フローチャート整形外科漢方薬
西洋医学にプラスするだけ

武藤芳照(一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長、東京大学名誉教授):監修
新見正則(オックスフォード大学医学博士、新見正則医院院長、日本スポーツ協会公認スポーツドクター):著
Dr.Tこと、冨澤英明(東京蒲田病院整形外科部長):著

2023年5月25日発行 B6変型判 200頁 2色刷
定価(本体価格3,500円+税)消費税10%込(3,850円)
ISBN 9784880028989

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内容の説明

整形外科の痛みにもう1つの武器!

治りきらない症状に困っている患者さんの相談に、激烈な痛みを伴う整形外科の患者さんに、漢方薬が役に立ちます!
鎮痛薬だけでは治しきれないさまざまな訴え、痛み、炎症などに漢方薬で対応しましょう。時間をかけずに簡単に処方できるフローチャートで、ただ我慢していただくしかなかった患者さんがぐっと楽になることがあります。どうして今まで処方していなかったのか、使ってみれば、驚きます。

監修の言葉

 「情理を尽くす」という言葉があります.人間らしい感情(human)と物事の道理(science)を大切にして,それぞれの課題に対応することを意味しています.情が過ぎて,理を軽視・無視すれば,効果がないばかりか,かえって害をきたすことがあります.一方,理が過ぎて人の気持ちを軽視・無視すれば,かえって心を傷つけてしまうことがあります.
 本書は,一連の「モダン・カンポウ」シリーズの整形外科編として企画・制作されました.西洋医学の外科医として長年の国内外の臨床経験と学術研究の実践を有し,「モダン・カンポウ」の提唱者・実践家である新見医師の理論体系を基盤に,関西および都内の第一線の整形外科医として豊かな臨床経験を有し,今も数多くの手術を手がけているベテランの冨澤医師が協働で構成・執筆した書です.お2人の患者さんへの温かなまなざしと明朗闊達なお人柄が重なって,まさしく「情理を尽くす」医学書として生み出されました.
 かつて「蘭方」と称された西洋医学と医療が本格的に導入されて以来,「漢方」は,難解で近寄り難く,時には「妖怪」(新見医師)のような存在として敬遠されてきた歴史があったことは確かであり,今もそのような思いを抱いている医療従事者もいることでしょう.
 「モダン・カンポウ」は一言で表わせば,「むずかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをおもしろく」(作家・井上ひさし)語り伝え広め,日本の医療の幅を広げ,より心温かで,信頼される医療現場にしよう,という新見医師の熱い思いと鋭い感性の結実といえる治療体系ととらえています.
 新見医師の漢方の恩師であり,東洋医学の泰斗である松田邦夫医師が強調される漢方の定石が守られつつも,思いきった新たな方式で,柔軟でより実践しやすいこの処方のフローチャートが,臨床の各科に応用されつつあります.
 わび茶を完成した千利休の教えを和歌の形式にまとめた『利休道歌』の1つに「規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」とあり,「守・破・離」の原典とされています.
 本書に記載された漢方も,基本は守りつつ,大胆な発想と柔軟な姿勢で破り,離れてはいますが,本来あるべき医療の基本姿勢は保たれているのです.
 整形外科学は,運動器の専門医学です.運動器は,身体の表現系の器官です.本書が,1人ひとりの患者さんが「動く喜び 動ける幸せ」(公益財団法人運動器の健康・日本協会の標語)を実感でき,人生の希望が生まれるような医療の実現に役立つことを切に願っています.

2023年3月

一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所 代表理事・所長
東京大学名誉教授
武藤 芳照

序に代えて

 フローチャートシリーズの第1弾『フローチャート漢方薬治療』が世に出て12年が経ちます.漢方理論も漢方診療も基本的には不要という立場で,西洋医が今困っている患者さんに保険適用漢方エキス剤を処方する方法をフローチャートで示した書籍です.この書籍がシリーズとなり,12年後のいまでも増刷を繰り返すことになるとは,著者も出版社も想像していませんでした.多くの西洋医の先生方のサポートがあったお陰です.漢方薬を,漢方を極めた専門家だけのものにしていては未来がないと,僕は思っています.それ以上に,今困っている患者さんが可哀想です.漢方薬の難しい理論を知らずに,フローチャート的に処方しても患者さんの多くは症状が良くなり,そして治るからです.西洋医学以外の保険適用の治療として,漢方薬が使えます.エビデンスがないという理由から,漢方薬を否定する先生方の数はここ数年で激減しました.その理由は使ってみれば効くことがあると腑に落ちるからです.せっかく保険診療として認められている漢方薬です.漢方が嫌いでも,漢方にまったく興味がなくても,是非ともこの書籍を手に,使ってみてください.
 僕が必死に漢方を勉強している頃,漢方診療の重要性を証明したく思っていたので,漢方診療を行う群と行わない群とのランダム化比較試験を実施して,漢方診療を行う群が勝ち抜くことを期待していました.そのためには,まず臨床試験のコントロール群を作る必要があったので,漢方診療なしで症状から導き出された処方を集めたのです.それが『フローチャート漢方薬治療』の始まりでした.さらに,師匠の松田邦夫先生からは「大塚敬節先生の陪席をして,しばらくすると私はほぼ先生の処方を当てることができた」と伺いました.続けて松田先生に「その後に漢方診療を行って,処方が変更されることはどのくらいありましたか?」とお尋ねすると,即座に「1割」とお答えになりました.その時「漢方診療を行わなくても9割の処方が導き出せるのであれば,西洋医にとっては,そして初心者にとっては,それで十分だ!」と思ったのです.
 松田邦夫先生に敬意を表して書き添えますと,松田先生は上記のご発言のあと,さらに「漢方診療を行って変更した処方が,変更前の処方よりも良いという証拠はありません」とも仰いました.とてもサイエンティフィックなお言葉で,今でもその時の感激は忘れられません.明らかなエビデンスが少ない漢方だからこそ,盲目的に信じるのではなく,批判的立ち位置で処方を観察することが必須だと思います.
 本書では併用処方が多く,新しい作戦が含まれています.いままでのフローチャートシリーズを踏襲しつつも,進化を感じます.大切なことは,患者さんが治ることです.その事実の積み重ねがあって,その後に処方選択に役立つ理論が,仮想病理概念が,登場するのです.理論が先走ってしまうと,特に漢方の世界ではまったく有益ではありません.実臨床が第1なのです.
 ようこそ,フローチャート漢方薬の世界に!

