新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン

 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン作成委員会:監修
 樋口 進(日本アルコール関連問題学会 理事長):編集
 齋藤利和(日本アルコール・アディクション医学会 理事長):編集
 湯本洋介(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター):編集

2018年発行 B5判 160頁
定価(本体価格5,200円+税)
9784880027791

内容の説明

アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン、16年ぶりの新版!!
日本アルコール・アディクション医学会および日本アルコール関連問題学会からも豪華執筆陣が集結。日常診療でよくみられる症例から抱えやすい問題を伴う症例まで、実際の診療に役立つよう、より具体的な症例を挙げながら対応法、ポイントなどをわかりやすく解説しました。全国の依存症専門機関や回復施設等のリスト付。

巻頭言

 アルコール・薬物関連障害の診断・治療ガイドラインの初版は,2002年に出版された.初版の発行から10年以上経ち,新たな知見が積み上げられていることなどから,厚労科研(厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業(障害者政策総合研究事業(精神障害分野))の一環として上記の新版である,新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインを作成することとなった.ガイドラインの作成には,関連学会からの協力が必須であることから,日本アルコール・アディクション医学会および日本アルコール関連問題学会から両理事長をはじめ多くの会員に参加をいただいた.
 今回のガイドラインの主な読者は,精神科のみならず,すべての臨床科の研修医およびプライマリケア医を想定している.アルコール・薬物問題の診療には多くの科との連携が必要であること,また,若手の医師にこの分野に興味を持っていただき,裾野を広げることなどを考慮してのことである.さらに,内容をわかりやすく,かつ具体的にすることで,多くの関連するコメディカルにも使用いただくことも意図した.
 現在,世界的な診断ガイドラインはICD−10とDSM−5であるが,両者は依存の取り扱いが異なっている.読者に混乱を引き起こさないために,本書では前者を主に使用し,後者は必要に応じて併記することにした.また,アルコール・薬物使用障害の治療に関するエビデンスは必ずしも十分ではないことから,エビデンスレベルは記載しないこととした.
 本ガイドラインは大きく,総論,症例別初期対応編,軸評価に基づいた問題別対応編,参考資料の4章で構成されている.まず,総論で診断・治療の概要を説明している.内容は,依存の概念,診断総論,治療総論,疫学,法的事項と支援者や家族に対する対応,からなっている.
 症例別初期対応編は,実際に外来でアルコール・薬物使用障害がらみの患者を診療する際に参考となるように,全部で19症例を挙げてその対応を具体的に解説している.軸評価に基づいた問題別対応編は,アルコール・薬物使用障害に関連して起こりやすいそれぞれの問題を4つの軸に分けて評価し,それぞれの対応法を解説している.最後に参考資料として,依存症の全国専門医療機関リストおよび回復施設リスト,自助グループ相談先施設を掲載している.
 本ガイドラインの草稿は,前述の厚労科研の報告書として公開されている.今回,より多くの方々に使用いただくために,一部足りない箇所を追加し,かつ,全面的に編集し直して,本出版に至った.

 最後に,本ガイドラインの内容の検討や執筆に協力いただいたガイドライン作成委員の各先生方,および快く執筆に貢献いただいた各専門家の方々に心から感謝申し上げる.本書が,アルコール依存症をはじめとするアルコール・薬物使用障害の相談や診療に広く役立つことを祈念してやまない.

平成30年7月吉日

厚労科研「アルコール依存症に対する総合的な医療の提供に関する研究」研究代表者
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター 院長
樋口 進

おもな目次

第1章 総 論
 Ⅰ 依存の概念
 Ⅱ 診断総論
  1 ICD−10/DSM−5診断基準について
  2 評価尺度の解説
   1)アルコール依存症等の評価尺度
   2)薬物使用障害の評価尺度
  3 合併精神疾患の解説
  4 合併身体疾患の解説
 Ⅲ 治療総論
  1 治療の目標
  2 治療の内容
   1)心理社会的治療
   2)薬物治療
   3)ブリーフインターベンション
 Ⅳ 疫学
  1 飲酒パターンとアルコール健康障害
  2 薬物乱用・依存の疫学
 Ⅴ 法的事項と支援者や家族に対する対応
  1 法的事項
  2 支援者に求められるスキル
  3 家族への対応

第2章 症例別初期対応編
 Ⅰ アルコール使用障害への初期対応(内科系)
  1 酔ってケガをした患者が来院した場合
  2 飲酒による代謝障害の患者に対応する場合
  3 アルコール性脂肪肝・肝炎患者に対応する場合
  4 多量飲酒による循環器疾患・脳血管障害患者に対応する場合
  5 多量飲酒による消化器疾患の患者に対応する場合
  6 アルコール性肝線維症,肝硬変の患者に対応する場合
  7 アルコール性ケトアシドーシスと低血糖の患者に対応する場合
  8 アルコール性膵炎の患者に対応する場合
  9 酩酊/酒気帯びで繰り返し救急外来を受診する場合
  10 家族が本人を連れてきた場合
 Ⅱ アルコール使用障害が他疾患と合併している場合への初期対応(精神科系)
  1 抑うつとアルコール使用障害が合併している場合
  2 不安障害とアルコール使用障害が合併している場合
  3 発達障害とアルコール使用障害が合併している場合
 Ⅲ 薬物依存症への初期対応
  1 処方薬依存の患者が来院した場合
  2 眠れないことが主訴の患者が来院した場合
  3 不眠の背景に薬物依存症がある場合
  4 違法薬物の使用を告白された,発覚した場合
 Ⅳ アルコール使用障害の患者が救急搬送されてきた場合の初期対応
  1 離脱せん妄・離脱けいれんの患者が搬送されてきた場合
  2 ウェルニッケ脳症が疑われる患者の診療

第3章 軸評価に基づいた問題別対応編
 Ⅰ 1軸:アルコール・薬物使用障害の重症度
  1 アルコール使用障害 AUDIT−C高得点者の対応
  2 薬物使用障害 重症度評価項目(松本俊彦作成)高得点者への対応
 Ⅱ 2軸:アルコール・薬物使用障害と社会的問題
  1 暴力/DVがある場合の対応
  2 児童虐待を伴う事例への対応
  3 犯罪を起こした場合への対応
  4 飲酒運転をしている場合への対応
  5 就労問題(欠勤など含む)を伴う場合への対応
  6 高齢者のアルコール問題への対応
  7 女性のアルコール依存症への対応
 Ⅲ 3軸:アルコール・薬物使用障害と身体的問題
  1 問題飲酒を伴う脂質異常症への対応
  2 問題飲酒を伴う糖尿病への対応
  3 アルコール性肝硬変への対応
  4 飲酒による高トリグリセリド血症,高尿酸血症への対応
  5 アルコール性脂肪肝・肝炎への対応
  6 多量飲酒による循環器疾患・脳血管障害への対応
  7 多量飲酒による消化管疾患への対応
  8 多量飲酒による糖代謝異常への対応
  9 アルコール性膵炎への対応
  10 薬物使用に関連する感染症(HIV,C型肝炎等)への対応
 Ⅳ 4軸:アルコール・薬物使用障害と精神的問題
  1 双極性障害がある場合
  2 PTSD(心的外傷後ストレス障害)がある場合
  3 精神病性障害がある場合
  4 認知症がある場合

第4章 参考資料
 1. アルコール健康障害・薬物依存症・ギャンブル等依存症 全国医療機関
 2. アルコール健康障害・薬物依存症・ギャンブル等依存症 回復施設
 3. 自助グループ相談先施設

索引