はじめに~一人称の視点から~
医学は進歩しています。「統合失調症」やその治療薬である「抗精神病薬」についてもさまざまな知見が分かってきました。しかし統合失調症の患者さんは医学の進歩の恩恵に浴し,昔より楽しく生きられているのでしょうか。医学の進歩に呼応する「精神の豊かさ」が得られているのでしょうか。もし精神薬理学や脳科学の進歩が一人の患者さんの「精神の豊かさ」に寄与していないとすれば,それはどうしてでしょうか。医学の進歩を実臨床に応用する視点が欠如しているからではないでしょうか。A.臨床の視座
■麻酔科医の発想―精神科薬物療法を外科手術にたとえると
■もっともすぐれた医療機器は何か
■役立つ情報とは
■鍵の文化
■何も言えない
B.統合失調症とは
■陽性症状と陰性症状
■前駆期の重要性―精神疾患の一次予防ができる可能性
■疾患の近縁性
■遺伝は決定論ではない
■4つのドパミン経路
■統合失調症の治療
■幻聴が苦しいのではない
■妄想と錯誤帰属
■私はだれ
■プレパルス抑制
■統合失調症が「治る」とは
■3つの疾患との闘い
■併存疾患を多用すると本質を見失う
■If―家族の視点
C.抗精神病薬の臨床効果を最大にする方法を考える
■「抗精神病作用」とは難解なパズル
■抗精神病薬の開発は現在進行形である
■治療手段―介在する物質のコントロール
■糖尿病でのレガシー効果(legacy effect)
■統合失調症における臨界期仮説(critical period theory)
■臨床効果は3本の矢
■抗精神病薬の副作用
■コインの表と裏
■Pinesの共通点
■非定型抗精神病薬は寿命を縮めるのか?
■「至適最小用量」が最大の効果を生む
■至適最小用量の問題点
■非定型性とは
■部分アゴニストの薬理作用を理解する
■受容体と神経回路の違い
■ドパミン・システムの回復に必要なものは
■部分アゴニストはプロラクチンを低下させる
■低プロラクチン血症も副作用?
■部分アゴニストの功罪
D.ドパミンの役割
■ドパミンの低下は活気を損なう
■学習とドパミン
■ドパミンの意味論―サリエンス
■夢に関するHobsonの立方体モデルとドパミン
■ドパミンと境界線
■報酬系とドパミン
■直感とドパミン
■ドパミンD2受容体の過感受性―D2High受容体の存在
■ドパミンのすごさ
E.変動幅を考える
■量と質
■変動幅というドパミン遮断の「質」をコントロールする
■D2遮断の時間軸を考える
■症状のゆらぎ(1):効果の減弱―症状のブレを防ぐにはD2遮断の変動幅を小さくすることが大切
■症状のゆらぎ(2):副作用の増強―知覚変容
■知覚変容発作と夢
■ドパミンを必要以上に遮断すると
■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(1)
■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(2)
■錐体外路症状はいまだに大きな問題である(3)
■窒息
■効果曲線の左方移動
■変動幅を小さくするには
■精神医療以外で変動幅が重要である現象(1):高血圧
■精神医療以外で変動幅が重要である現象(2):糖尿病
■精神医療以外で変動幅が重要である現象(3):パーキンソン病
■高脂血症の「量」と「質」
■脂質の二次元平面図(Two-Dimensional Map with nonHDL-C)
■抗精神病薬による体重増加での脂質代謝障害
■非肥満での脂質代謝障害
■代謝のABC
■変動幅(fluctuation),スパイク(spike),サージ(surge)が危険である理由
■「量」と「質」をコントロールする
F.臨床精神薬理学の限界
■臨床精神薬理学の問題点
■受容体での椅子取りゲームを考える
■アンタゴニストはアゴニストの対極にあるのではない
■ネット・アンタゴニスト
■神経系の機能は"創発"である
■コネクトーム
■蟻の行列
■創発にはニューロンのノイズが必要
■受容体にもノイズがあるはず
■機能があることが必ずしもいいのではない―失うことで進化する
G.非薬物療法の重要性
■薬物療法を万能にしてはいけない
■足音が肥料になる
■認知行動療法
■認知行動療法は分かりにくい?
■自分で実現してしまう予言
■スキーマは固定的ではいけない―5匹サルがいるとバナナにありつけないのはなぜ?
■認知行動療法と精神科薬物療法は近い
■心とは
■「溜め込む」ことの弊害
■抗精神病薬の本当の作用とは
■ココ,カラ主義
エピローグ
■「大量」は問題
■「大漁」も不幸かもしれない
■人間は強いようで弱い?
■弱くても前に進める