ケースに学ぶ心理学 交流分析のサイコセラピー

筒井末春(東邦大学・人間総合科学大学 名誉教授):監修
島田凉子(人間総合科学大学人間科学部 教授):著者

2016年発行 A5判 112頁
定価(本体価格2,400円+税)
9784880028590

内容の説明

交流分析(TA)における心理療法理論を具体例を示しながら、よりわかりやすく解説した珠玉の1冊。心理的問題を抱えたクライエントたちとの体験をどう受け止め、どう生かせばよいのかという、思考を深めるノウハウを追究。特に関係性アプローチに、より多くの具体例を示した。サイコセラピストはもちろん、広く心理療法を学び、実践する人に役立ててほしい。

監修にあたって

 島田先生とは1994年4月東邦大学医学部心身医学講座の非常勤研究生として採用されたのが,小生との出会いの始まりである。
 その後小生が東邦大学を退職後,2000年4月に新しい通信制大学として設立された人間総合科学大学に移り,その際同大学人間科学部助教授として先生を迎えたのち,2007年4月より同大学大学院研究科教授となり今日に及んでいる。先生は1983年に文学修士の資格,2011年には医学博士の資格を取得している。
 したがって先生とは今日まで20年以上にわたり2つの大学を通じて交流したことになるが,先生は自身の研究活動はもちろんのこと,大学生および大学院生の教育・研究にも熱心に取り組み実績を挙げている。
 今回,勤務されている人間総合科学大学および大学院で専門の科目である「交流分析」を理解・実践する立場から,新しい展開も含めて「副読本」としても十分役立つ学術書を上梓する運びとなった。
 先生は2013年8月には第38回日本交流分析学会会長としても活躍され,その際同時に日本で初めて開催された2013 ITAA(International Transactional Analysis Associationの略)国際大会でもその運営・プログラム作成を含め尽力され,大きな成果をおさめている。
 今回出版された学術書は「ケースに学ぶ心理学 交流分析のサイコセラピー」と題するもので,これまでの実績をふまえ未来に向けて発信する交流分析(TA)のエッセンスが記述されている。内容は第1章 TAとは 第2章 古典的TA 第3章 再決断療法 第4章 関係性TA 等の項目に分けられているが,そのなかで特に「関係性TA」の項目について多くの具体例を示し解説を加えているのが特徴である。
 本書はこれから臨床心理士を目指す人はもちろんのこと,医療の場を含め臨床心理に携わるコ・ワーカーをはじめ,自己理解を深め社会生活を円滑に行ううえで役立つTAを実践している方々に対して,特に治療関係を考える際に役立つ内容が盛り込まれている。
 臨床心理の分野で活躍する方々は今後ますます増加する傾向にあり,その背景として臨床心理士の国家資格化が実現する運びとなった。その期待も込めて本書が活用され多くの方々の目に触れ,TAの勉学や実践の一助として役立つことを願って止まない。

東邦大学・人間総合科学大学 名誉教授

筒井末春

2016年3月

はじめに

 本書は,交流分析(Transactional Analysis:TA)における心理療法(サイコセラピー)理論について,具体例を用いて解説するものであるが,TAセラピストだけでなく,広く心理療法を学び,実践する人の役に立つことを目指している。TAの出発点である精神分析や発展過程で影響を受けてきた他の学派の理論にも触れつつ,TAにおける心理療法理論の変遷をたどり,人の変容を促進する治癒要因について考える。ケースを想定して解説することを通し,サイコセラピストとして,心理的問題を抱えたクライエント達との体験をどう受けとめ,どうセラピーに生かすかについての考えを深めたい。
 TAについての予備知識を持っていなくても読み進むことができるよう,TAの基本理論や主要概念については他の重要な心理学用語等とともに,簡単な解説を付した。
 なお,TAの各理論は,“Transactional Analysis Journal”等に掲載された論文において最初の着想が発表され,その後の変遷を経て次第に形成されていったものも多い。煩雑さを避けるため,文献としてはなるべく初出か代表的な論文を挙げ,さらにそれらの論文がまとめて所収された単行本が出版されている場合には併せて記載した。
 なお,ケースはすべて筆者のセラピストとしての体験を素材として創作したものである。

おもな目次

CONTENTS
監修にあたって 3
はじめに 5


第1章 TAとは 9
第2章 古典的TA 14
1.バーン派のTA classical school 14
2.4つの基本理論 15
①「自我状態 ego-state」分析 15
a.構造分析 15
b.機能分析 17
②「交流(やりとり) transaction」分析 18
a.平行交流(相補交流) 18
b.交叉(交差)交流 19
c.裏面交流 19
③「ゲーム game」分析 21
④「脚本 script」分析 24
3.汚染解除 decontamination 26
4.バーンによる8つのセラピー操作 therapeutic operations 28
a.質問 interrogation 28
b.特定化 specification 28
c.直面化 confrontation 28
d.説明 explanation 28
e.例証 illustration 29
f.確認 confirmation 29
g.解釈 interpretation 29
h.結晶化 crystallization 29
5.バーンによる8つのセラピー操作を適用した具体例 29
①ケース1 Aさん 29
②解説 33
第3章 再決断療法 redecsion therapy 35
1.再決断療法とは 35
2.契約と主体性 36
3.ゲーム=投影同一視(化)と,再決断療法 38
4.再決断療法におけるセラピストの役割 39
5.再決断療法のプロセス 41
6.再決断療法の適用 41
7.再決断療法の具体例 43
①ケース2 Bさん 43
②解説 50
8.再決断療法・チェアワークの具体例 52
①ケース3 Cさん 52
②解説 58
9.「美女と野獣」か「カエル王子」か 59
10.再決断療法・チェアワークの失敗 66
①ケース4 Dさん 66
②解説 66
第4章 関係性TA relational TA 69
1.関係性TAとは 69
2.<C>の混乱とスキゾイド・プロセス 71
3.混乱解除 deconfusion 75
4.セラピストの体験とセラピーのプロセス 76
5.関係性アプローチの実際 79
①セラピストの感覚を使う ケース5 Eさん 80
②セラピストの自己開示 ケース6 Fさん 80
③メンタライゼーション ケース7 Gさん 81
④「共感」の困難さ ケース8 Hさん 85
a.ゲーム 86
b.スーパービジョン 87
c.パラレル・プロセス 89
d.セラピストの変容 91
第5章 人格適応論を用いたケースの見立て 95
1.人格適応とは 95
①生き残るための人格適応(0~18ヵ月の間に身につけた人格) 95
a.スキゾイド的 95
b.パラノイド的 96
c.反社会的 96
②行動上の人格適応(18ヵ月~6歳の間に身につけた人格) 96
a.受動攻撃的 96
b.強迫的 96
c.演技的 96
2.人格適応論の視点を含めたHさんの見立て 96
まとめ 98
付録 99
文献 101
あとがき,謝辞 105
INDEX 108