2023年3月

新見 正則

おもな目次

監修の言葉 武藤芳照
序に代えて 新見正則
本書の使い方 新見正則

モダン・カンポウの基本 新見正則

西洋医のためのモダン・カンポウ 16
漢方薬の副作用 17
漢方ビギナーの先生へ 23
整形外科の漢方薬 29
整形外科で漢方薬を併用する時は 30
整形外科御用達 3剤の併用例 31
整形外科 頻用15処方 32
次世代漢方への期待 33
整形外科漢方薬早見表 36

フローチャート整形外科 Dr. Tこと,冨澤英明

運動器を扱うすべての方へ 40

基本の処方
 筋肉・関節の基本処方 42
 骨損傷の基本処方 43
 けいれんの筋肉痛 44
 筋肉の引っ張られる痛み 45
 急性期最強の痛み止め 46
 筋肉の痛み止め 47
 慢性期の痛み止め 48
 神経浮腫 49
 神経障害性疼痛 50
 心因性疼痛 51
 冷え症がある人の血行不良 52
 生活習慣病がある人の血行不良 53

外傷
 打撲 54
 皮下血腫 56
 出血しやすい傷 57
 筋肉の損傷,肉離れ 58
 捻挫 60
 脱臼 62
 骨折の手術適応 63
 骨折の保存療法 64

後遺症
 瘢痕・色素沈着 66
 うまく歩けない 68
 偽関節(骨折が治りきらない) 69
 CRPS・帯状疱疹後神経痛 70
 外傷後の拘縮 72

炎症
 腱鞘炎 74
 偽痛風・痛風 76
 関節リウマチ・膠原病による関節炎 78
 リウマチ性多発筋痛症・脊椎関節炎 80
 創部感染(皮下まで) 82
 化膿性関節炎 85
 骨髄炎 86

肩・胸郭
 肋骨骨折 88
 原因不明の胸背部痛 90
 鎖骨骨折 91
 肩こり 92
 急性期の肩関節周囲炎(いわゆる五十肩) 94
 慢性期の肩関節周囲炎(いわゆる五十肩) 96
 訴えの多い肩関節周囲炎(いわゆる五十肩) 98

上肢
 テニス肘・ゴルフ肘(上腕顆部筋腱付着部炎) 100
 肘部管症候群・手根管症候群 102
 橈骨神経麻痺 104
 ばね指 106
 へバーデン結節・ブシャール結節・母指CM関節症 108
 デュピュイトラン拘縮 111

下肢
 変形性関節症 112
 変形性関節症(心因性による増悪) 114
 末期の変形性関節症 116
 骨壊死・骨挫傷を合併した変形性関節症 118
 足底筋膜炎 119
 慢性の関節水腫・ベーカーのう腫・滑液包炎 120

頚・胸椎
 寝違え(頚部の筋膜炎) 122
 軽症の頚椎捻挫(筋損傷のみ) 124
 重症の頚椎捻挫・神経損傷(骨にも及ぶ) 126
 頚椎捻挫後の疼痛残存(心因性) 128
 首下がり症候群(首まわりの加齢による筋力低下) 131

腰仙椎
 筋筋膜性腰痛症(いわゆるぎっくり腰) 132
 がっちりタイプの慢性腰痛症 134
 華奢タイプの慢性腰痛症 136
 腰椎椎間板ヘルニア 138
 腰部脊柱菅狭窄症 140
 椎体圧迫骨折 142
 仙骨・尾骨骨折 144

スポーツ
 打撲および関節のスポーツ外傷 146
 子どものスポーツ外傷による骨折 148
 骨端症 151
 脛骨過労性骨膜炎(シンスプリント) 152
 成長痛(小児の斜頚急性期にも) 155
 虚弱な若年女子の外傷 156

周術期
 術前ルーチン 158
 術後ルーチン 160
 頚椎・肩関節の術後 162
 腱縫合術後 163
 術後のリハビリ 164
 下肢の虚血・壊疽での切断術 166

高齢者
 ロコモティブシンドローム・サルコペニア・フレイル 168
 高齢者の下肢の痛み 170
 高齢者の骨折入院(急性~亜急性期) 172
 高齢者の入院&リハビリ 174

病棟
 食欲不振 176
 消化器症状 178
 不眠・不穏 180
 褥瘡 182
 かぜ 184

あとがき 187
参考文献 189
索引 192