本書は、大人気シリーズ「本当に明日から使える漢方薬シリーズ」三部作に続く「本当に今日からわかる漢方薬シリーズ」の1冊目です。モダン・カンポウの立ち位置、使用法、コツなどを鉄則、心得、ヒントとしてまとめました。西洋医としてのカンポウワールドを拡げ、もう少し打率を上げたい先生方向けに今までの復習とややステップアップの内容となっています。
推薦の言葉
新見正則先生が、「本当に明日から使える漢方薬シリーズ」3部作(「本当に明日から使える漢方薬7時間速習コース」、「フローチャート漢方薬治療」、「簡単モダン・カンポウ」)に続く「本当に今日からわかる漢方薬シリーズ」の第1弾として本書をまとめられました。どの処方を選ぶか、一筋縄ではゆかないのが実地臨床です。その解決策や思考方法などの手助けとして生まれたのが本書です。既刊3冊とほとんど同じ内容も含まれますが、よりわかりやすく、違う角度から解説し、さらにステップアップ用ともなっています。
「外来診療での心得」で、患者さんと一緒に適切な処方を探すというのは、医師の力が抜け、この方法でやれば楽しくなるでしょう。私は十数年前から水泳を習っており、なかなか上手に力を抜くことが出来ません。最近漸く新しいトレーナーから懇切な指導を受けて力が抜けるようになり、急に水泳が楽になりました。まさにそれを教えているのが本書です。「モダン・カンポウは西洋医がリラックスして使用する立ち位置の概念」(カンポウの進化と未来①)です。
「処方の鉄則」「処方選択の鉄則」で、実際的な処方の選択法、「効果増強の鉄則」で、服用法など重要な点を述べ、さらに「思いつかない時の鉄則」「効かない時の鉄則」などは他の本にない異色の章です。昔から漢方の医書には、難しい文章を多く含むものがあり、臨床の役には立ちません。新見先生が、「治療に結びつかない言葉遊びは全く興味がない」(漢方理論をクリアに⑨)と記されているのは全く同感です。
本書は、わかりやすいけど、内容は高度です。「生薬から眺めるといろいろなことが見えてくる」(漢方理論をクリアに⑫)と述べています。処方の働きの理解には生薬への理解が必要でしょう。漢方治療の実際に役立つ優れた本です。既刊の3冊から読むと理解しやすいですが、この本を最初に手にする読者の方にも役立ちます。ぜひお読みください。
平成24年4月1日
社団法人日本東洋医学会元会長名誉会員 松田邦夫
はじめに
この本は「本当に明日から使える漢方薬シリーズ」3部作に続く「本当に今日からわかる漢方薬シリーズ」の1冊目です。モダン・カンポウの立ち位置や使用法、コツなどを鉄則、心得、ヒントなどとして並べています。今までの3冊にほとんど同じ内容が含まれていますが、わかりやすく違う角度から解説してもらいたいとのご要望が多数有り、書籍としました。そしてややステップアップ用となっています。
思えば約35年前に、大学受験の勉強をしているころにたくさんの書籍にお世話になりました。それらの書籍の中には、同じ内容でありながら、いろいろな側面からのわかりやすい解説がありました。そんな本に助けられて勉強がはかどった記憶が急によみがえりました。同じことがすでに書いてあるから必要ないと思っていましたが、それは僕の勘違いでした。
読者の先生方に、わかりやすくモダン・カンポウを理解していくためであれば、こんな本も必要だろうと思い直したのです。既刊の本当に明日から使える漢方薬シリーズの3冊、「本当に明日から使える漢方薬7時間速習コース」、「フローチャート漢方薬治療」、「簡単モダン・カンポウ」を読んでからこの本を使用した方が、理解しやすいと思います。しかしこの本から読んで頂いても結構です。
この本の知識のベースは松田邦夫先生に陪席時に教えて頂いている知恵と松田邦夫先生の講義です。それに僕なりの視点を加えています。ですから本書の内容の根源は松田先生にあり、文責はすべて僕にあります。
皆様がモダン・カンポウを勉強する上での頭の整理と少々のステップアップのお役に立てば幸いです。そして、モダン・カンポウの立ち位置からカンポウの世界に入り、是非、漢方の神髄に少しでも近づいていただければ本望です。
第①章 規範
1. 西洋医が西洋医学の補完医療として漢方エキス剤で対処する
2. 西洋医学的処方と同じ気持ちで接するとたちまち嫌気がさす
3. 漢方、カンポウ、Kampoどれがいいの?
