失語(PPA)の診断基準 33
●文献1-Ⅲ 前頭側頭葉変性症の疾患分類など 43
Ⅳ 行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)に類似する疾患 46
1.概論 46
2.神経症状による前頭側頭葉変性症および関連疾患の分類 47
3.FTLDの臨床上の表現型と遺伝子変異のタイプや脳萎縮部位の関係 48
4.大脳皮質基底核変性症(corticobasal syndrome:CBS/CBD) 49
5.進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP) 52
6.嗜銀顆粒性認知症(argyrophlic grain disease:AGD) 55
7.神経原線維変化型老年期認知症(senile dementia of the neurofibrillary
tangle type:SD-NFT)または神経原線維変化優位型認知症(neurofibrillary tangle predominant dementia:NFTD) 58
8.前頭葉変性症(dementia lacking distinctive histology:DLDH) 60
9.FTDP-17(frontotemporal dementia and parkinsonism linked to chromosome 17) 62
10.湯浅−三山病(運動ニューロン疾患を伴うFTD/ユビキチン陽性封入体を
持つFTLD:MNDID) 64
11.C9ORF72変異遺伝子を伴うFTLD 68
12.その他の関連疾患 69
1)ニューロフィラメント封入体病/神経細胞性中間径フィラメント封入体病
(neuronal intermediate filament inclusion disease:NIFID) 69
2)好塩基性封入体病(basophilic inclusion body disease:BIBD) 69
3)非定型FTLD-U(atypical FTLD with ubiquitin-only immunoreactive changes:aFTLD-U) 70
4)進行性皮質下グリオーシス(progressive subcortical gliosis) 71
5)骨Paget病と前頭側頭型認知症を伴う遺伝性封入体筋炎(inclusion body myopathy associated with Paget disease of bone and frontotemporal dementia:IBMPFD) 72
6)chromosome 3 linked frontotemporal dementia(FTDP-3) 72
7)石灰沈着を伴うびまん性神経原線維変化症(小坂-芝山病) 73
8)Presenilin-1 linked frontotemporal dementia 74
9)dystrophia myotonica / myotonic dystrophy type 3(DM3):non-DM1, non-DM2 multisystem myotonic disorder with frontotemporal dementia 74
10)グリア細胞球状封入体を伴う白質タウオパチー(WMT-GGI) 75
11)認知症を伴う多系統タウオパチー(MSTD) 75
12)TARDBP変異遺伝子を伴うFTLD 75
13.posterior cortical atrophy(PCA) 76
●文献1-Ⅳ 行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)に類似する疾患 76
2 前頭側頭葉変性症の臨床類型別事例集 80
Ⅰ 意欲低下を中心とした事例 80
1.うつ病と診断され,4年間薬物治療を受けていた症例 80
2.意欲低下から躁転化した症例 81
Ⅱ 常同症を中心とした事例 82
1.徘徊が問題となった症例 83
2.過食・偏食が問題となった症例 84
3.アルコール依存症と診断された症例 84
4.弄火が問題となった症例 85
Ⅲ 脱抑制を中心とした事例 86
1.いわゆる「万引き」行為で発見された症例 86
2.交通違反を繰り返す症例 87
3.職場での適応障害により気づかれた症例 88
Ⅳ 言語障害を中心とした事例 88
1.言葉の意味の理解しづらさから始まった症例 88
