ストレス社会、24時間社会、超高齢社会などのさまざまな社会変化により、睡眠障害を訴える患者が急増している。このような状況のなかで、2018年には睡眠障害国際分類第3版(日本睡眠学会 診断分類委員会訳)において、最新の分類や診断基準がまとめられた。しかし、複数の睡眠障害を合併している症例などもあり、実際の診療は簡単ではない。
本書は、臨床の第一線で活躍する睡眠のエキスパートたちが50症例を提示。自験例に基づき、診断や治療法の選択に至るまで、そのプロセスやポイントを簡潔に解説している。症例の合間には4つのコラムがあり、睡眠に関する知識をさらに深めることができる。
序
人類の歴史のなかで,現代ほど「睡眠」に高い関心が寄せられた時代はないであろう。
2019年1月
白銀の大雪連峰を眺めながら
千葉 茂
序 千葉 茂
Ⅰ.不眠症
A.「眠り方がわからなくなってしまった」不眠恐怖を抱く慢性不眠患者への治療アプローチ 天谷美里・小曽根基裕
B.認知行動療法を通じて目標が変わったことにより軽快した慢性不眠障害の一例 山寺 亘
C.慢性不眠障害(精神生理性不眠)への精神療法 上埜高志・菅野 道
D.オレキシン受容体拮抗薬への切り替え後に寛解した短期不眠障害の一例 林田健一
Ⅱ.睡眠関連呼吸障害群
A.CPAP治療継続のためには,治療データの説明が不可欠 大久保敏彦
B.夜尿を伴う不眠を訴えて来院した成人男性 細川敬輔・櫻井 滋
C.口腔内装置は,いびきや軽症・中等症OSAをはじめ,CPAP脱落者にも対応可能 對木 悟
D.超重症の閉塞性睡眠時無呼吸? 山城義広
E.小児の口呼吸,夜間の咳は睡眠時無呼吸症を疑う 新谷朋子
F.CSR—CSAを合併する低心機能心不全の治療ストラテジー 富田康弘・成井浩司
G.早産児では睡眠時無呼吸の可能性を考える 篠邉龍二郎
H.CPAP治療を開始したら,閉塞性睡眠時無呼吸症候群患者に中枢性無呼吸が出現した⁉ 中山秀章
I.心臓手術後の右側横隔膜片側麻痺の睡眠関連低換気障害にNPPVを導入した生後7ヵ月の乳児 陳 和夫
J.合併した種々の睡眠呼吸障害にadaptive servo ventilation(ASV)が有効であった多系統萎縮症の一例 陳 和夫
K.いびき治療の代表的保存治療は口腔内装置である 千葉伸太郎
L.患者満足度の高いいびき治療には,代替え(手術)治療を含め,いくつかの治療選択肢の組み合わせを考慮する 千葉伸太郎
M.睡眠中にうなるのは病気? カタスレニアは睡眠関連呼吸障害?それとも睡眠時随伴症群? 大倉睦美・谷口充孝
Ⅲ.中枢性過眠症群
A.日中の眠気と突然の脱力を訴える患者を診たら 大森佑貴・神林 崇
B.多彩なレム関連症状と共存するナルコレプシーの症例 本多 真
C.中年,肥満,いびき・眠気=OSAと思い込まない 金子泰之
D.臨床症状だけでは診断がつかない過眠症とその検査の限界 本 将昂・谷口充孝
E.眠っても眠っても眠い病気 都留あゆみ・亀井雄一
F.遷延型のクライネ-レビン症候群 本多 真
G.睡眠不足症候群は国際的に認知されている疾患名 神山 潤
H.日中に眠い→睡眠時無呼吸症候群とナルコレプシー以外に考えられるのは? 河野公範
I.ナルコレプシーと診断され,投薬されていた睡眠不足症候群の中学生 神山 潤
J.残業による睡眠不足が引き起こす過剰な日中の眠気 高橋敏治
Ⅳ.概日リズム睡眠・覚醒障害群
A.時間療法が有効であった睡眠・覚醒相後退障害 上埜高志・菅野 道
B.若年者に多い,見逃されやすい睡眠・覚醒相後退障害 高江洲義和
C.不眠と抑うつで治療されてきたが,睡眠・覚醒相後退障害+双極Ⅱ型障害と判明した症例 海老澤 尚
D.睡眠覚醒時刻が日々後退した症例 今井 眞
E.生体リズムと勤務時間とのミスマッチによるシフトワーカーの睡眠障害 伊東若子
F.繰り返しの時差フライトが引き起こす睡眠障害 高橋敏治
Ⅴ.睡眠時随伴症群
A.外傷の危険を伴う睡眠時遊行症の中学生例:診断,対応と今後の方針 土生川光成
B.睡眠関連摂食障害はまれな疾患ではなく,本人の苦痛も強い 亀井雄一
C.夢に関連した異常言動―将来の神経変性疾患発症の可能性―必要な検査・治療と,長期的フォローは? 角 幸頼・松尾雅博・角谷 寛
D.抑肝散が奏功した典型的な特発性レム睡眠行動障害の70歳台男性例 宮本雅之・宮本智之
E.重症閉塞性睡眠時無呼吸を併存した特発性レム睡眠行動障害の70歳台男性例 宮本雅之・宮本智之
F.入眠時に爆発音と閃光を自覚した症例 今井 眞
G.精神疾患治療中に生じる夜間の異常行動に対処する 金野倫子
Ⅵ.睡眠関連運動障害群
A.問診が診断の鍵になる睡眠障害 古田壽一
B.むずむず脚症候群という病気があることを知っておこう! 河野公範
C.家族性のむずむず脚症候群 上埜高志・菅野 道
D.眠れない原因は下肢のピクつきだった! 都留あゆみ・亀井雄一
E.「毎晩,必ず頭を左右に振っているんです.これって大丈夫なんでしょうか?」 加藤久美
F.「お腹がひくひくして眠れません.何科に診てもらったらいいのでしょうか?」 大倉睦美・谷口充孝
Ⅶ.身体疾患および神経疾患に関連する睡眠障害
A.見たこともない異常なPSG所見! 短期間に急速に状態が変化! 田ヶ谷浩邦・深瀬裕子・市倉加奈子
B.睡眠中に異常行動を示す少年―エキスパートはてんかんを見逃さない 千葉 茂
C.「ビデオ脳波も受けたけど,うちの子は無呼吸です!」と親が主張するてんかん症例 加藤久美
D.真夜中の暴行―おばあちゃんの家庭内暴力? 石田重信
コラム
●「睡眠」を表す接頭語“hypn(o)—”に寄せて―古代ギリシャの神話と医学 管見― 藤尾 均
●遠隔医療と遠隔睡眠学 千葉伸太郎
●アクチグラフィーを使ったリズム障害の診かた 遠藤拓郎
●睡眠障害のcomorbidity 伊藤 洋