4. モダン・カンポウにトラディショナル漢方の知恵を
第②章 外来診療での心得
1. 「何か困ることはありますか?」といつも尋ねよう
2. カンポウでは体全体が治ることがあると納得しよう
3. 忙しい外来で腹診を敢えて全員に行う必要はない
4. 脈は必ず診よう、スキンシップの為にも
5. 目標は医師も患者も満足し、でも控えめで ほか
第③章 処方の鉄則
1. 名医ほど少ない処方数で多くの症状に対処する
2. 1剤または相性のよい2剤から、歴史的に有効な組み合わせで
3. まず4週間処方して、判断しよう
4. 1日3回適当に飲む、2回でも結構有効
5. 「西洋薬剤は続行ですよ、くれぐれも止めないで下さい」 ほか
第④章 処方選択の鉄則
1. 「フローチャート漢方薬治療」を活用しよう、ⅰPhoneアプリも
2. 手元にある処方で頑張ろう、限られた処方でも結構治る
3. 風邪で勉強しよう、自分や家族に適切な漢方薬を知ろう
4. 風邪のカンポウ、他にもいろいろ
5. どちらか悩めば、虚証用の漢方薬を処方しよう ほか
第⑤章 副作用の鉄則
1. 「何かあれば中止ですよ」
2. 漢方薬でも死亡例はある
3. 原因不明の症状で入院したらともかくカンポウは中止
4. 麻黄剤では血圧が上がることも、狭心症にも注意
5. 麻黄では尿閉も起こりうる ほか
第⑥章 効果増強の鉄則
1. 西洋医学的な考え方と同じで、内服回数を増やそう
2. 内服回数は同じで薬の効果(薬力)が強いものを使用する
3. 敢えて麻黄剤を併用する
4. 副作用のない脇役を加える
5. 附子の併用、1g/日で増量し6g/日までは基本的に安全 ほか
第⑦章 思いつかない時の鉄則
1. 治せるものから治してみよう
2. 腹診で処方のヒントが得られる ほか
第⑧章 効かない時の鉄則
1. 虚実を間違えていないか疑おう、思い込みは禁物、試してみればいい
2. 気の巡りが良さそうに見えても香蘇散(70)や半夏厚朴湯(16)を試そう
3. 虚証の葛根湯(1)ともいわれる、真武湯(30)を試そう
4. 「怪病は水の変」わからない訴えは水毒を疑おう ほか
第⑨章 更なる勉強のヒント
1. 漢方のアナログ感に慣れること、現代医学は特にデジタル化している
2. 漢方はコンセンサスガイドラインの集積と叡智の結晶
3. コンセンサスガイドラインには誤りもある
4. 最初は白紙で、ステップアップでは批判的に
5. 漢方薬は江戸時代の寿命延長にはあまり役に立たなかった? ほか
第⑩章 漢方理論をクリアに
1. 漢方理論や腹診は荒唐無稽か
2. 実証と虚証をできるだけ簡単に、筋肉量と消化機能に比例する
3. 実証と虚証の臨床応用、相対的なもの、実証は我慢もできる
4. 実証は抵病力があり症状や反応が出やすい
5. 陰陽と寒熱はほぼ同じ、デジタルでは理解できない ほか
第⑪章 カンポウの進化と未来
1. カンポウが当たり前の医療に
2. モダン・カンポウへのパラダイムシフト、立ち位置の変化を知ると楽になる
3. 漢方のRCT研究は必要だが、正しく漢方の魅力を説明する必要がある
4. 保険適応漢方エキス剤の使用が広がれば医療費の削減につながる?
