精神科作業療法の臨床を行うコメディカルのための研究イロハ。初心者向けにたいへんわかりやすい解説書となりました。
はじめに
「精神科作業療法の研究をしてみよう」と思い立ったとき,さて何から始めたらよいでしょうか? まずは研究計画ですが,すぐに具体的な研究計画が思いつくでしょうか? 日常の作業療法の経験から研究に関する多くのヒントが得られます。しかし,どこまでが既に報告されていることで,どこからがまだ報告されていないことなのか,きちんと線引きすることができないと,新知見(英語でnew findings,ドイツ語でNeues)が何なのかわかりません。臨床研究の目的は患者さんの治療や社会復帰に貢献することですが,新知見を報告することで進歩が得られるのです。したがって,先行研究をよく知ることは新知見を見定める上で大切なことです。さらに,先行研究を読み解くことで,その新知見を得るための研究計画も想定できます。そうは言っても,日常診療で忙しく,精神科作業療法の文献,とくに英語文献に目を通す暇がない方も多いのではないでしょうか? この本では,「精神科作業療法の海外文献」をわかりやすく紹介しています。そこからヒントを得て,研究に着手することもできるでしょう。
次に,研究計画ができたとしても,研究方法や解析方法がすぐに浮かんでくるでしょうか? 精神科作業療法の研究をする際に,その効果や成果について数値化し,結果として表現することは難しいと耳にすることが多くあります。しかし,作業療法士が効果を実感している部分はありませんか? 難しいからといってせっかく得られた効果を放置しておくのはもったいないですね。"研究"というと何か難しいことのようで,敬遠してしまう人も多いかもしれませんが,簡便な方法で調査できるとしたらどうでしょう。結果を得られれば,あとは解析して論文としてまとめることができます。そのために,この本では,「精神科作業療法に関して簡単にできる研究の例」を挙げ,「統計解析の解説」もわかりやすく行いました。
最後に,「音楽療法」について少し詳しく説明し,「精神疾患に関する最新の知識」も盛り込んでみました。
最初から順に読むこともできますが,途中から必要な部分だけ読んでも結構です。この本が,皆さんのお役に立つことを祈念しております。
山下 瞳
はじめに
第1章 精神科作業療法に関して簡単にできる研究の例
第2章 統計や研究の解説
A t検定(ティー検定)
B χ2検定(カイ二乗検定)
C 分散分析
D 相関と回帰
E 無作為割り付け比較対照試験(RCT)
F メタ解析
G 治療効果発現必要症例数(Number Needed to Treat:NNT)
H 過誤
第3章 精神科作業療法の海外文献
A 運動
B ヨガ
C 芸術療法
D 園芸療法
E 作業療法
F その他
第4章 音楽療法
A 音楽療法とは
B 音楽療法の歴史
C 音楽療法の原理と期待される効果
D 音楽療法の実際
E 私たちの行った実践と研究について
F 慢性統合失調症患者の抑うつ症状に対する集団音楽療法の効果
G 作業療法における音楽活動と,音楽療法士による音楽療法の比較
第5章 精神疾患に関する最新の知識
A 統合失調症の病態生理仮説
B 統合失調症の治療
C 統合失調症患者の就労支援
D 従来型うつ病と新型うつ病
E 双極スペクトラムと双極性うつ病
F 双極性障害になりやすい気質
G 双極性障害と生活習慣
おわりに
文献
索引