失語症や認知症の研究において、いま最も注目されているテーマ「進行性失語」を取り上げ、各症候についてさまざまな視点から解説した!
詳細な障害メカニズム、臨床診断や病理診断への鍵を担う下位分類の診断、介入方法などについて、本領域について精通した著者が詳しく解説している。
進行性失語の全体像を把握できる、これまでにない一冊である。「進行性失語」に対する理解が深まる必携書。
はじめに
原発性進行性失語(以下,進行性失語)は失語症の研究においても,認知症の研究においても,今や最も関心が高く熱心な議論が繰り広げられているテーマである。その状況は国内外を問わず,PubMedには当該領域の新しい欧米文献が日々加わっているし,日本高次脳機能障害学会や日本神経心理学会の中でも,最近は最も演題数の多い分野になっている。こうした状況の中で,2018年12月に神戸で開催された第42回日本高次脳機能障害学会学術総会サテライト・セミナーで「進行性失語」が取り上げられたのは,ある意味当然でもあったが,誠に時宜を得た企画であった。
予想通り,受講申し込み者が殺到しキャンセル待ちも多く出たが,会場の都合でお断りせざるを得なかったのは残念なことであった。各演者は渾身の力で自身の講演を作り上げ,その講演を受講者全員が熱心に聞き入っている姿が非常に印象的であった。受講者の中にはすでに有名になられた神経心理学者も相当数おられ,的確な質問やその応答も会場を盛り上げた。
本書はそれらのサテライト・セミナーの講演を核に各演者に執筆をお願いするとともに,講演以外の項目も多少付け加えて編纂された「進行性失語」のモノグラフである。各執筆者の努力によって,この領域に関する限り,現時点では最もすぐれた書物になっていると自負している。最初から全編をじっくり読み上げられても,興味のある項目だけを拾い読みされても,必ずや今後の診療に役立つ情報が得られることと確信している。特に認知症や失語症の診療に携わっている人には,是非ともこの一冊を書架に加えていただくことを希望する。
ただ,この領域はまさに日進月歩の勢いで変化している領域でもある。今認められている診断基準もいずれ改訂されることが予想される。新しい病理所見や遺伝子異常の発見によって,新規の疾患単位の出現さえあり得る領域である。現時点で正しいと信じられていることが,今後も正しいとは限らないのである。したがって,読者はこの書物に書いてあることを無批判に鵜呑みにはせず,むしろ批判的な目で内容を吟味していただきたいとも思う。この本の読者が,本の内容とはまったく異なる斬新な考えを発表されることも期待され,編者としてはそれを願っている。しかし,この領域に現在最も精通した各執筆者の考えを読み込んでいただき,現時点での到達地点を正しく把握していただくことは,今後の診療や研究において決して無駄にはならないであろう。
なお,細かいことを言えば,現時点でも各執筆者の考え方がすべて同じというわけではない。用語の使い方も完全には一致していない。編者としてはそれを無理に統一することはせず,各執筆者の意見や用語の使い方をそのまま採用した。用語の使い方そのものに執筆者の考えが浮き彫りにされていることも多いからである。
最後に,日本高次脳機能障害学会教育・研修委員会の委員長として,このセミナーの最初の企画から講演者の選定まで関わっていただき,細かいご指導と配慮をいただいた川崎医療福祉大学の種村純教授に深い感謝の意を表します。
(清山会医療福祉グループ 顧問,いずみの杜診療所 松田 実)
第Ⅰ章 進行性失語の概念と認知症の言語症状
1. 進行性失語の概念と歴史 大槻美佳
2. アルツハイマー病と前頭側頭型認知症の言語症状 繁信和恵
3. 変性疾患診療における言語評価の意義 松田 実
第Ⅱ章 進行性失語の臨床型
1. 進行性非流暢性失語(PNFA) 小森憲治郎
2. 意味性認知症(SD) 川勝 忍,小林良太
3. Logopenic型進行性失語 船山道隆
4. 3類型以外の進行性失語 松田 実
第Ⅲ章 評価とリハビリテーション(言語聴覚士の立場から)
1. 評価とリハビリテーション 中川良尚
2. 心理的支援と社会的支援 中島明日佳