5. 煎じ薬とエキス剤どちらがいいの? ほか
第⑫章 カンポウQ & A
一般臨床において
Q 1 安全に処方するコツはありますか?
Q 2 お話のコツはありますか?
Q 3 再診はいつ頃がよいですか?
Q 4 漢方薬続行の判断はどのようにしたらよいでしょうか?
Q 5 子どもの投与量はどうしたらよいでしょうか?
Q 6 大人での投与量はどうしたらよいでしょうか?
Q 7 漢方エキス剤の飲み方について教えて下さい
Q 8 反対の効果に効くとききましたが本当ですか?
Q 9 軽快後の漢方薬の投与期間について教えて下さい
Q10 漢方薬をずっと飲み続けてもよいですか?
Q11 顆粒が飲めないときにはどうしたらよいでしょうか?
Q12 麻黄のムカムカはいつ起こるのですか?
Q13 お酒と一緒に飲んでもよいですか?
Q14 西洋薬と漢方薬を併用する場合、注意を要するものは何ですか?
Q15 甘草含有製剤による副作用が起こりやすい状態は?
Q16 間質性肺炎の注意点は?
Q17 黄苓のみが間質性肺炎の原因でしょうか?
Q18 麻黄剤は緑内障に禁忌なのですか?
Q19 漢方薬で検査値が異常になることはありますか?
Q20 漢方のカロリーはどのくらいですか?
Q21 ナトリウム含有量はどのくらいですか?
Q22 カリウム含有量はどのくらいですか?
Q23 漢方薬とワルファリンの相互作用について教えて下さい
Q24 なぜ乳糖でもアレルギーが起きるのですか?
Q25 煎じ薬と漢方エキス剤はどちらが有効ですか?
一般的なことについて
Q26 学生への教育について教えて下さい
Q27 中国での漢方エキス剤の普及について教えて下さい
Q28 漢方と言われるようになったのはどうしてですか?
Q29 同じ処方名でも日本と中国で生薬量が異なるのはなぜですか?
漢方薬に関する医療行政的な位置から
Q30 医療用漢方エキス剤は通販では買えないのですか?
Q31 漢方製剤はなぜ臨床試験なしで承認を受けたのですか?
Q32 漢方エキス剤が煎じ薬と同等性があるとはどういう意味ですか?
Q33 メーカーによって効能効果が異なるのはなぜですか?
Q34 メーカーで生薬の配合比率が異なることがあるのはなぜですか?
Q35 一般用漢方処方の手引きとは何ですか?
Q36 錠剤やカプセルなどの他の剤型をつくるためには?
Q37 煎じ薬に健康保険は効くのでしょうか?
Q38 承認外使用方法について教えて下さい
Q39 保険適応外使用方法について教えて下さい
Q40 処方せんの書き方について教えて下さい
Q41 医薬品と食べものの違いは法律上どのように規定されていますか?
漢方エキス剤製造メーカーの立場から
Q42 製品番号の付け方に意味はあるのでしょうか?
Q43 OTC用漢方製剤と医療用エキス末の違いはありますか?
Q44 医薬品製造販売指針で代用可能なものはありますか?
Q45 ツムラの芒硝は、実は無水硫酸ナトリウムって本当ですか?
Q46 桂枝湯など処方名は桂枝なのになぜ桂皮を使用しているのですか?
Q47 ツムラの膠飴は、実は粉末飴って本当ですか?
Q48 乾姜・生姜の使い分けはどうなっているのですか?
Q49 白朮・蒼朮の使い分けはどうなっているのですか?
Q50 修治はどのようにしているのですか?
Q51 漢方エキス剤の1日量が処方により異なるのはなぜですか?
Q52 光、温度に対する安定性について教えて下さい
Q53 グリチルリチンやエフェドリンの含量は?
Q54 漢方エキス剤服用後の生薬成分の血中濃度は?
Q55 企業努力にも限界が?