2.言語障害が長期間持続しているが,人格が保たれている症例 89
Ⅴ 記憶障害を中心とした事例 90
1.記憶障害より行動障害に変化した症例 90
2.記憶障害が中心で,性格変化の目立たなかった症例 91
Ⅵ その他の障害を呈した事例 92
1.幻覚・妄想を呈する症例 92
2.自己主張ができずに暴力となってしまった症例 92
●文献2-Ⅰ〜Ⅳ 前頭側頭葉変性症の臨床類型別事例集 93
3 鑑別診断 94
Ⅰ アルツハイマー型認知症と前頭側頭葉変性症の鑑別は可能か 94
1.記憶障害より発症するFTLD 94
2.非定型の病理学的所見を有するFTLD 94
3.発症年齢と合併の可能性について 95
Ⅱ ピック病と「ピック球を有しないピック病」の鑑別は可能か 95
1.ピック病とFTLD-TDPの相違点 95
Ⅲ 分子病理学と臨床医学の今後 96
●文献3-Ⅰ〜Ⅲ 鑑別診断 97
4 治療 99
Ⅰ 原則 99
Ⅱ 薬物治療 100
1.認知症の薬物療法のアルゴリズム 100
2.FTLDに対する薬物治療 100
3.その他の薬剤(現在使用されている薬剤) 102
1)神経細胞増殖作用ないし新生作用を有する薬剤 102
2)神経細胞保護作用を有する薬剤 103
3)症候改善作用薬(symptomatic agents) 104
4)抗酸化作用を有する薬剤,薬物ないし食物 105
5)補完代替物質 106
6)今後の薬剤-疾患修飾作用薬や根本治療薬(disease modifying agents)の可能性 106
Ⅲ 非薬物療法とケア(生活支援) 108
1.環境調整(improvement of living environment) 108
2.ケア(生活支援):life support 109
3.非薬物療法(non-drug therapy) 111
1)認知に焦点を当てたアプローチ 111
2)感情に焦点を当てたアプローチ 111
3)刺激に焦点を当てたアプローチ 111
4)行動に焦点を当てたアプローチ(行動療法的アプローチ) 112
5)その他のアプローチ 113
Ⅳ 認知症研究において歴史的に重要と思われる文献 113
●文献4-Ⅰ〜Ⅳ 治療 117
5 ピック病とその仲間たち─臨床の風景 118
Ⅰ ピック病の臨床と病理の報告(1918年~1935年) 118
Ⅱ 前頭前野の障害でみられる症状群 119
1.前頭葉と関連する回路 119
2.背外側部の障害 119
3.眼窩部の障害 120
4.内側部と前部帯状回の障害 122
Ⅲ 記憶障害 122
1.作動記憶 122
2.記憶に関連する神経回路 124
Ⅳ 注意障害 126
1.注意の容量の減少(持続・維持性の低下) 126
2.選択的注意の障害(集中・選択性) 126
3.分割・分配性注意の障害 127
4.弁別的注意の障害 127
Ⅴ 情動障害 127
1.アパシーとうつ状態の鑑別 127
2.疾患による相違 128
Ⅵ 幻覚・妄想 130
1.幻覚・妄想の内容と頻度 130
2.障害の部位 130
Ⅶ クリューバービューシー症候群(Klüver-Bucy症候群) 131
Ⅷ 病識の欠如(loss of insight) 131
1.自意識ないし自己の認知 132
2.ミラー細胞と他者細胞について 133
3.疾病の意識(気づき,自覚,関知:awareness)の障害 133
4.病態失認(unawareness)の分類 133
5.多幸 133
6.紡錘形神経細胞 133
Ⅸ 部位による分類 134
1.前皮質性認知症(前方型認知症) 135
2.その他の認知症 135
Ⅹ ピック病の病期分類/症状分類 135
1.Schneider CによるPick病の病期分類(1929年) 135
2.Von Braunmuhl A & Leonhard Kによるピック病の分類(1934年) 135
3.Armando Ferranoによるピック病の分類(1959年) 135
4.Cummings & Bensonによるピック病の分類(1986年) 136
5.黒田重利によるピック病の分類(1997年) 136
6.ニアリー DらのFTDの診断的特徴 137
7.McKhann GMらによる前頭側頭型認知症(FTD)の臨床診断基準 138
8.ピック病のスクリーニングテスト(宮永私案:2006年) 138
9.PSPの診断基準 140
●文献5-Ⅰ〜Ⅹ ピック病とその仲間たち─臨床の風景 141
おわりに 144